第6話 対決!銀バット快人【金ジャラ】・・後
銀バットドリルが一瞬前まで HE-MAN の頭があった場所に何度も刺さってコンクリートを抉りヘルメットの構造材にドリルの突起が掠めて火花が散る。
フィン「ギャン!」
フィーーーーン フィン「チヂッ!」
フィン「ジッ!」
フィーーーン
「はっ はぁっ はっ このっ!死にぞこないがっ・・。あれだけ痛めつけたっつーのに、俺様の必殺ドリルから器用にチョコマカ逃げてんじゃねーよっ!イラつくんだよっ!」
しかも、腹立たしい事に回を重ねるごとにデブのくせして動きが良くなり次第にバットの先がかすりもしなくなってきていた。
(「やべぇ!やべぇぞっ!このガキっ俺様の動きの早さ・パターンに次第に慣れて来てやがるっ!」)
また、俺様の攻撃の合間にチラチラと周囲や人質のおんなを見るゆとりもあるようだ。
うかうかしてると取り返されるかっ?楽しむ時間は無かったようだ。
「くそーーっ!【ミミィ】!おんなを殺れっ!早くっ!」
「でも・・
(その上、時間を経る事で体のキズや体力の回復もし始めているようだ・・。早めに決めねぇと――――――――――――――
きたっ!周囲の動きが遅くなり、体や手足、自分の口でさえ動きにくく思える。高速思考のスイッチが入ったんだ。それまでは、
奴が急所を避けた上であえて攻撃を受けながら、ダメージを押さえて、相手を騙し騙ししながら回復出来るチャンスを待っていた。
そこへこれだっ!ついに逆転のチャンスが来たんだ。
「いくぞっ【
瞬く間に僕の体内の普段は脂肪細胞に擬変態している全身に散っている Hi-ps細胞群が本来の姿・能力を取り戻して、目的のためにまた集合・変容・分散する。
骨折を直すため骨芽細胞や折られた尺骨を補強する為に強化外骨膜・超緻密質・高速骨髄を形成する。
その身を必要な材質に変えるものもあれば、それまでの肉体を補強・超強化する細胞もあればまた生命維持に働く物も・・。脂肪細胞に見えてその実は全くの別物だ。
有意に変幻自在に質を変える超万能細胞を脂肪細胞に変え普段はその身に持ち、戦闘時に必要な細胞に変え超能力を発揮する男。
それが HE-MAN。その細胞組織とその仕組みそれこそが、僕たちHE-MANのちからの源泉であったのだ。
そこらの素体に毛が生えた程度の強化がどうであろうと、基本の
ボデイの性能に左右される。つまり、魔法などの論理のちがう
超常的方法でも使わない限り現状では強化方法はどれほど効率よく出来たとしても、
素体×係数=にしかならずその数値も限界まで強化しても通常
素体×10=などには到底なり得ない、壊れてしまうのだ。
しかし、HE-MANのちからは根本が違う。素体が元のままではない。強化したまま通常生活を送りいざという時にリミッターを
解除すればいい。素体の数値まで戻さなくてもいい。強いままでいられるし、もし万が一強化を間違えても時間があればやり直せばいいだけだ。
「いくぞっ!」
(ち、ちょ待・・。)
「【能力】超高速移動レベル(中)・・。」
―――――このままじゃマズイ。!?やべえ事になる。早く!)
「で・・デブがいねぇ!いつの間に?」
一瞬の焦りの間にデブの小僧の姿が消えていた。
「なぜだっ!俺様の足の下に這いつくばってたハズだっ!」
叫ぶ【金ジャラ】の声に【ミミィ】の声も重なる。
「あんたぁ~こっちもいつの間にか女がいないよう~。」
「ぐうっ!」
つい鬼の形相で【ミミィ】の方を振り向く。
「ヒィッ!」
それを見て【金ジャラ】に怯える【ミミィ】。
「チィッ。」彼女の怯える表情にあからさまに焦りを見せ、
「しまったっ!」
と【金ジャラ】の顔が表情で言っていた。
それで、注意が他にそれたのか【ミミィ】が おやっ?っと
いう顔をして離れた所を伺う様に耳に集中しているようだ。
カ カ ヵヵ
「・・
ふたりは階段の手すりまで駈け寄り下を覗いたがすでに
HE-MANと新山
「コフッ!」その頃 新山
HE-MANに助けられたのはいいが、気付かれぬように救い出す為に体に多大なGを受け内臓にもダメージを、骨格や筋肉にも
かなりなムチ打ち症状を呈していた。
下に用意していた救急車に収容されるストレッチャーを見送り、三条
救急車に乗り込みしな手を振りウィンクを返した。
僕は車を見送り、
「新山先生は僕がちゃんと助けたはずなのにっ!」
と怒りを同居している奴にもぶつける。
(そりゃぁ、お前のこころ配りが足りずに先生をかえって危険な目にアワセタって事だ、高加速時にパンピーを扱うときは触れる前、止まる前に細心の注意を払えっ!生卵以上に壊れやすいと思え。さもないと助けられるものも結局は助けられんぞ。)
「くっ、くそっ!先に言えよっ!」
(俺が体を動かしてた時、どうやってたかをちゃんと見てれば分かったハズだ。俺はお前のオカンじゃねぇ、心のサポート用人格でしかねぇんだ。)
「分かった・・。」
(さあ、さっさとバット野郎と色気女を潰しに行くぜっ!)
