第120話 麗奈の実家

 翌朝は咲と二人でランクルに乗って麗奈の実家へと出かけた。


 一時間ほどで到着した麗奈の家は都内なのに広い庭があり結構立派な道場が立っていた。

 家も年期の入った日本家屋だ。


 家の前まで到着すると、スマホで麗奈を呼ぶとすぐに出てきた。


「社長、咲、いらっしゃーい。お祖父ちゃんが社長に会うの楽しみにしてたよー」

「ちょっと怖いな……」


「結婚の挨拶じゃないんだから、心配しないでいいですって」


 そう言いながら広々とした玄関から、家に案内された。

 見た目は日本家屋だけど、応接室は普通にフローリングでソファーが置いてあった。

 

「麗奈、イメージ的にちょっと意外だね」

「そうでしょ? 私も和室の方がいいと思うんだけど、お祖父ちゃんがソファーのほうが楽だからっていうから」


「そうなんだ……まあ和室にこだわったからって武術が強くなるわけじゃないからいいのかな?」


 麗奈が咲のお茶と俺のミルクを用意してくれている間に、三人の人がやって来た。

 咲が立ち上がって挨拶をする。


「お邪魔してます。お久しぶりです皆さん」

「咲ちゃんいらっしゃい。そっちの黒い子猫が噂の社長さんかい?」


「はいそうですTBって言います」


 咲が俺を紹介してくれたから、一応挨拶をしておく。


「始めまして、いつも麗奈さんにはお世話になってます。TBです」

 と言って頭をぺこりと下げる。


 長いセリフ喋ったが当然、麗奈と咲以外には「ニャアニャニャニャニャニャアニャニャ」としか聞こえてないはずだ。


 麗奈が通訳してくれた。


「社長、ここに居るのが私のお祖父ちゃんの田中玄信で後は両親ね」

 

 お父さんはお祖父さんとは雰囲気が違ってダンディな雰囲気を持つ人だった。

 お母さんは麗奈がそのまま少し大人びた感じだが、とてもきれいな人で当然のように胸の主張が激しい。


「麗奈の父の田中敦です」

「母の美恵です。本当に子猫なんですね麗奈が迷惑かけてない?」


 と挨拶をしてもらった。

 ご両親は麗奈が実は世界最大級の企業のCEOである事を理解してるんだろうか?

 扱いが普通過ぎて逆に凄いと思った。


 お祖父さんが俺を品定めするように見てくる。

 すると、いきなり手裏剣を投げてきた。


「コワッ何この戦闘民族……」


 でも、ぎりぎり当たらない軌道だって解ったからそのまま動かないで、ミルクを舐めた。


「ほう、流石じゃな完全に見切っておるか」

「ちょっとお父さん、お客様にいきなり何するのよ」


 麗奈のお母さんが、お祖父さんに文句を言った。


「いやすまんな、世界最強の存在だと聞いておったから、どの程度の者か試してみたかったんじゃ」

「当たったら洒落にならないですからね」


「社長なら、ミスリルの武器じゃないと当てても傷つけられないと思うよ?」

「麗奈、余計なこと言うな」


 麗奈のお父さんが咲に話しかけてきた。


「麻宮さんもずいぶん強くなったようですね。全くオーラを感じないのに、隙も感じさせない。お義父さんの域をこえてますね」

「いえ、私なんてまだまだですよ。いまではれ……」


「すとーーっぷ、それは禁句だからね咲」


 どうやら麗奈は自分が強くなってる事は秘密にしてるらしい。

 この家族なら普通にバレてそうだけど……


「でも……TBの足元にも及びませんから」


「社長は別格だからね」

「どうじゃ、折角だから道場でひと汗流してみんか? ぱっと見で剣術では既に勝負になりそうにないと分かるから、こちらは田中流古武術道場のすべての技を出して攻撃を仕掛ける、すべてかわせたら良いものをやろう」


 麗奈が聞いた。


「それって咲に言ってる?」

「そこのTBにも言っておる」


「凄いぞ大興奮間違いなしの激レア、アイテムじゃぞ」

「興奮って怖いんですけど……」


 でも『ニャニャニャニャニャア』としか聞こえてない。


 場所を道場に移すとここは流石に純和風の道場だった。

 そう言う展開も予想してたのか、咲は道着を用意して来ていて更衣室で着替えてきてた。


「麗奈、ウオーミングアップがてらに久しぶりに手合わせしてみない?」

「いいよー」


 そう言って二人が竹刀を構えて打ち合いを始めた。

 って……ご両親とお祖父ちゃんの目が点になってた。


 動きが速すぎてアニメのヒーローたちの戦いみたいになってるからだ。

 でも、さすがに身体強化と剣術スキルを持つ咲の方が、素のステータスだけでは高い麗奈を圧倒し始めて綺麗に面で一本を取ったところで終わった。


「咲やっぱり凄いねー、今ならどうにかなるかと思ったのに、打ち込める隙が無かったよ」

「でも……今のはお互い竹刀だったからこの結果になっただけで、なんでもありなら麗奈の方が強いんでしょ?」


「どうかな? もう少しは勝負になるとは思うけど、咲に勝てる気はしないわね」


 二人の会話を聞いていて思ったが、麗奈はやっぱり咲には凄く遠慮してるよね。

 間違いなく今は麗奈の方が強いと思ったからだ。

 麗奈のお祖父さんたちは分かったかな?


 玄信さんが聞いてきた。


「のお、TBよ。お主はこの二人を相手にしても、もっと強いのか?」


 俺は胸を張って「ニャン」と言った。

 咲や麗奈と手合わせしたことも無かったから提案してみる。


「ねぇ、咲と麗奈の二人がかりで、俺と対戦してみる? 攻撃を当てれば咲たちの勝ちでいいよ。勿論麗奈はなんでもありでいいから」

「ちょっとやってみたいかも! じゃぁ私は薙刀使うね」


 そう言って道場の壁から薙刀を取ってきた。

 普通に刃がついてるし……殺る気マンマンなのか?


「私も興味はあるわ」と言って咲も再び面をつけた。


 二人が了解したので俺は道場の真ん中に行って右手の肉球を上にして中指の爪でクイクイってやってみた。


「社長、爪小さすぎて分からないから!」

「しっかり見えてたから反応したんだろ?」


 それが合図で始まった。

 最初の二分間くらいはひたすら咲と麗奈の攻撃をよけて見せた。


 その後は操糸スキルを使った立体起動とか使って見せて、俺のタックルで二人を転ばせて終わった。

 

「社長、あり得ないくらい強いですね。全く当たる気がしません」

「的、小さいからね!」


 俺たちのデモンストレーションを見た玄信祖父ちゃんが笑い声をあげた。


「ハッハッハ、いやぁこれほどまでとは思わなかった、わしとの手合わせはもう、しなくてもいいぞ。流石に無理と分かるわい。それに麗奈も強くなっていたとは思ったが、想像以上じゃの道場の跡継ぎは安泰でほっとしたぞ」


 すると麗奈が玄信さんに突っ込みを入れる。


「お祖父ちゃん? 私が道場継ぐわけないでしょ? 私は社長にずっと寄生して生きていくって決めてるんだから」


 そのセリフにご両親は残念な物を見る目で麗奈を見つめてた。

 玄信さんが胸元から古い本みたいなものを取り出す。

 

「これをTBにあげよう。田中流柔術の奥義の一つで【忍犬の極意】じゃ」

「俺猫だけど?」


 と、すかさず返事したが「ニャニャニャーン」としか聞こえなかった。

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