第84話 ここが私たちの目的地です

 



 都から見て西側に、ディシデリというランクFの村が存在した。


 住民たちの多くは、それでも畑を耕しながら穏やかに暮らしていた。


 ペリア、フィーネ、エリスの三人はそんな村で生まれ育った。


 幼馴染として小さい頃から親友同士だった彼女たちには、師匠がいた。


 ディシデリの外れに住む、髭をはやしたおじいさんだ。


 曰く、彼は昔、それはそれは強い戦士だったらしく、有名な旅団に所属していたこともあるのだという。


 今はここで魔獣を狩りながら隠居している。


 ペリアたちに魔術と武術の基礎を叩き込んだのは彼だ。


 とはいえ、三人は将来的に親を継いで農家になるつもりだった。


 要するに、半ばごっこ遊びの延長線上だったわけだ。


 当時から本気だったのは、ペリアたちにとてつもない才能を見出していた老人だけである。




 しかしペリアたちが10歳のとき――事件は起きた。


 モンスターが結界を破り、村に襲いかかったのだ。


 老人が戦闘に立ち村人たちを逃がそうと奮戦したが、歴戦の強者であった彼も、モンスターの前には無力だった。


 引き裂かれ、踏み潰され、食い荒らされていくディシデリ。


 ペリアたちはその光景を――少し離れた、村を見下ろせる丘の上から眺めていた。


 彼女たちは偶然にも、遊びで村を離れていたのだ。




『な、なんで……あたしたちの家がもえてるんだ……?』


『たすけにいかないと。お父さん、お母さんっ!』


『まって!』




 村に戻ろうとする二人を止めたのはペリアだった。




『もどったら、二人もしんじゃう』




 当時から、一番冷静だったのは彼女だ。


 とはいえ声も震えていたし、目には涙が浮かんでいた。


 まだ10歳の子供なのだ。


 その決断ができただけで十分すぎるほどだろう。


 こうして三人は手を繋いで、必死で他の村へ続く街道を走った。


 背後から聞こえるモンスターの雄叫びと、そこに混じる人々の悲鳴を振り切って。


 幸いにもモンスターはディシデリを襲うのに夢中で、子供たちに気づくことはなかった。




 ◇◇◇




 それから8年――ペリアたちは同じ場所から、朽ち果てたディシデリを見下ろしていた。




 ハイメン帝国との戦いが終わり、今後の方針も決まった。


 だが都では一部の貴族たちが、“正当な王家”とやらを主張して何やら騒いでいるらしい。


 しかし一方で、研究所で働いていた宮廷魔術師たちは、コアや人形の技術に興味を持ち、マニング側に付いてくれそうだ。


 王国に残る他の街や村も同様である。


 貴族の集まりは大した勢力になれそうもなく、ラティナ一人で十分――ということで、ペリアたちはしばし休暇を貰ったのである。


 その時間を利用して、ついに三人は故郷に戻ってきたのである。




「懐かしいね、この景色」




 胸からこみ上げる感情が瞳からこぼれ落ちるのをぐっと抑え込みながら、ペリアは言った。


 木々が生い茂り、形は変わっていたが、面影は残っている。




「ああ……帰ってきたんだな、あたしたち」


「やっとみんなに会える」




 フィーネとエリスも万感の思いで胸を満たし、8年ぶりの故郷の景色を目に焼き付ける。


 すでにディシデリの手前にコアを設置し、一帯には結界が張られている。


 モンスターが侵入してくる危険もない。


 三人は丘を降り、故郷の地に自らの足で踏み入れる。


 息を吸い込むと、懐かしい匂いがするような気がした。




「変わってない、って言うべきなのかねえ、こういうのは」




 変わってはいるのだ。


 建物は腐って壊れている部分も多いし、無事な部分にも植物のツタが巻き付いている。


 ひどいところだと、家のど真ん中から木が生えている場所だってあった。


 だが、8年前に丘の上から見下ろした光景――その片鱗が、ところどころに残っているのだ。




「帰りたい、帰りたい、とずっと思っていた……けどいざここに来ると、どんな顔をしていいのかわからない」


「胸を張って帰ってこれると思ってたのに、ね」




 悲しいやら、嬉しいやら。


 少なくとも、あるものは故郷に帰れた喜びだけではない。


 しばらく黙って立ち尽くす三人だったが、当たり前ながら誰の声も聞こえてないことが、無性に虚しく感じる。




「とりあえず……家、帰るか?」




 真っ先に我慢できなくなったフィーネは、自らそう提案した。


 エリスとペリアは同意すると、ひとまず別れて、自分たちの家を訪れることにする。


 と言っても、ほぼお隣さんのような近さなので、目の前まで一緒に移動することになるのだが。