心の声に促されて満は今度こそはと決意を込めて頷いた。
「【ミミィ】、変わった音はあるか?」
【金ジャラ】の
よほど HE-MANと直接に対峙してみて脅威だと感じ取ったのだろう。
ただ、初回・二回目と戦ったが二度とも【金ジャラ】が
HE-MANに優勢だったり、戦いの駆け引きで圧倒していたりと決して自分達が弱いと感じていたわけではないと思うのだが。
やはり、二度目に相対した時の復調の早さと自分達のちからでは何度やり合っても決めきれない、決定力の無さと敵のデブ野郎の能力の底知れなさ・・伸びしろとか余裕のある雰囲気にふたりとも大きな脅威を感じていたのだろう。
不安が焦りを呼び、それはヒトの運命の流れを変えて陥れる。
しばらくして、【ミミィ】が【金ジャラ】に声を投げるっ!
「・・あんたっ!階段っ!」
ほぼ同時に定番の逃げ道にされている非常階段の方へ振り向くが・・。
すでに一陣の風が通り過ぎた。
ドッ
「うっ!?」
【ミミィ】が身体を「く」の字に折ったまま、
10m近くを吹っ飛ばされて屋上の淵にある金網まで磔のように
ぶつけられた。
ガシャーーン!ビキッ!
「あぁうっ」
「なにいっ!俺様が反応できねぇ。」
時すでに遅く、戦闘用快人としては二線級で戦闘力・耐久力ともに低めである【ミミィ】が覚醒したてとは言え【金ジャラ】に勝るとも劣らぬ HE-MANに抗えるはずは無かった。
「くそっ!こうなったら・・。」
【金ジャラ】は金とは名ばかりの温度や力の加え方によって自在に変形操作できる。
特殊形状記憶金属のアクセを全身に付けていたのだ。
「加速はおめぇの専売じゃねぇっ!」
叫ぶ【金ジャラ】の両手に何本もの銀色の注射器が・・。
「こおれこそーっ俺様の奥の手の1!張命薬!それをーっ丹田!風池!神門!合谷!承山!そしてさいごにっ四神聡!」
ドッドドッ
見るだに恐ろし気な太い注射器のなかの得体の知れないブルーハワイのような青い液体をためらわずにおのれの全身に打ち込む【金ジャラ】。
最後は4本も1度に頭頂部付近に深く打ち込み、眼球を白く裏返し全身を瘧のように震わせたかと思うと意味不明の叫び?雄たけびをあげた。
「げッぺーーーっ!」
【金ジャラ】のからだの震えがますます大きくなり輪郭がブレ始める。
「!?・・なんだ、あれ。」
(満、マズイ・・ありゃあ最後の手段の「ドーピング」だろうぜ。)
「!?ッ」
圧を感じた HE-MANが反射的に後ろに跳ぶと・・。
バガアァンッ!
