第118話 福岡へ

 朝の七時には起きだして羽田空港に向かった。

 新幹線は大阪のダンジョンシティと福岡ダンジョンシティで線路が寸断されていて、今は東京からノンストップではいけなくなって不便だ。


 在来線だけは早めに復旧されたけど基本高架で線路が走る新幹線では安全点検作業だけでも大変だからな。

 ダンジョン鋼でメッキをした鉄骨とコンクリートに耐溶解液の塗料を混ぜ込んだ物で新たに新幹線を補修する予定はあるそうだけど、予算的にも莫大な金額になるのでいつになるか分からない。


 俺たちは、アシュラフさんのカードを久しぶりに使ってプレミアムクラスのシートで福岡へ向かった。

 子猫の俺にもちゃんと一人分の席が用意されたが、ずっと穂南に抱っこされてたから使わなかったぜ。


「でもTB、Dキューブの経費ももっと使ってくれって言われるから、カード使わなくてもよかったんじゃない?」

「お袋、それは逆にアシュラフさんに悪いよ。ある程度使ってあげないとあの人たちは満足しないと思うよ?」


「そんなもんなのかい?」

「でもさー、お袋見た目だけならもう人間のころの俺と同級生と言っても不思議はないのに、口調だけは変わらないんだな」


「今さら、もてたいとか思わないしねぇ」

「そういえば空港は被害は無いの?」


「一応ダンジョン被害地域の外だけど、危険性はあるから不溶解性塗料が開発されて最初に全国の空港の滑走路に塗装したそうだよ」

「凄いね。それだけでも結構な額だっただろうに」


「この塗料の凄さの宣伝もかねて、格安で出したそうだけどね。それでも利益が二十億円くらいは出たらしいよ」

「儲かってるよな、そういえば家の周りの土地の買収って進んでるのかい?」


「そうだね町内はもうほとんど買収が終わってるよ。今は隣町まで範囲を広げてるところだね」

「でも、その土地で何かする予定はあるの?」


「折角だから中核に駐車場もちゃんとあるショッピングセンターを誘致して、モンスター対策もちゃんとした街を作ろうかなって思ってるんだけどね。まずは一端建物を全面的に解体して、モンスターが潜んでるような状態をなくすところからだね」

「それって、お袋が考えたの?」


「やだよお、私がそんなこと思いつくわけないじゃない。国土交通省から来た南さんっているじゃない? あの人がいくつかプランを考えて持ってきたのを『じゃぁこれ!』って感じで選んだだけだよ」

「お袋にしては話が大きすぎると思ったよ。でも、南さんが持ってきた話ならもっと範囲が広がりそうだな」


「そうね、代々木が全く使えない状況だし、渋谷から新宿までの間と変わらないほどの規模の街を新たに生み出すつもりだそうよ。ショッピングセンターに併設する駐車場だけでも、十万台規模で駐車できる地下駐車場を計画してるみたいだしね」

「すげぇな、その新しい町の中心が今建ててる俺たちの家になるのか?」


「取得した土地がうちが中心だからそうなっちゃうわよね」

「うちの周りは出来るだけ静かに過ごせるような街づくりで頼むよ」


「隣はお祖父ちゃんの家だし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 そんな話をしている間に福岡に到着した。

 NDFが協力してくれるので装甲バスが迎えに来ている。


 俺たちはバスに乗り込み、まず大名にある祖父ちゃんの家に向かう。

 街の真ん中のわりに高層ビルなどは無く平屋建ての家も点在する。

 マンションは結構多いがそれでも東京の様な高層建築の物は少ない。


 三階建て以上の物件に関しては全面的に立ち入り禁止になっていて、祖父ちゃんの家は数少ない立ち入り可能物件だけど、範囲的にはダンジョンシティ内だから、結局は居住出来ない。


「祖父ちゃん、必要な物とかあれば全部俺が収納していくから言ってね」

「助かる。祖母さんと一緒に整理するから他を回ってきておいてくれ」


 祖父ちゃんがそう言うと穂南とお袋が「私たちも手伝うよ」と言ったので、結局俺はNDFの隊員さんと一緒に天神の街を歩いて回った。


 最近のブームになってる、生きたスライムの捕獲をする人たちが結構な数いる。

 みんな不溶解性の材質で出来たウエットスーツの様な装備で同じく不溶解性のクーラーボックスを肩にかけて捕まえたスライムを、放り込んでる。


 DFTに持っていけば一匹、五千円で買い取ってくれるので、これだけで日当十万円を稼ぐ人もいるから、ダンジョン内で狩りをするよりは金銭的には恵まれるんだよね。


 福岡ダンジョン自体は三次ダンジョンで既に十五層スタンピードが発生していて十五層までのモンスターが町中に潜んでいるから、一般の人たちでは太刀打ちできないのが実情だ。


 福岡市役所の避難事務所がももち浜のドーム球場そばのホテルを一時的に借り上げて使用されているので、そこで市長と都市整備担当の人と話すことになってるが、子猫の俺が一匹で行ってもしょうがないので、祖父ちゃんの手が空いてから連絡を入れよう。


 街を一緒に歩くNDFの隊員の中には、俺が自衛隊に居た時の同僚で同じく佐世保の水陸起動団に所属していたメンバーが居た。

 長尾准尉といい、歳も同じ年で俺や松田とも結構仲が良かったやつだ。

 一応今日のメンバーでは一番上の階級だな。


 俺の正体は、おおっぴらには教えてないので、まさか進だとは思ってないだろう。

 スマホでチャット画面を入力して見せる。


『長尾准尉っていつNDFに加入したんですか?』

「えーと、黒猫社長って進で間違いない?」


『何で知ってる!』

「ああ、松田から聞いた」


『マジか! あいつには機密が通用しないな。他にヤバい話とか聞いてないだろうな?』

「機密に当たりそうな話は聞いてねぇよ」


『知ってるんならまぁいいや、これ使ってくれ』


 言語理解の魔石を使わせた。


「どうだ、聞こえるか?」

「まじか、猫と会話してるぞ俺」


「心配しなくても他の人が聞いても、俺はニャーニャー言ってるだけにしか聞こえねぇから」

「他の猫や犬とも話せるのか俺?」


「いや、言語を持っている者としか話せない」

「なんだそうなのか、うちのビーチと話せると思ったのに」


「ビーチって誰だ?」

「うちの猫だ」


「有効時間は二十四時間だけだからな。外人さんとかなら普通に会話が成立する」

「そいつは凄い、中洲の北欧キャバにでも行こうかな」


「仕事しろ!」

「まあ冗談は別として、俺は松田が自衛隊辞めるときに斑鳩大佐を手伝って欲しいと頼まれたんだ。大阪ダンジョンのレイスでスキルも取得できたし、戦闘向きのスキルだったのもあるからNDFに参加した」


「ほう、どんなスキルだ?」

「AGI強化だな今はレベル3で30%アップだ」


「使えるスキルだな」

「進はもっとすごいのいっぱい持ってるんだろ?」


「それなりにな。だが進って言うなし」

「すまんすまんTB社長でいいのか?」


「TBだけでいい」

「分かった」


「折角だから、祖父ちゃんから連絡入るまで街中のモンスター狩ってまわるぞ」

「了解」


 二時間ほどの時間を福岡ダンジョンシティ内のモンスター退治にあてた。

 スライムは周りに捕獲業者が居れば譲ったよ?

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