 ◇◇◇




 家に戻るまでの道のりは、8年経っても体が覚えていた。


 何百回、何千回と三人一緒に歩いたのだ。


 今さら、時間が経ったぐらいで忘れられるものでないのだろう。


 アレークトの家は一番手前にある。


 一足先にフィーネやエリスと別れたペリアは、半壊した生家の前に立つ。




「すうぅ……はぁ」




 緊張、しているのだろうか。


 ただその一言だけでは片付けられない感情が、ペリアの足を止める。


 それでも、帰りたがっている気持ちがあるのも事実で。


 何度かの深呼吸の後、ついに彼女はドアノブを握った。


 ギィ……と音を立てながら、扉が開く。


 他の家に比べると、その建物はかなり原型を留めていた。


 中も同様である。


 開いた扉の向こうにある景色は、外の町並み以上に、8年前と変わっていなかった。


 ペリアはきゅっと拳を握り、家にあがった。




「……ただいまっ!」




 誰も返事はしてくれない。


 でも――ずっと言いたかった。


 あの日からずっと、帰れずにいたペリアだから。


 その言葉を、この場所で告げることが、彼女の中にある“止まってしまった場所”を前に進めるために必要な儀式だったのだ。


 ただそれだけなのに、せっかく抑え込んできた涙が、目をうるませる。


 まだ、まだだ、流れるには早い。


 そう言い聞かせて、ペリアは己の目をこすり、前に進む。


 さすがに中の空気は埃っぽく、隅っこには獣や虫が住み着いている形跡があった。


 天井にも大きな穴があいている。


 しかしそちらは、自然にあいたものではないように見えた。




「もしかして、この穴は」




 空から光が差し込むその真下は、テーブルの影になっていて今の位置からは見えない。


 だから後回しにすることにした。


 まずは辺りを見回す。


 見慣れた家具はそのままの形を保っていたりして、テーブルの上には人の営みを感じさせる配置で、食器が並べられていた。


 さすがに中に入っているものは、ほぼ原型をとどめていないが――




「そっか、あの日って……お昼の前だったんだっけ」




 確かに丘の上から惨劇を見る前に、『そろそろご飯だから帰らないと』と話していた記憶がある。


 きっとペリアの両親は、一人娘の帰りを今か今かと待っていたに違いない。


 彼女の好物でも作って。




「私、ちゃんと、倒したよ。当たり前に続きそうだった幸せを、ぶち壊しにした元凶、ちゃんと、倒したよ……」




 “喪失したもの”を確かな形として見せつけられて、ついにペリアは我慢できずに涙を流した。


 潤む視界で、置かれた食器に指先で触れて、ここにはいない家族に呼びかける。




「見てくれてる、かなあ。見てくれてたら、いいな……」




 もっと話したいことがたくさんあったはずなのに、いざ帰ってくると、うまく言葉にできない。


 いや――あるいは、話しても仕方がないと悟ってしまったのかもしれない。


 故郷に戻っても、彼女たちを迎える声など一つもなく。


 そこにあるのは、喪失の痕跡、その羅列なのだから。




「私ね……すごく、がんばったんだ。あの日……パパやママが死んじゃった日から、ずっと……ああ……いや、違う。私は……きっと……」




 そして蘇る、鮮明なあの日の記憶。


 村に帰って、みんなを助けたがるフィーネとエリス。


 そんな二人を止めて、逃げようと提案したペリア。


 冷静な判断だ。


 だからこそ、三人は生き残れた。


 正しかった。


 けど、人間は理屈だけで生きてるわけじゃない。




「ちゃんと精算しないと、帰っちゃいけないって、思ってたのかもしれない。みんなを見捨てて逃げた私は……そうしないと……恨まれてると、思ってたのかも……」




 ――考えもしなかった、そんなこと。


 知らなかった、自分のことなのに。


 この場所に来なければ、きっと溢れることもなかった、ペリアの本音。


 そして彼女は気づく。


 それこそが、本当に必要なことだったのだと。


 たとえ求めた喜びがそこなくとも。


 たとえあの日の悲しみが蘇り、胸いっぱいに苦味が広がったとしても。


 “失った”という実感を得ることが、ペリアには必要だったのだ。




「パパ……ママぁ……っ」




 ぼろぼろと溢れる涙が、テーブルに落ちる。




「本当は、生きてるんじゃないかって。そう思うぐらい、死んだって実感がなくって……本当は今も、聞きたいと思ってた……私の『ただいま』に、『おかえり』って答えてくれるんじゃないかって!」




