第126話 アタウロダンジョンの臭い奴

 モンスターコアの摂取を行ったUSの二人ジェフリーとデビット、DFTの松田もこの半年で大きくその実力を伸ばしていた。


 デビットの取得した身体強化は精鋭ぞろいのDキューブの中でも特筆できるほどの戦闘能力を彼に与えた。

 更にコアの摂取を続けてDEX強化も取得し武器の扱いも卓越した技能を見せる。


 ジェフリーと松田の取得したスライムコアによる能力、溶解液と異次元ボックスもLV3まで上昇し、ポーションⅣやミスリルまでの製作が可能になっていた。

 これによりポーションの流通はかなりの改善を見せる。


 この三人は基本一緒に行動していることが多い。

 モンスターコアの摂取と言う行動がつき纏うために、他人の目に晒される状況での狩りは難しいので、深夜の時間帯に代々木ダンジョンでの活動をしているのだった。


 取得スキルの性格上、松田とジェフリーだけでは狩りの効率がよくない事もある。


「なぁデビット、ロンドンの連中の例からすると三段階目は存在するはずだが、どういうルールがあるんだろうな?」

「ロンドンダンジョンシティを衛星から捉えたデータでは、ホブゴブリンが出現した時期からゴブリンリーダーが出現するようになった時期、ゴブリンジェネラルが出現した時期そしてゴブリンロードが出現した時期と段階があることは分かっている。これが俺たちに当てはめると三段階目、四段階目のスキル習得に当てはまるんじゃないかな?」


 ほぼ聖夜と一緒に行動をしているはずの遠藤エミは初期のグレーウルフからレッドウルフ、シルバーウルフ、ゴールドウルフと三回の成長をしていると思える。


 松田が意見を述べた。


「奴らが四段階目、五段階目に達した理由なんだけど、単純なコアの摂取量ではないんじゃないかな? もしそれだけが理由であればTBがもっとスキルを進化させているはずだと思う」


 ジェフリーが反応する。


「だとしたら松田が思う可能性はどんな理由がありそうなんだ?」

「TBが条件を達成してなくて聖夜とエミが達成している事を考えていくと支配下におくモンスターの数とかどうだろう?」


「だが、それだけであれば今回俺たちがモンスターコアの摂取でスキルを獲得できたように、スキルを身につけた人類はモンスターと同じくくりだとダンジョンに判断されてないか? そうだとすればDキューブを率いるTBの支配下には千人以上のスキル取得者がいるから違ってこないか?」

「……同属に限定されるとかどうだ? コアの摂取がデビットであればゴブリン系統しか駄目なように、同族を従える事が条件と言うならば聖夜達には達成しやすいんじゃないだろうか? 逆にTBの仲間にスキル系統の同じ配下が必要な数いないんじゃないか?」


「なるほど……可能性としてはあり得るな」

「俺たちが出来るTBに対してのサポートは体を張ってでもやるべきだ。この三段階目のスキル取得方法を見つけ出すことは、今後の攻略に必ず影響を与えるはずだ」


「そうだな、今後ロンドンの魔王軍と戦う可能性も高いから、奴らの進化の秘密を理解しておくことは重要だ」


◇◆◇◆


 アタウロダンジョンのボス部屋の前に揃った四人は、早速扉を開け放って内部に侵入した。


 目の前に広がる光景はトロピカルフルーツが立ち並ぶ果物の農園だった。

 麗奈がその光景に大喜びしてる。


「社長! これからはいつでもトロピカルフルーツ食べ放題ですよ! さっさと終わらせましょう」


 だがなんか嫌な予感がする。

 その時だった。

 強烈な腐臭が襲ってくる。

 特に嗅覚に優れた俺にはもはや地獄と言っても差し支えない。

 その臭いの正体が姿を現す。


「TB、あれは……ドリアン?」

「そうだな、麗奈、早く鑑定を頼む」


 そこに現れたのは何故か頭上に王冠を被った全長二メートルほどもあるドリアンだった。


「ドリアンって果物の王様って言われてるから、王冠被ってるんですかね? なんかベタですね。この臭いはちょっと厳しいですが……」

「社長、鑑定出来ました」


【キングドリアン】 レベル123

スキル

 腐臭(スタン、睡眠、麻痺、毒、石化、呪い、盲目の効果)

 シードボム

 ウイップバインド


弱点

 火属性


 ドリアンから強烈な臭いが次々に襲い掛かってくる。

 ポールが静かだなと思ったら、腐臭を吸い込んで石化を始めていた。

 

