第10話 勝負の行方
「必殺ーッ!風鈴ー剣ん!」
ザシュッ!
ギャリィーーン!リーン!リーン・・・ ブシッ!
「いやあぁーーっ!」
なんて綺麗な音なんだ、人殺しの道具なのにどうしてこんなにも濁りなく澄んだ音が出るのだろう?
自身の大量の出血に朦朧としながらも、満はそんなことを考えていた。
空が果てしなく青かった、どこまでも続くような透き通るような青に思えた。
【ステテコ親父】と交差した後、満は藤林小学校の校庭に大の字に倒れていた。
「左首筋から・・胸部、痛ッ右わき腹が物凄く・・痛い!」
(そりゃそーだろうよっ!ド素人が体術の達人相手に真っ向勝負したんだからなっ!おかげでバッサリ斬られたぜっ!)
「!?・・斬られた!死ぬのかボクは・・美月ごめんな。」
(バカ言ってんじゃねぇ!さっさと起きやがれっ!満!!どんなに鋭利な武器だろうが何だろうが俺たちHi-ps 細胞をもつ超能体がただ切られたぐらいで簡単に死ねるわけねーだろ、もう止血も増血処置もついでに回復も済んでる。ハードな戦闘以外なら何でも出来らぁ。)
「お前には男のロマンってもんが分からないのかよっ!」
(いい思いもせずに、自分だけが割り食って死ぬロマンなんて全然分かりたくもねーよ。まだ最後の仕事が・・残ってんぞ。)
「分かったよ、起きるよ。」
HE-MAN はおもむろに校庭から起き上がるとスタスタと無造作に歩いて離れて倒れ伏している【ステテコ親父】の所へ様子を見に行った。
「ぱぱッしっかりしてッお願いよ!こんな世界に一人きりにしないでッ!」
キニーがサポート能力のひとつなのだろう、【ステテコ親父】の
右首すじにボクが必死の思いで付けたかすり傷のような爪切創にくちびるを寄せて今度は回復エナジーなのか?を与え続けていたがどす黒く浮き出た血管や荒い乱れた呼吸をみてもとても【ステテコ親父】の状態が好転しそうには見えなかった。
「こんなかすり傷が・・どうして?治らないの?」
キニーは必死に治療に集中し額に玉の汗を・・瞳に涙を浮かべて懸命に努力するが・・オヤジの顔色は増々土気色になり反応も弱くなってゆく。
(そりゃそうだ、能力を合わせるのに苦労したんだぜ。【ミミィ】の自在クローとリハイドレイターを合わせるのはよ。
敵の体内で組織を破壊しながら、致命的な毒物を産出してダメージを与えるんだ・・どうだ。)
「どうだ?」
キニーの後ろから緊張や重大さのカケラもなく銀色の身体に赤の縁取りやラインを取り入れたコスチュームの赤いマフラーの太った男?が声を掛ける。
ヘルメットの真っ黒なバイザーのせいで表情は全く読めないが、さっきの時と違いすでに敵意は無いらしい。
その男が電子音まじりのボイチェンの合成音声で優しげな様子で心配そうにたずねてきたのだ。
【
「あなたがした事なのに・・『どうだ?』もなにもないでしょうに。ぱぱに一体何をしたの?あなたの方がキズがはるかに深かったのになぜ死なないの?」
HE-MAN は無言で立っていたが、踏ん切りがついたのか淡々と話し出したが、キニーの質問の返答では無かった。
「まずひとつ言っておく、お前がボクたちに抗うのなら今殺す。
中立でいるなら生きていく上での援助はする。どうする?」
キニーはすべてをあきらめたように銀の男に話す。
「こうなっては『どうする?』もなにも無いわ・・。たとえあの時のようにしろと言われてもわたしはもうあなたには逆らえない。わたしからすべてを奪おうが、踏みにじろうが勝手よ・・。」
とは言ったが柔らかな唇から赤いものがにじむほど食いしばり、力が入ったのは本人にもどうしようもない事だった。
「よし、なら次は【ステテコ親父】、あんたはどうする?」
「「?!」」
(?!満ッマジ正気か?戦闘用DQNer 相手に許すって言うのか?
取引なんて可能だと思ってでもいるのか?)
