第3話 一緒に
魔法使いは朝からゴソゴソと実験中です。
手の形をした葉っぱをちぎっては、グツグツと熱い鍋に入れてみたり、龍の爪を煎じてみたり…
時々、あごヒゲをさわりながら物思いにふけってみたり、ホコリのかぶった古びた本を引っ張り出してみたり、1人でブツブツと話してみたり。
そんな時は犬が話しかけても返事はありません。
なので、犬は小屋のまわりをかけっこします。
風に吹かれて飛んで行く綿毛を追いかけてみたり、仰向けにゴロゴロしてみたり…。
犬を取り巻くすべては、いつもやさしく好奇心を満たしてくれます。
原っぱに寝ころがり青空を見上げます。
魔法使いと一緒に暮らしはじめて、ひとつの季節が終えようとしていました。
犬は魔法使いと出会ってから、いろんなモノ、いろんな人に出会い、見たこともない世界を知りました。
人やモノには名前があって、目に見えるモノと見えないけれど確かにそこにある別の何かがあって…。
窓越しに見える魔法使いを見つめながら思います。
「本当にヘンテコな人だけど…ずっと一緒にいられたらいいな。」
魔法使いは調べ物をしていた手を止め、走り回っている犬を見つけると、小屋の窓から声をかけます。
「そろそろお茶にしようか?」
犬は待ってましたとばかりに、魔法使い目がけて全力疾走です。
魔法使いはお気に入りのお茶の葉をポットに入れると、湯気の立つお湯をていねいに注ぎます。
湯気と一緒に
「ふわぁー。」と甘い香りが立ち込めます。
犬の鼻先も香りにつられて「クンクン。」と上を向きます。
あめ色をしたお茶を、お気に入りのカップにゆっくりと注ぎます。
カップに注がれたお茶だけでも十分においしそうなのですが
魔法使いはそこへ
木の幹雨上がりの早朝にしかとれない虹色をした花の蜜をたっぷりと入れて、3回ほどスプーンでかき混ぜます。
それはどんなに冷えきった体も、沈んだ心も温かく包み込んでくれるのでした。
魔法使いは少し深みのある木の器にお茶を注ぐと
「熱いからゆっくりとお飲み。」と犬の足もとへ差し出しました。
犬は香りを味わうように、ゆっくりと深く息を吸うと、器の中のお茶をペロペロと飲みはじめます。
それを見ていた魔法使いも、犬と同じように香りを味わった後、ゆっくりと口もとにお気に入りのカップを運びます。
お気に入りのカップに注がれた、お気に入りのお茶を幸せそうに口にする魔法使いはご機嫌です。
そんな魔法使いをじっと見つめる犬の視線に魔法使いが気づきました。
木の器にはまだ半分ほどお茶が残っています。
魔法使いは犬に問いかけます。
「どうかしたのかい?」
犬はポツリとつぶやきます。
「僕…ここにずっと一緒にいたいな…。」
魔法使いは手もとのカップをテーブルに置くと、犬の頭をやさしくなでながら
「僕もだよ。」と笑うのでした。
犬は胸の奥のがくすぐったいような、ポカポカするような不思議な感覚に少しうつむきます。
そしてまた、魔法使いとお茶を楽しむのでした。
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