その場のコンクリごと屋上の床である病院の屋根が銀閃によってぶち抜かれてゆく。
「ケェヒヒィーーッ!いまでは超!【金ジャラ】となった俺様の攻撃をよく避けた、・・ケヒ。」
「あぶねぇーッ!」
(気を付けろッ【能力】超高速移動レベル(中)にも対抗できるスピードだ。)
「バカ言えよっそんなの相手出来るかっ!なら・・。」
満は金網に食い込み自由を失ったまま気絶した【ミミィ】を利用しようとして動き始めたが、すぐに足を止めた。
超【金ジャラ】に先を越されたからだ。
「んははーーっ!切り替えが遅いなっ!殺し合うなら、本気だしなっ!」
両手を金網に取られて頭を力なく垂らしたままに、黒のワンピースもぼろぼろになってさながら磔刑のキリストのようになった【ミミィ】。
もとよりなまめかしい白い肌のあちこちを鞭のキズで赤に紫にそめて、新たな傷に血を流したうえに数年まえまでは戦友であり、恋人であった男の傍らに身体を半ばあずけながら。
でもそれは、少しも幸せを感じなかった。
かってふたりが望んだものでもなかったし、安らぐものでもなかったから。
なにより愛した男の両手が彼女の細い首にかかっていて締め上げていたから。
ギリギリギリッ
「かはっ ひゅーっ」
「【ミミィ】いや、
破壊されたコンクリートのこぶしより大きいかけらが突然その
ぐわんっ!
「!?」
振り返る彼に若い男の声がかかる。
「おれとやり合うんじゃないのか?なんで先に仲間を殺すんだよ。」
見えないはずのメット・バイザーの奥からでも満が怒りに燃えたぎっているのがわかった。
「ケヒッ?ヘケラッ。」
「なんだっこいつ・・。さっきまでは普通にしゃべってたのに・・。なんで?」
「センサー報告、ターゲット・ボーイ1脳幹細胞崩壊60秒前。」
「どういう事ッ!」
(多分ドーピングの薬物と急な全力全開のせいだな。お前のせいじゃない、負荷が大き過ぎたんだろうぜ。)
HE-MANと戦うために、超【金ジャラ】に急速になる事が必要だったとは言え猛毒に等しい薬物を大量に重要な臓器に投入したせいで、強化された肉体でも限度を超えてしまったのだ。
ただれたのか赤い目・鼻に耳穴や口腔もその副作用かと思っていたらすべてのところが充血しすぎて組織を破壊し始めており、じくじくと出血し続けているのだった。
「うおぉぉーーっ!」
ビシャッ!
ボタッタパッタパッタパ・・。
全身より血や体液を垂れ流してそれでも
立っていた。
すらりとした体躯を風に揺らすように・・。
その両手に二刀流のように銀バットを構えて HE-MANに相対して待つ。
その阿修羅像を彷彿とさせる姿に無造作に近づく怒りもあらわな場違い感満載の近未来風、銀・赤ツートンカラーのぽっちゃり体形。
互いの目が・・意識が・・すれ違い、絡み直してじりじりとした圧力がしだいに高まってゆく。
おたがい睨み合っている間にもう崩壊のタイムリミットの60秒なんて超えている。
ということはこれから時が経てばたつほど【金ジャラ】に不利になっていくはずだ。
「ぐぅふぅーーーっ!」
(きたぞっ!満!)
左手から頭を狙ってきた1本目をしゃがんでかわしつつ、頭上から来た2本目を右手で押さえるべく上げたが、相手の方が上手だった。
じぶんの腕が折れても振り下ろしてきたのだ。
ごきりっ
「!?」
「くっ!」
折れたせいで目標が外れたバットが肩にぶち当たり 、鎖骨をやられた。
ごきっ
「くっ!」
(「おいっ!修復をいそげっ!」)
(もう、やってる!)
姿勢が低いせいか、残った右手のバットよりも先に右足が来たっ!
ざっ
ミドルキックを左肘で防ぎながらも、
がっ!
腰の入りきらない右手を機を伺い・・待つ。
そして、蹴りを止められてバランスを崩し空いている首筋へ貫手を放った!
どっ!
「かっ!」
意外な程すんなりと入り込む手刀が喉の生命維持に必要な組織を破壊して血しぶきを吹かせた。
どおっ!
灰色のコンクリートの上で【金ジャラ】だった身体は倒れた。陸に引き揚げられた魚のようにビクビクビクッとしばらく断末魔の踊りを舞うと、やがて首から血も出なくなり・・最後にはご自慢の銀バットも律儀に手放してから死んだ。
・・カラランッ!
どれ程の時間が経ったのだろうか?気がつくと【金ジャラ】の
ズタズタな死体にこれもぼろぼろな姿の【ミミィ】が縋り付いていた。
(満、満っしっかりしろっ!まだ終わってねぇ!)
「ん・・。」
まだ頭は少しぼやっとするが腕も肩もすでに痛くは無くなっていた。
・・カリカリカリ、シャクシャク
・・ベキッピチャピチャッ!