「う、お、お前・・なに・・考え・・る」
「別に、ただ厄介な口悪いガキンチョが生活線上に現れてボクが面倒を見なきゃいけないのはとってもやだな・・と思って。」
「ムッキーーッ!黒髪スレンダー美少女を亀甲縛りで手籠めにして、あんな事やこんな事させて飼いたくないのあんたってばっ!それでも男?ホントに役立つ立派なち〇こついてんのッ?」
「さっき・・見たろ。」
「・・。」
また、真っ赤になり言葉が無くなる【
「ぶ、ははっ ごふっ お互い素直・・1番だ。わしは条件次第で野良快人・・お前の味方に、くっ・・なるぜ! ごふっ!」
吐血した【ステテコ親父】の様子を見て満はあわてて頭部に手をかざしてオヤジの体内で破壊活動に邁進するHi-ps 細胞に停止する様に指令を与えた。
「おおっすげぇなHE-MAN 、痛みが一瞬で消えたぜ。」
「どーも・・!あっと、油断すんなッ!逆も出来んだかんなッ」
HE-MAN の脅しに【ステテコ親父】はニャッとニヒルに笑いかけて片手を『了解!』とでもいうように軽く挙げた。
「これからのアテはあるのか?」
いかにも興味なさげにHE-MAN が【ステテコ親父】に問う。
「生前の道場の知り合いもいるし、そのつながりで官憲なんかも知人に多い。すぐに解剖されはせんだろうよ。」
オヤジは銀色のしなやかな細身の娘を抱き寄せ肩の上に乗せる。
「きゃっ!」
「ま、これをお前ん所に送った時に返品されねーように嫁入り修行もちゃんとさせとく、その頃にはボン・キュ・ボンとなるように願っといてくれ。ガハハハハッ」
「ぱぱ~ッいい加減に・・。」
テレからかキニーの顔はもう真っ赤っかだった。
「分かった、わかったよ・・。じゃあな、少年!良い大人よりも、いい漢になってくれ。」
と、とりあえずエナジー補給と調整のためにベースのある藤林小
の校舎内アジトに戻って出奔するようだ。
「ワハハハハッ!」
父娘は父の豪快な笑い声と共に去った。
「今回は儲けもんだったな・・。(【能力】超高速移動レベル(中))」
ダッ ブンッ
(嫁さん候補か?) ガッ ズザアーーーーーーーーーーーーッ!
満がつい気を抜きかけて加速を掛けたところだからたまらない。
けつまずいて・・こけた。
「(お前、ボクの分身だよねッ何のこと言ってるか分かってるよねぇ・・それともバカなの?ボク心底バカの双子なの?)」
藤林小グラウンドを体表面で穴を掘りうつぶせの倒れたまんまの
姿で脳内ケンカの独り言。
みなが事情を知れば『マジ・ヤベェー奴』認定、確定!大決定!
だろう。
(脳内同居人の身内受けジョークだよ。)
「(わかんねぇーよっ!一番の身内だけど『受け』ねぇーかんな。【ステテコ親父】の細胞・能力モデルを得たおかげで、
風鈴剣と
なった。これは大きいと思う。)」
(ああっそっちはいいが・・。キニーが本当に来たら美月にどう言い訳するかも考えといた方がいいぜ。)
「(あえて、無視してたんだが・・。)」
と脳内雑談をして、こんどこそ本当に【能力】超高速移動レベル(中)で風のように帰ったのだった。
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
シュー シュー シュー
警察病院内V I Pルームエリアの特別ICU内のベッド上にその彼は居た。
京都府警の警察官で元 N-SAT隊第2班 リーダーだった坂巻巡査長だ、先の戦闘で頭部に重い傷を負ったらしく予断を許さない状況のようだった。
そのベッドサイドにつき心配そうに見守るのは20代前半の女医のような雰囲気の女職員ともうひとりのうら若い女性看護士。こちらはようやく20歳そこそこでもあろうか?ふたりはタイプこそ違えど目元や並んだ感じが良く似ていた。
普段より女性に縁が無いと嘆いていた割にはうらやましいほどの美人姉妹の布陣である。
「ブラック・・坂巻 重伍特務巡査長の容体は?」
医師というよりは技術者・研究者の女性に見えるが動きにムダが無い女職員だったが、言動からやっぱり現場に出る実動班のようだ。
問われた若い女性看護士は心配そうにベッド上を見つめたままに
患者の手をにぎりしめて時に冷たく聞こえる声音で姉に答える。
「外傷は皮下裂傷まで、骨に異常なし。意識は混濁、脳波はまだ・・取れません・・。
「隊の規約で部外者には活動内容の詳細は話せないの。たとえあなたが内調の派遣した特務主幹でもね、
断わりながらも姉は妹の
若い看護士はあきらめ、疲れた顔で姉の方に首をふり謝らなくていい事を身振りで示したが、坂巻の入院からもう二日にはなるか?しかし、
緊急連絡の第一報が入った時には名前に驚き、少し期待してバカみたいに浮かれてトキメキもしたのだったが、実際に運ばれて来た坂巻の無残な様子を見て浮かれていた時の自分をゆるせなくなりそうだった。
元の出会いは
しかし、年の差が十ほどあったために心中を言い出せず時が流れた。
でも姉は知っていたはずだ。あたしがまだ『重伍にぃ』をあきらめてはいないことを・・。なのに、同じ部署の同じ班に居ててもそんな話はひと言も事前に伝えてはくれなかった。(うらめしい~。悔しい~!?)
あたしはそう思ったあとでビックリした。今まで生きていて、姉に直接こんな感情をいだいたこと・ぶつけようとした事などほとんど無かったから。(殺意はあった♡)
一方、姉の
(ちょっと合わないうちに、クソ生意気なあたしの大嫌いなメスガキになりやがったッ!昔みたいにツブしてやりたい!)