 風魔法のトルネードを展開して、臭いがこっちに来ないようにドリアンの周囲を囲む。


「咲、この臭い嗅いだらヤバイ、ポールを抱えて下がってくれ。キュア5を使えば回復するはずだ」

「了解」


「社長、でも、このドリアン鞭攻撃さえよければ動けないみたいですよ。私がクロスボウの火属性で狙い撃ちます」

「了解、俺は臭いがこっちに来ないようにトルネードを展開し続けるから任せた」


 でも……それで倒せるなら、このランクのボスとしては簡単すぎる気がするけどな? と思った直後だった。


 キングドリアンに突き刺さった麗奈の矢が引火してドリアンが大爆発を起こした。

 真っ赤に燃えた種が俺たちに襲い掛かってくる。


「ヤバッ」


 咲に回復されたポールが素早く盾を構えて、咲をかばう。

 俺は、耐熱装甲があるから大丈夫だが、麗奈をかばえるスキルが無い。

 とりあえず麗奈の首根っこを加えて、ジャンプで飛び上がった。


 そのまま海の中に飛び込む。


「麗奈? 大丈夫」

「あちこち火傷して大丈夫じゃないです。海水が滅茶苦茶しみてます」


 俺はすぐにエリクサーを取り出して、麗奈に飲ませた。

 咲たちと合流して様子を見る。


「TBこれで終わりなのか?」

「いや、ボスのコアも転がってないし、メッセージも聞こえないからまだだ」


「あの腐臭は可燃性の毒ガスみたいだね。相当ヤバいよ」

「弱点の火属性が罠ってことか」


「この辺りのボスになると、そんな騙しうちみたいなこともしてくるんだね」

「でも、火に弱いのは確かだったから嘘ではないけどな」


 そんな話をしてるうちに、さっきの爆発で飛び散った種が芽を出してあっという間に大木へと育った。

 その高さは五十メートルを超え更に一本の木に対して五十個程度のキングドリアンが実を付けた。

 その数は木の本数で百本を数える。


「ヤバいぞあれが全部落ちてきたら手が付けられない。TB、何か手は無いのか?」

「ちょっと思いついた手段はある。咲、居合でこの木を根元から切れる?」


「うん、たぶん大丈夫」

「俺が木に飛びついた瞬間にお願い」


 咲に頼んで俺はドリアンの木に飛びついた。

 咲が居合を放つと見事に幹を切断する。


 その瞬間に木を丸ごと収納してみた。

 成功だ。


「咲、次々行くよ」

「了解!」


 全部の木を倒した時にドリアンの実が一つ木から離れた。


「咲! 地面に落ちる前に斬って」

「はい」


 咲がドリアンをバラバラに切り刻むと黒い霧に包まれコアが転がった。


 早速、コアを飲み込む。


『ネームドモンスター『ドリャー』のコアを吸収しました。【状態異常耐性】スキルを獲得しました』

『ダンジョンナンバー『2150』クリア。ダンジョンマスターとなるか消滅させる事を選べます』


 久しぶりのネームドモンスターだ。

 こんな臭いの呼びたくないけどな……

 でも状態異常耐性スキルは便利そう!


 ダンジョンマスターを選択すると、最初のトロピカルフルーツが山盛りになった場所に飛ばされて、ダンジョンコアが現れていた。


 麗奈たちも駆け寄ってくる。


「社長! もうこのフルーツ食べちゃっていいですか?」

「いいんじゃない?」


「TB、なんでキングドリアンを収納できるって思ったんだ?」

「ほら、ダンジョンに生えてる薬草とかってそのまま収納できるじゃん? だから植物は大丈夫なのかな? って思ってさ。きっと実が地面に落ちてからだと駄目だった気がする」


「そうなんだ。でも助かった五千体のキングドリアンなんて絶対、無理だったからな」

「物量作戦が必要な場面で有効活用できるかな?」


「そうだね、今【状態異常耐性】スキルも手に入れたから、魔石を作っておけば使い道が広がるね」


「そいつは助かるな。次はTT(トリニダード・トバゴ)だな。また先乗りして行っておくな」

「頼んだよポール」


「ああ、任せろ。だが、ちょっと聞いておきたいことがある」

「なんだいポール?」


「最近の成長度合いの事なんだが、咲と麗奈はまだ納得できるんだが、USのデビットの成長が、俺よりもかなりのハイペースなのが納得いかないんだ。TB、なにか隠してないか?」

「あ、ああ。やっぱり気づいたか。そろそろDキューブ内では共有してもいいかなと思ってたんだけどね」


 ポールに対してモンスターコアの秘密を明かすことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る