何の音だ?おんなが男の死を悼んでるには場違いな・・音。
泣いてるんじゃない。
むしろ肉食獣がエサをもらってるような変な音だ。
「・・!?・・おい、あの女何してるん・・?!」
(見ねぇ方・・知らねぇ方がいいが・・そうも行かねぇか。)
満は良く見ようとして、1歩ふみ出し止まった。
ぐっ むっ
ゴホッゴホッ!
喉奥から強い吐き気が襲ってきた。
「あの、あの女・・男を・・仲間の死体を食ってんのかよ?」
【ミミィ】は超【金ジャラ】の遺体のちょうど下腹あたりに顔を埋めていた。
見ようによっては想像力をかきたてられるようにも見えなくはない場面になっていたが、周囲一面にとび散った真紅の色と先ほどからの異様な音がそんな気に全くさせなかった。
おんなはしばらく血肉を貪り、事足りたのか口元をぬぐいながら満の方にゆっくりと振り返る。
と・さながら般若の面のように額の左右に角を生やして、口腔に猛獣のような牙を伸ばして血の涙を流しながら満に対して身構えた。
「まだ、来るのか。」
ダッ!
般若はこちらに向かって突っ込んで来る。
最初の加速程度では軽くあしらえるとも思えたが、身近に迫る程捉えにくくなっていた。
「!?」
(速さが上がってるぞっ!寄せ付けるなっ!何かヤバい気がする。)
と、触れられた感覚は無かったが。
しゃっ!
肩を横から割られて浅手だが血もにじむ。
満と俺のふたりは驚愕した。
「スーツが・」(・裂かれた、逃げろっ!満。)
怒りや憎しみに感情が染められているのか、動きが単調で直線的
な攻撃しかしてこない。
それでも、急所にヒットすればいくら HE-MAN でも命がない。
いまは【金ジャラ】の残した銀バットを1本拝借して、超【ミミィ】の両手から繰り出されるスラッシュクローを弾きながら逃げるのが満の出来る精一杯だった。
「なんで・・こんな事に。」
(そりゃ、)「探査結果・・」
「「(!?)」」
「(・・お先にどうぞ。)」
(エヘンッそれ・・)「それでは探査結果を・・免疫賦活薬と思われる薬物をベースにニトロの同位体と思われる物等約30種もの毒劇物の2次処理化合物と蛋白質の混合物が血中濃度の4.7%を占めています。以上が要約です。」
(で、なんなんだ?それは・・。)
「私の類推解釈で宜しい?」
「!?」(!?)
「これは、姉さんのラボでの口ぐせだっ!」
ざしゃっ!
「くっそ!」
脳内会話していて驚いた時にスキを見せてしまって背中を浅く裂かれた。
「クフフフフッ」
超【ミミィ】がクローについた血を10センチは伸びた変化した舌で舐めとったとたんだった。
ジュゴーッ
「ぐぎゃーーっ!」
女の口元から白煙があがり顔や喉も押さえ地を転がりまわった。(Hi-ps細胞のしわざだ。敵にはとことん牙を剥くぜ・・。いまだっ!満。)
HE-MANはゆっくりうなずき加速すると転がる【ミミィ】に向かってボデイプレスを敢行。
仰向けのおんなの口を・・いや顔の全面をHE-MANの腹部が覆いつくす。
さらに大量の白煙が上がりくぐもった叫びがかすかに響く。
「うごもももーーーっ!」
ジュバァーーーッ
ビクッ ビクンッ
「 必殺リハイドレイター。はあっ はあっ はあっ」
満がころがりのいた後には、頭蓋どころか肩近くまで溶解液か腐食液にでもやられたかのような無残な遺体が残るだけだった。
「いやーっこんな軽症で警察病院VIPルームって何か・・ワリィなぁ、三条さん。」
「役得、役得~気にしなさんな。これからはボーイを頼むよ。」
ベッド上でガウン姿の坂巻巡査長に部屋を出る三条
「これで、俺も怪しい組織に仲間入りかよ・・。隊の仇討ちにはちょうど都合がいいけどサ。」
三条の背を見送ってからは坂巻は寝転がるとただただ、天井を見つめるだけだった。
次回予告
『DQN帝国』の快人とは何なのか?
「HE−MAN」満はこれから?
謎が渦巻くままで
解かれる日はいつか来るのか
第7話 対決のあと
レッツ!リハイドレイト!!
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