第9話 DQNの父娘

「まあ待て、少年?なのだろう・・。いつ、どこの世も理想に燃えて世界の矛盾の犠牲となるのは純粋な者だけか・・。お主の心の中にもお主の正義の灯がともっているのだろうが・・。」


 声をかけオヤジは藤林小学校運動場付近のコンクリート製ベンチに、ドッカリ! と胡坐で座り込む。

その【ステテコ親父】の腕にしがみ付き大きな体躯に隠れるようにして娘というふれこみの【キニー】ちゃんがHE-MANの視線から自分のからだのラインを隠すようにして【ステテコ親父】を盾にし自分と同じ銀色の男を見張っていた。


「(ボクが何かしたっけ?メッチャ不審者を見る目で見られてるんだけど。)」

(それは・・あきらめるんだ、満。彼女はどうやら前に同級生の男子大勢に毎日いじめを受けていたせいだろう。)


「!?本当に?」

(ああっそのせいで不登校になっても秘密をばらすと脅され、たまり場に呼び出されて、ひどい目に合わされたうえに未成年者の犯人多数で主犯すら特定出来ないほどだったようだ。そして最後には・・それもまだ、事故の可能性も100%ぬぐいきれてないと言う事で、結局は過失致死で処理されたようだ。当時中3だったが、家庭事情もあって食生活もけして良くなくて体格はひとまわり小さかった。その所為で余計にいじめられたようだな。)


「なんで、そんなに詳しく知ってるんだ?」

(当時の雑誌類や警察の調書・遺体解剖所見をメットのAIとしらべ尽したよ。)


「(そんなにひどい目に・・こんな娘が・・)最悪だっ!」


HE-MANの突然の怒りの声が自分へ向けられたものかと思い恐怖をおぼえて叫ぶ、小さく弱い【キニー】。


「ひっ・・きゃっ!」

「あっごめ・・ごめん。ボクも少し前まで一緒だったから・・その・・君と。クラスの中でいじめを受けてた事とか・・。」


「うそっ!強いじゃないっ!あんたっ充分に強いじゃないのっ」


(「怒ってるときは噛まないんだな・・。」)

(そーだな、それよりもおんなの事よりオヤジの方を注視しとけよ、満よお前のわるいところだぜ。カラス忍者3人組を圧倒した戦闘力なんだぞ、【金ジャラ】より1ランク下がるとはいえ侮れない相手のはずだ。)


「(からす、カラスだったんだ・・あれ。)」

 

少女に怒鳴り返されて反射的に身構えたボクに娘に対する脅威と感じたか、その場を静めにかかろうとする【ステテコ親父】だったが。


「やめなさい、キニー。少年のいった事は本当だろう・・。見た目で言って悪いが・・、雰囲気的に・・んんっそんな風には・・見えるなやっぱり、充分に青春を謳歌してない様だ、やっぱ・・うむ。なんというか・・その・・スマン。」


「そんな変な謝り方しないで下さい!」

【ステテコ親父】もあんまりあてにはならなかったようだ。


「でもね、でもねコイツ強い、怖いよ。さっきの鳥は3人でも、180T-sp・ぱぱ強い時215T-spなの・コイツ・・250T-spトータル-スペック。」


キニー】の目が赤く光っている。ボクの体の上の赤い光が胴体・頭から胸部、心臓で止まる。次に股間で止まり・・突然目の光を消した少女は瞬時に頬や目元を真っ赤に染めあげたかと思うとボクと目が合ったとき プイッ と露骨に視線を避けた。


「!」

「!?」


「リ、リアルスカウター・・?(なにを見てたんだ?あの赤い光は・・何をあのに見せてたんだ?いっその事ハッキリ言えーッ!たのむーっ!言ってくれーーっ!)」


(ちっ潜在能力もあわせて総合戦闘力が見透かされているって事か・・厄介だな。・・おい・・おんなにち〇こ見られたからって動揺しすぎだろうが。全くぅ~そんなこっちゃあ美月ちゃんとHなんぞ一生できねーぞ!!)


「み、美月とH?イヤイヤ・・や、やっぱ・・ち、ち〇こ見られたんだ・・。どうしよう?なぁどうしたらいい?誰にも見せた事無いのに・・ボクは。」

(いい加減にしねぇと怒るぞ、ホントに動揺しすぎだぜ。)