 日常から非日常へ――故郷を飛び出した三人の過ごした日々は、決して平坦ではなかった。


 だが、だからこそ、彼女たちの心は折れなかったのかもしれない。


 家族だけがいなくなって、村はそのまま残っていたら。


 明日からも、“家族のいない日常”が続いていたら――そちらの地獄のほうが、過酷だったのかもしれない。


 少なくとも、彼女の“心”にとっては。




「でも……そうだよね。もう、いないんだ、どこにも」




 日常を失ったという、その苦しみが8年越しにやってくる。


 いいことなのか、悪いことなのかもわからない。


 知らないまま、一生を過ごす選択肢もあった。


 だが彼女は求めた。


 だって、幸せも苦しみも分かち合える大切な人と、一緒にただ前へと進みたかったから。


 時の流れは少しだけその痛みを和らげて、そして愛する人の存在が彼女の心を支えてくれるから、折れたりはしない。


 幸いにも、そして残酷にも、耐えられてしまうのだ。




「復讐も終わって……死んだことも受け入れて……許しも、罪もないことを知って……ここに来た意味は、そうやって、私が前に進むための……」




 誰もいない静かな部屋でつぶやく。


 そんな中、ふいにペリアは、テーブルの影に白っぽい何かがあることに気づく。


 重たい足を引きずるように歩き、彼女はそれ・・と対面した。




「あ……」




 膝から、がくんと崩れ落ちる。


 そこにあったのは、ボロボロの服を着た骨だ。


 うつ伏せで倒れる女物の服を着た骨の上に、折り重なるように男物の服を着たが倒れる。


 どちらも服は黒ずんでいて、骨も特に胴体が無惨にも粉砕されている。


 そのうち女性のほうの手元に落ちているものに、ペリアは四つん這いで近づいて、拾い上げた。




「こ、これ、って……誕生日にもらった……」




 家族に祝われた最後の誕生日。


 ペリアは人形がほしいと願った。


 もちろん傀儡術式で操るような上等なものは、農家に買えない。


 だから母親が両手で抱ける程度の大きさの人形を、ペリアのために作ってくれたのだ。


 魔術で操ったりはしなかったけれど、家にいるときはいつも持ち歩いて、寝るときも抱いて寝ていた。


 それが、両親の傍に落ちている。


 きっと8年前、モンスターは屋根を剥がして、家の中を覗き込んだに違いない。


 そして怯える母を、守ろうとする父を、その手で握り殺したのだ。


 二人は死の間際――未だ帰らぬペリアのことを想い、彼女が宝物にしていた人形を握りしめた。


 そんな光景が脳裏に浮かんだ。




「パパ……ママぁ……」




 ぼろぼろと、もはや涙を止めることはできなかった。




「う、ぅああ……あぁっ、パパあぁあっ、ママあぁああっ……っく、あ、うあっ、ああぁああああああっ!」




 縋り付くように二人の骨を抱き寄せると、ペリアの泣き叫ぶ声が廃屋に響き渡った。




 ◇◇◇




 ちょうどそのとき、フィーネは家の物置にある扉を開いたところだった。


 扉の近くには、兄のものと思われる骨が一部だけ残されていた。


 きっと他の部分は食われてしまったのだろう。


 そして物置の中には――子供の骨が、6人分。


 壁と、開いた扉の裏側を見てみると、引っ掻いたような傷跡がいくつも残っていた。




「お前たち……ここにいたんだな」




 フィーネには多くの兄妹がいた。


 彼女はその二番目だったのだ。


 何かと荒っぽい兄の影響を受けつつ、面倒見のいいお姉さんとして育ったからこそ、今の彼女がある。


 そんな彼女に懐いていた幼い兄妹たちの末路は――




「見つけるの、遅くなっちまってごめんな。苦しかったなぁ……辛かったなぁ……っ、みんなぁ……」




 ハイメン帝国を滅ぼす前だったら、この時点で怒りで狂っていたかもそれない。


 それぐらい、想像していたよりもずっとひどい死に方だった。




「みんな……優しくていい子だったのになぁ……こんな、こんなひどい死に方……ねえよなあぁあっ! 仇は、取ったからな……みんながひどい目に合った原因は、姉ちゃんたちが全部倒したから……!」




