第113話 ロンドン二十層とマスターランク4

 魔王教団が立ち上がって最初のスタンピードを迎える、ロンドンダンジョンでは既にネットでの書き込みを中心に集まった信者が二千人規模になっていた。


 当然入信と同時に魔石を飲みこまさせるために、知性のあるモンスターが二千体存在するだけではあるが……


『ねえ聖夜、そろそろ二十層のスタンピードだよね布陣はどうするの?』

『今更この程度の階層なら中ボスが出てきたって大したことはないさ。エミと俺とジェシカで十分だろ。後の連中は一層に待機させてスタンピードの制圧をさせる』


『なんだかんだ言って、ちゃんと約束守ってるところが聖夜らしいよね』

『ふん、モンスターが好き勝手に暴れたら俺たちのロンドンシティが住めなくなるだろ?』


『私たちもモンスターだよ?』

『今はまだモンスターなだけだ。必ず人間に戻る手段はあるはずだ』


『早く人間になりたいよね』

『エミ、そんな漫画なかったっけ?』


『知らないよ?』

『嘘だな』


 今のこの段階で聖夜は『ゴブリンロード』エミは『ゴールドウルフ』まで成長している。

 エミの背に跨りロンドンダンジョンの中を自由自在に駆け回る聖夜はまさにロンドンダンジョンの領主となっていた。

 その容貌はモンスターながらも知性を感じさせる。


『でも聖夜はあと二段階くらい進化すれば、普通に人の言葉話せそうな見た目だよね』

『そうだが体のサイズがどんどんでかくなるし、やはりモンスターには変わりないからな』


『私たちが順調に強くなってるように TBも成長してるのかな?』

『ああ、それは間違いない。俺がこんなに頑張ってもまだランキングは五位にしか上がってないからな。TBと、その取り巻きの連中が四位までに並んでるだろう。決着をつけるにしてもロンドンダンジョンのメンバーで百位以内の順位の連中が半数を超えてからだな』


『聖夜、ちょっと思ったけどTBと戦う必要ってあるの?』

『俺たちがもし人の姿に戻れたとしても、今のままでは受け入れられずに犯罪者の烙印を押されるだろう。でも仮にTBが存在を消せば俺たちを頼らなければダンジョンから人間を守れない状況であれば、日本は無理でも他の国は受け入れるんじゃないのか?』


『そっかあ、やっぱり日本は無理?』

『だろうな……』


 そんな話をしている間にスタンピードが始まった。


『エミ、ジェシカ行くぞ』

「ウォン」

(プルプル)


◇◆◇◆


『ジェームス中佐、ロンドンの状況はどうですか?』

『ポールか、監視ドローンでチェックしているが、ダンジョンの外に出てこないな。いたって平和だ』


『それは良かった……んですよね?』

『解らんが、今はまだ奴らに任せた方がいいのかもしれん』


◇◆◇◆


『ユミさん、鮎川さんお待たせ。とりあえずこれ使って』


 ポートビラダンジョンに戻るとまず言語理解の魔石を二人に使ってもらう。


「このまま突入するけど一階の迎撃部隊は大丈夫?」

「二百名体制で魔道砲も五基装備してますから大丈夫だとは思います」


「突入したらボスの写真撮って見せてね」

「了解です」


 ボス部屋の扉を開けて突入する。

 

「あーーー麗奈連れてくればよかったな」

「そこは高さ三十メートルほどの櫓が多数作られていて、その高さから紐なしバンジーでゾンビが襲ってくるステージだった」


「これは生理的に無理ですね。臭いが激しいですし」

「鮎川さんは聖属性の魔石込めた魔道砲で狙い打ってて! 落ちてしまえば動きは早くなさそうだから大丈夫と思う。噛まれないように気を付けてね? きっとゾンビになりそうだから」


 ボスはどこ? と思っていたら、櫓から櫓へ飛ぶ巨大な影が見えた。


(あれだな)


 俺もジェット噴射で櫓の上に飛び乗った。

体重三百キログラムはありそうなゾンビが他のゾンビより豪華な服を着て、手には太い竹をもって飛び回ってるが、その首には明らかに人の頭蓋骨らしきものがいくつもぶら下げられている。


 これって……やっぱり食人族なのか?