顔にこそ出なかったが心中ではドロドロした物が渦巻いていそうだった。
一方、妹の
あれは・・夏休みの最後の週、それこそ日増しに美しくなる妹に嫉妬して結果を焦った姉が自分から無理に重伍の唇を奪った。
そのくせに自分こそ被害者だと騒ぎ立てたのだ。
事件を知らされた両親や祖父、祖母は直ちに手をうった。
大事な娘を姉妹で傷モノにされる事を恐れて坂巻さん・・
重伍にぃは資格や地位、権利等未来さえも奪われ里を追われた。
わたし達、姉妹も別々の学校に編入されてしまった。
その点だけは姉に途轍もなく感謝した。
おかげで姉妹で戦うときには楽に殺してやってもいいか?とさえ思えた。
それから学生生活に楽しさや張合いは無くなってしまった。
ホントのこころからの笑顔も重伍にぃさんのために封印した。
そして、卒業して家を出た。
でも、家が影の支配、
その先が全然分からないでいたらコレだ。
よりにもよって姉貴のヤツの側とは爺さま連のする事は・・。
呆れかえるわっ!姉貴は口づけを交わしたので傷モノ同然。
わたしはまだ処女だから他名家の何処へなりとも・・なんてボケ
まくった脳みそで考えてんだろうけど、そーは行きません。
「なにが悲しくて愛した男が目前にいるのに、いまどき
「!?」
さすがに姉が身構えて表情を硬くする。
わたしも軽く構えて姉の手をわたしと重伍さんの手から弾く。
「悪いけど・・先約済みよ。」
姉の得意げな嫌な顔。
「!?うそっ・・誰?・・このひと(坂巻 重伍)じゃないのは知ってる。あの夏休み最後の週の事だって、重伍さんの事なんて
ホントはどーでも良くって・・ただわたしに負けるのが嫌だっただけ。でしょ!」
ギリッ!
「こんな能無しじゃない!隊の長を務める立派なお方よ!」
姉妹でヒートアップしすぎたか姉の声も次第に大きくなる。
「あらっおめでとうお姉さま。でも、うわさでは白が赤にべたべたしてて赤本人は辟易してるってメカ・メンテサービスでは評判でしてよ。うふっ!・・失礼・・お昼食べ過ぎちゃって。」
わたしは恨み重なる姉に対して急所を毒舌でついてやったあげくに姉の何より嫌う下品なマネでゲップの振りをしてさらにいやな気分にしてやった。(大事なわたしの男の生死がかかっている時に能無しだなんてお前もクソビッチじゃないかっ!)
姉が元は美人のうちだろう顔を女怪のように醜く歪ませて怒りを込めて唸る。
「
姉は両手の五指をネコ科の猛獣のようにむきだしにし今にもわたしに襲いかからんばかりに構えた時。
ぴーっ ぴーっ ぴーっ ぴーっ コールの音が当たりに響く!
「はい!ナースです!どうされましたっ!」同僚の加奈の声だ。
「きゃーきゃーとうるっさくて寝れねーんだが、目の前で爪と牙剥きだしてるハーピーかゴルゴンみてーな怪物おんな何とかしてくれ!」と茶目っ気たっぷりの安心できる声がして・・。
加奈の「すぐ行きます!」と言う声にも気がつかなかった。
すぐに来室した武装警備員二名は姉を取り押さえると略礼して連れ出して行った。最後に加奈がウィンクして手を振って意味ありげに笑って去っていった。
部屋に残されたのはふたりきり。
わたしの目の前には、頭に包帯・網キャップ、左目は眼帯で水色
患者着姿のボロボロになったけど大好きな重伍にぃが変わらない優しい目でわたしを見ていてくれた。
「重伍にぃ!」わたしは胸に飛び込む代わりに手を強く握った。
「
「きゃ、・・いやねもう。里の爺さんどもじゃ無いんだから。ボケるのは早いわよ。」
「愛してるよ
「分かってた、わたしも一目で分かった。わたしの夫だぁって
でも重伍にぃヤバくない。10歳に欲情する高1って・・ろり
じゃん!お巡りさーん、ココ!ココにいまーす!」
ガバッ
「きゃっ」もう普通に半身を起こして腰から抱きしめられた。
「おうっ、お巡りさんは俺だ。しかも一生おまえ専属だ。」
わたしは監視カメラで加奈や警備員に見られているのを知っていたのですでに真っ赤っかになっていた。
(でないと、あんなにいいタイミングに来れる訳がないのだ。)
「ば、ばかなんだから・・でも・・逮捕して。一生・・。」
わたしは声をひそめて顔を重伍にぃの胸に埋めてカメラをさけた。
「おうっ。」お気楽な重伍にぃはご機嫌だったが、このあとで
半年は周囲のメンバーから「あたしも逮捕してぇ♡」とか「巡査長~俺?も逮捕して下さい!」とからかわれる事になるのだ。
(ちなみに姉と入れ代わりわたしが政府特務部隊『
次回予告
政府特務部隊『
「HE−MAN」満の敵か味方か?
【
DQN達も忘れるな!
次は何?快人だー!
わくわく第11話
レッツ!リハイドレイト!!
って今更だよね・・。
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