 そして、救えなかった自分への怒りも――戦いを終えたあとだからこそ、少しはマシになっているのかもしれない。




 ◇◇◇




 それから一時間ほどして、フィーネは三人が別れた場所までやってきた。


 泣きはらした目をしたペリアが、先にそこで待っていた。




「すまんペリア、待たせちまったか?」


「んーん、私もさっき来たばっかりだから」




 フィーネも同じく、目の周りが真っ赤だ。


 しかし、悲しくて悲しくて仕方ないのに、少し心は軽くなったような気がする。




「エリスはまだなんだな」


「うん……家族が見つからないのかもね」


「食われちまったんなら、残ってるとも限らねえもんな」




 そう言ってフィーネは、手に握った小さな骨を見つめた。




「それは?」


「家に落ちてた指の骨だ。どう探しても両親が見つかんなくてさ、ひょっとしたらこれがそうかもしれねえなって」


「そっか……」


「女の指だな、たぶんお母さんなんだと思う」


「あとでお父さんも見つかるといいね、私も協力するから」


「ああ、ありがとな」




 彼女の見せる笑顔は、やはりまだどこか弱々しい。


 二人が言葉を交わして十分ほど経った頃――ようやくエリスが戻ってきた。


 彼女も少し目が赤かったが、フィーネやペリアほどではない。




「時間がかかった、ごめん」


「気にしないで」


「エリス、お前の家族は……」


「いた」




 自分やペリアとの返答のトーンの違いに、フィーネはわずかに違和感を覚える。


 そもそも、エリスの家は二人の家より裕福で、少々広い。


 なので探すの時間がかかった――というのは理屈として通っているのだが、どうもそういう雰囲気でもなかった。




「私は、少し感覚が麻痺しているのかもしれない」




 わずかに目をそらし、少し悲しげにエリスは言った。


 ペリアはそんな彼女の手をぎゅっと握る。




「どうしたの? 何があったの?」




 今度はしっかりペリアと目を合わせたエリスは、自嘲っぽく微笑を浮かべ答えた。




「三人とも地下にいた」




 両親と、姉が一人。


 エリスの家族は全員、そこに揃っていたという。




「地下っつうと食料とか保管してた場所か」


「かくれんぼで使って怒られたことあったね」


「そう、そこ。三人ともその中で……自殺してた」




 エリスの穏やかな話し方とはギャップのあるその単語を聞いて、フィーネとペリアは言葉を失った。




「死んでいたのに、安心するのはおかしいのかもしれない。けど、モンスターにひどい殺され方するよりは、そちらのほうがずっといい」




 どうりで二人と温度差があるわけである。


 悲劇には違いない、だから涙は流した。


 それでも――せめて、少しでも安らかな死がそこにあるというのなら。


 この村全体を襲った惨劇に比べれば、ずっと、ずっと相対的には幸せだったに違いない、と。


 そういう真実もある。


 気持ちの精算もできる。




「エリスちゃんがそう感じたのなら、それでいいと思うな」


「ああ……別に泣いて苦しむことを目当てにここに来たわけじゃねえからな」


「……ありがとう。正直、引かれたらどうしようって少し不安だった」


「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」


「そうそう、私たちはエリスちゃんの全てを受け入れるから」


「全てか……?」


「そこで疑問符付けちゃ駄目だよフィーネちゃん!」


「ふふ、それもフィーネらしさ」


「あたしがまともなだけだと思うけどな」




 いつもの調子で、軽くじゃれあうペリアたち。


 そこには、いつまでも暗い気持ちを引きずっていられない、という意図が無かったとも言い切れない。