 デブなのに……ゾンビなのに……めっちゃ素早い……


 デブゾンビが櫓を飛び回るたびに次々に新しいゾンビ櫓から紐なしバンジーしていく。

 これじゃぁ鮎川さんたちがもたないな。

 俺も一度降りると鮎川さんたちの傍に行く。


 ここは物量作戦だよな!


 眷属召喚【赤城】


 目の前の海に相変わらずの巨大な艦体が現れる。

 

『艦砲射撃で櫓を全部崩してゾンビを焼き払え』


 あっという間に櫓はすべて倒され、ボスのデブゾンビも地上に落ちた。


「鮎川さん、ボスを狙って!」


 魔道砲でデブゾンビに聖属性のジェット水流をかける。

 『ジュワーー』という音と共に大量の白煙が巻き上がると、鮎川さんが「やりました!」と声を上げた。


「あ、それ絶対言ったらダメなパターンだし」


 案の定、白煙が晴れると何事もなかったようにデブゾンビは立っていて首からぶら下げた骸骨を投げつけてくる。

 投げつけられた骸骨は物にぶつかると受肉してゾンビになる。


 しかも首の骸骨、投げても減ってないし……


「ボス、やっと写真撮れました」


 その時になってやっと無言で写真を撮り続けていたユミさんがボスをフレームに収めて見せてきた。

 ジャッジボタンをタップする


【カニバルホロコースト】 レベル60

スキル

 ゾンビ召喚

 消化吸収

 ゾンビ化

 魔法無効

 物理攻撃99パーセント防御


弱点

 熱湯


 これは……熱湯がなきゃほぼ倒せないってことだな。


『赤城艦長、聞こえてるかい?』

『マスターどうしましたか?』


『調理場の大鍋を外に放り出せる?』

『大丈夫です』


 一分ほどで船のデッキから五右衛門風呂みたいなサイズの鍋が放り投げられた。

 鍋に海水を満たすと火魔法で一気に過熱して沸騰させた。


 続いてゼロ戦ゴーレムを一機呼び寄せるとコクピットに乗り込む。

 鍋にフックをかけて持ち上げると、そのまま低空飛行でボスゾンビに突っ込んだ。

 俺はぶつかる寸前に脱出ボタンで飛び出したよ?


 熱湯をかけられたデブゾンビが動こうとすると、動くたびに火傷した肌が裂けて中身が剝き出しになった。


 超グロイ……

 でも……この状態なら攻撃が通りそうだ。


 俺はオリハルコンダガーを口にくわえて、デブゾンビを切り刻んだ。

 やはり皮が無ければ普通のゾンビと変わらなかった。


 バラバラにしたところでもう一度、鮎川さんに魔道砲で聖属性のジェット水流をかけてもらうように指示を出す。


「ボス! 念には念をで火属性の魔石も使って熱湯バージョンにしましょう」

「お、了解!」


 そこまでやって漸く黒い霧に包まれて消えていきデブゾンビのコアが転がった。

 

「なんか臭そう」


 と言いながらも飲み込む。

 

『【カニバルホロコースト】のコアを吸収しました。【魔法無効】スキルを獲得しました』

『ダンジョンナンバー1171クリア。ダンジョンマスターとなるか消滅させることを選べます』

『マスターランクが4に上昇しました』


 ネームドモンスターではなかったようだな。

 眷属召喚したくないから良かったけど……


 いつの間に復活したバンジージャンプ用の櫓の上にコアクリスタルが現れた。

 当然ダンジョンマスターを選び、固有種配置で【カニバルホロコースト】を配置しておく。

 

 魔法無効は助かる。

 それとマスターランク4で出来るようになったのは四次ダンジョン発生国までの指定転移が出来るようになった事と、ダンジョン転移がパーティ単位で出来るようになった事だ。


 かなり使い勝手が上がったな!

 

 一層に戻るとポートビラの警察官で編成されたダンジョン即応部隊が、Dキューブに派遣されている社員の二人に指揮されて無事故で切り抜けていた。


「お疲れさん!」


 と声をかけたけど当然その場に流れる声は『ニャンニャニャ』だった。

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