「アタシより年上のお、おにーちゃんなんだろっ!お外でち〇こち〇こ叫ぶなーーっ!」両手を震わせて目に涙をため、決死の覚悟だったが・・キニーは自爆だった。


「!?」


「「おろおろおろ・あわわわわっ・おろおろおろ」」


同じように動揺しすぎてテンパリ、同じ動きで同じようなカラーリングでうろうろするふたり。シンクロ具合がもうベスト・カップルと見えなくもない。


こうなった理由はあえて割愛するが・・。


 動揺する満をそして娘のキニーを見比べて深くうなずくと、おもむろに変な提案をして来る【ステテコ親父】。


「もしも、この娘を残してわしが少年に負けて先に逝けば・・後の事を少年・・君に頼めんものか・・と思ってな。」


顔を伏せ表情を隠すオヤジ。


「なっ、ぱぱっ急に何言い出すのっ?」

 まったく知らされてはいなかったのか瞬時に復活して驚きに目を見開くキニー。


(コイツ・・負けると分かっていても・・漢か。)


「それでも、りあわないといけないのかいオジサンと」


「ああっ・・それが帝国の決まりなんでな。」

【ステテコ親父】は諦めたように立ち上がる。


「帝国ってのはどんな処だと思うね、少年。名前のとおりに純粋に力の・・暴力だけが支配する地獄の釜の底の様な処だと思うかい?」

 

満は姉の事、自宅の事と南京警察署を思い返しうなずいた。

「うん。」


「そうか・・、そうだな。現状ではそう思われても致し方なしか・・。ただな、少年。DQN帝国を天国だ、理想郷だとはいくらわしでも言えんが・・正直いって、わしらふたりはアレ帝国に助けられたのだ。」


 オヤジは立ち上がった体をキニーに少し預けて続ける。


「わしら父娘おやこ共に・・わしの心・体・・娘の身体もな。」

 コクッ とうなずき肯定する娘のキニー。

 娘の細い肩に手を置き顔色や返事を確かめるように見やる

 オヤジ。


(おい、満!騙されんなっ!大切な娘のこころはどこ行ったんだ?

 それと娘の外見とオヤジの見た目の年齢が合わねぇ。父娘おやこにしては離れ過ぎだ、何処かにまだ謎か何か嘘があるに決まってるぜっ!)


「わしだけが言ってもなかなか信じてはもらえまいが・・実は帝国内の快人のほとんどはわしら父娘おやこのように浮世・現世の奴ばら共に迫害され、いじめられ・追いやられて愛する者や家族を奪われた者達ばかりよ。無理矢理に居場所を奪われた者達の最後の吹き溜まりなのだよ、帝国という方便は・・。そして蘇り、新たに得たその快人のちからで本当のDQNどもに積もる恨みをはらすためにDQN帝国は存在するのだ。その・・やり返されたクズどもの成れの果てがDQNゾンビと呼ばれている者どもよ・・。」


 ひととおり言いたいことを話すと【ステテコ親父】は疲れ切った様に再びベンチに倒れるように沈んだ。


「う、噓をつくなっ!」

満の声にも自信の無さが出ていた。

思えば田村と大西さんが目立つようになったのはボクを含めた三~四人の同級生を虐めるようになったから。そしてそれは多分ふたりの家庭環境が原因で・・。

あの日に動き出したんだ、田村はボクを気にしていた美月に交際を申し込んだがすげなく断られてから、さらにボクを一番のいじめのターゲットにした。そして以前から田村を気にしていた大西さんが彼に同調するようになった。

そのふたりがDQNゾンビにされたのは偶然じゃなかった!

(やべぇぞ満、【ステテコ親父】の話とお前の推論が本当ならば・・、超強快人ちょうきょうかいじんが最低でもひとりは俺たちのスグ側のクラス内にいるッ!)


先ほどよりも顔色の悪くなった【ステテコ親父】は微笑むだけ。

「ぱぱ!」キニーの声に答え震える手であたまをなでるオヤジ。


ボクらはさっきの話の内容にショックを受けていたのかも知れない。なぜならキニーと【ステテコ親父】を注視していた筈がボクらふたり共?父娘おやこのすることをただ ボ―ッ!っと見ていたからだ。


 キニーはそのまま【ステテコ親父】の手を取り、オヤジの太い人差し指と中指の

2本を自分のさくら色の唇にそっと含んだ。

「!?」


「んむ!」

くちゅ!


「キ、キニー・・な何をお前・・。」


なまってて、ふぁふぁだまってて、ぱぱ(これがアタシの内緒のち・か・ら。ドクトルに頂いたぱぱのための力。)」


 少女が舐め続けるうちに【ステテコ親父】が胸に下げたお守りが輝いて、デジタル表示が08から28~59~76~99と変わる。どうやら少女キニー経由で【ステテコ親父】にパワーチャージしたようだ。


(なるほど、ホントにサポート担当だったのか?あの女狐め!こいつは失敗だ。敵にフルチャージのチャンスを与えてしまったぞ。)


「ぬはははっ!思わぬところで命拾いしそうだな・・少年どうする?」残る灰皿の片方を拾い上げると片手だけで得物を使い、踊る様に型をなぞる【ステテコ親父】。準備できたのか往年のLeeのように片手のひらを上にして、招くように4本の指を曲げる。

『いつでもこい』とでも言うのか?