 なにせ、まだ目的は完全に果たされていないのだから。




「そんじゃ、そろそろ次に行きますか」


「まずみんなの家族から始めよう。そのあと、手分けして村に散らばってる骨を探さないとね」


「できれば日が出ているうちに儀式まで終わらせたい」




 いつまでも、死者の亡骸を野ざらしにしておくわけにはいかない。


 ペリアはファクトリーでたくさんの箱をここまで持ってきた。


 そこに遺骨を納め、死者を悼む儀式を聖職者であるエリスが行うのだ。




 ◇◇◇




 ペリアたちはまるまる一日をかけて、ディシデリに散らばった骨を集めきった。


 そして納めた箱の前で、エリスは錫杖を手に祭詞を唱える。


 ペリアとフィーネは後ろに立ち、無言でその様子を見つめていた。


 鎮魂の儀式が行われる最中、徐々に陽は落ちていき、空は茜色に染まろうとしている。


 そんな中、ふいにエリスは二人のほうを振り向いて言った。




「今、ちょうどみんなの魂が安定した状態でこちらを見ている」




 事実はともかく、儀式の中でそういうタイミングということらしい。




「何か言いたいことがあるなら今」


「何かって、もしかしてあれのことか?」


「そういえば、話す余裕なかったね」


「今言わないと、みんな天に還ってしまう」


「うぅ……家族だけじゃなくて、村のみんな全員に言うのかよ……」


「フィーネちゃんが言わないから、私が言っちゃおーっと」


「あ、おい待てってペリア!」




 止めようとするフィーネの言葉も聞かず、ペリアは両手を広げて大きな声で、空に向かって語りかけた。




「みんなー! 私とフィーネちゃんとエリスちゃんは、最近恋人として付き合いはじめましたーっ!」


「……まあ、そういうこった」




 仕方なく、フィーネも頭をかきながらそれを認める。


 すると彼女が見せた隙を突くように、エリスが言葉を付け加えた。




「結婚を前提とした交際なので、おそらく近いうちに式をあげる」


「いやそこまではまだ決まってねえぞ!?」


「二人のドレス姿を見るのが今から楽しみでーすっ!」


「ペリアもその気になってんじゃねえか!」




 フィーネのツッコミが止まらない。


 さっきまで厳かな儀式だったというのに、すっかりいつもの三人だ。


 色々と台無しだが、必ずしも別れが暗くなければならない決まりなどない。




「ほらフィーネも何か言わないと」


「そうだよお、さっきから何も伝ってないよ」


「ったく……わかったよ」




 二人に乗せられ、フィーネはポケットに両手を突っ込んで、オレンジの空に向かって言い放った。




「あたしは今……その、大好きなペリアと、エリスに囲まれて、最高に幸せだ。んで、きっとこれからもずっと幸せだ。だから、心配しないでくれ」




 耳まで真っ赤にしながら、それでもしっかり、自分の言葉で想いを告げる。


 それにエリスとペリアも続いた。




「私もフィーネやペリアと一緒にいる限り、何だって乗り越えられる」


「フィーネちゃんは今が最高って言ったけど、これからもっと幸せになるから。見ててね、パパ、ママ、みんなっ!」




 三人がそれぞれの言葉を伝え終えると、再びエリスは儀式を再開する。


 ペリアたちは、この場にずっと留まり続けていた魂たちが空の向こうへとのびっていく姿が見えたような気がした。




 ◇◇◇




 こうして、少女たちの戦いは一つの終わりを迎えた。


 しかしここは終着点などではない。


 ペリアたちは加速していく。


 前に進み続ける限り、立ちはだかる壁なんて、それ自体が停滞している限り、乗り越えられる障害でしかない――



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る