(よし、満ッ!いくぞっ!【細胞賦活増進セル!フルブースト】、【能力】高速移動レベル(中)、【能力】骨格・筋力増強!今度は調整できてる!いけーーっ!)


一瞬で【ステテコ親父】の死角、ひだりわき腹につくと水平状に

スラッシュチョップを放つと同時に相手の武器の無いひだりこぶしのカウンターが来た!

「ばかなっ!」(腹筋強化したが、ダメージはあるぞっ!)

がっ! どごっ! 

「くっ!」ズダァーン!(「うあぁーっ!」)

地面に叩きつけられる。

力や速さでは完全に満たちが勝っているのに、攻撃場所を先読みされた上にカウンターで返された。

肉体的・精神的ダメージは満たちの方が大きい。


(満、謎の武術の達人なのと身長差による姿勢、重心の低さだっ!)

「どうする?離れ過ぎると礫弾ひょうだんが雨あられと降って来るんだ、近寄り過ぎれば今度は黒カラスさんの食らった『焦熱ヘッド・クラッシャー』をもらう羽目になる。」

しかも、今現在は両方の来ない微妙な距離を保ちつつもちょくちょくいい攻撃を食らいながら、治療しながら互いに消耗戦を続けている。

「(なんとかならないのか?)」

(すこしだけ待てっ!リハイドレーションとスラッシュを組み合わせる。)


ブンッ ゴッ「うっ!」右肩をかすめていく灰皿にけっこうな打撲を負わされる。

ジャッ ビキッ「うあぁっ!」今度は足払いだ、60歳のオヤジの動きに見えない。

転がり逃げるのが精一杯だった。

そういえば、チャージ後から見た目もなんだか5~10歳は若くなったように見えるが、そんなバカなと満は思い返す。

だがしかし、モデルさえあればどんな細胞でも3分もかからずに作れる男のいう事では無かった。

(待たせたな、今一気に完治させる。【能力】治癒加速!)

満の全身が突然に眩しいほど輝いたと思うとその場から消えた。


「むっ!あれだけのダメージを負ったうえでまだこれほどの動きを・・これは」

オヤジは動きを止めて息を整えると、空いている片手を地面に貫手のように突き込んだっ!

「世界最強の武器!ガラスの剣よーっ!今こそ顕現せよーっ!焼成ッ!」

40センチはあった灰皿が鍔の部分になり、鋭利で巨大な刃を支える。恐ろしいほどの透明度を持つ刃をきらめかせて、1回限りの攻撃ではあるがこれで死なぬ相手はいないと言われる、究極・最強の武器だ。

「(なんか、某有名ゲーでそんな設定?何かあったような気が・・パクリ?丸パクリなのか?)」

(満、ぼーっとすんな!来るぞっ!)


ザッ ザッ ザッ ザ ザッ ザ ザ ザ

さすがにあのデカい剣を抱えて走って来るのだ、しかもこちらは少々姑息だが相手が疲労の色を見せ、息の切れ始めるまでは等速で下がり等間隔を維持して敵の選択範囲を無くす方法をとった。


「むっそうくるか・・。」

オヤジは半ば呆れたような感心したような分からない態度だ。

銀色中学生の女の子からは、

「逃げんなーーっ!この卑怯者ーっ!ばか、でぶ、はげーっ!」

とまったく遠慮のないお言葉をいただいた。さいごの一言以外はあまんじて受けるがだけはだめだ。


「(まだまだ)ハゲてねーーっ!」 ジャッ キーン!


言い返した数秒で構えられるまでに間を詰めて迫って来るってのは・・コワイよ。


(よし、準備は120%出来たっ!『ベノム・スラッシュ!』完成したぜっ!)

「(なんか、こっち側が【悪】みたい・・。)」

(気にすんな、生き物同士の戦いはみなこんなものさ。)

「じゃあ行くよっ、オジサンっ!」

HE-MANの突然の宣言と方向転換の早さに二の足を踏み様子を見ながら必殺の構えを取り動かない【ステテコ親父】。

タッタッタ タ タ タ タ・・

徐々に加速の増して行くHE-MAN。


刹那、双方にひかりが跳ねたっ!

「必殺!風鈴剣ん!」ズワァッ! シャッ ドッ

『ベノム・スラッシュ!』ザン! ブシッ

ふたりの影が交差した・・と共に血を吹き出しよろめく。


その姿を見た【キニー】の悲痛な声が人気のない校庭に

響き渡った。

「いやあぁーーっ!」






 次回予告

『DQN帝国』の話は真実か?

「HE−MAN」満はどうなった?

 【キニー】は?

3人組の「鳥人忍者」も忘れるな!

あっあと、おねーちゃんもー!


ドキドキ第10話 勝負のゆくえ

レッツ!リハイドレイト!!

って今更いるコレ・・。


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