第109話 穂南とお袋が大忙し?

「穂南。どうしちゃったのいきなり英語ペラペラとか。超凄いね」

「あー。それね。昨日さ、ダンジョンの十五層の中ボス戦で出ちゃったの」


「出たってお化け?」

「お化けと英語全く関係ないじゃん。スキルオーブだよ」


「えー凄いじゃん。英語の話せるスキルなの?」

「うん。英語だけじゃ無くて何でも話せるの。なんとね、TBとも普通に話せちゃった」


「えっ? 猫と話せるの? 犬もOKな感じ?」

「えーとね。知能レベルって言うか。言語を持ってる種族じゃないと駄目だと思う。他の猫は話せなかったから」


「そうなんだ。でも。十分凄いね」

「うん。お陰で今日から放課後は毎日二時間、Dキューブの研究室に監禁だよ」


「それも大変だね」

「私はダンジョンでお小遣い稼ぎの方が良いのに」


「ただ働きなの?」

「なんかバイト料出るらしいけど、日払いじゃ無いからね」


「そっか。ダンジョンだとすぐ貰えるからねぇ」

「うん」


「お母さんも凄いスキル身に付けちゃって、大騒ぎなんだよね」

「それは、私も聞いたよ」


「あ、そっか。美咲の父さんの病院がDキューブの医療と魔法薬部門の臨床を担当するんだったよね」

「そそ。ポーションやエリクサーだと取引価格が超高額だけど、穂南ママのスキルだとMPのある限り在庫関係なしなんでしょ?」


「あーそれね。実は結構落とし穴があったんだよ」

「そうなの?」


「MPさえあればエリクサーと同等の効果があるんだけど、足らないの」

「MP?」


「うん。TBが言うにはね、スキルをたくさん身につければMPは劇的に増えるって言ってるけど、そんな何個もスキルって簡単に覚えないじゃん」

「だよね。じゃぁ実際は使えないの?」


「ポーションのランク3程度は全然使えるよ。緑ポーションは安いからそれ飲みながらだと、赤ポーションや青ポーションの一割程度の経費で同じ効果」

「十分凄いじゃん」


「でもね、ポーションは薬扱いだから、薬事審議会で鑑定済みの物は承認出てるけど、スキル治療だと現状は医師法の管轄で、継続して業としての治療行為を行うのはお医者さんじゃないと駄目って法律があるから、お母さんがお医者さんの試験とか受かる訳ないし、家族に使う程度しかしちゃ駄目なんだって。今は臨床試験で少しは治療してるけど」

「えー…… 法律ってメンドイネ」


「うん。でも母さんは助かったって言ってるよ。スキルレベル上げたら使用MPは減るから、法律的に面倒な事言わないアフリカとかで活動して、スキルLV上げようかな? とか言ってるし」

「なんかフリーダムだね」


「うちの母さんだからね……」


 ◇◆◇◆ 


 学校から戻るとお兄ちゃん達が、今日BBのブリッジタウンダンジョンへと出発するっていう事でもう、出かける準備を整えてた。


『穂南、Dキューブへの協力は出来る範囲でいいからな』

「うん。お兄ちゃんもまた変な事に巻き込まれ無いようにね?」


『大丈夫だ。今回は既にボス部屋出現してるし、一日で終了するはずだよ。それが終わったら又次のダンジョンがボス部屋出るまではそれなりに時間取れると思う』

「解った気を付けてね」


 俺は麗奈と咲と三人で横田基地から、BBへと旅立った。


「社長。洋子さんのスキルって、MPを上昇させる手段とか無いんですか? 裏技的に」

『無い事は無いかなって思ってるんだけど、現状危険が大きすぎて試せないでいるんだ』


「聞かせて貰っても良いですか?」

『うん』


 俺は考えていた手段を、咲と麗奈のグループチャットで教えた。


「えー!? それ可能なんですか?」

『だから、可能性が高いってだけで確実じゃ無いんだよ』


「社長の予想通りだったらかなりヤバいですよね」

『うん。一気に攻略の幅が広がるだろうしね。ちょっと、USのジェフリーにでも相談しようかと思ってる。日本はこういう事には消極的な判断しか出せないだろうから』


「私は、社長が頼むって言ったら、やっても良いですけど失敗したら100%嫁にして下さいよ?」

『いやいや。そこは麗奈がギャンブルする場面じゃないだろ? 一応DキューブのCEOだから対面上問題あり過ぎる』


「麗奈。安全が確認されるまでは絶対にやめてね」

「咲。私だってそれくらい解ってるって」


 久々のダンジョンも無事クリアして、攻略班は次のVU(バヌアツ)に向かう。

 ポール以外は、メンバーが入れ替わるので一度横田経由となる。


 オーストラリア大陸の東の南太平洋上にある、この国は83の島々によって構成されるが、ダンジョンがあるのは首都ポートビラだ。


 この国で有名なのは…… バンジージャンプくらいかな?

 現地のペンテコスト島という島の成人の儀式なんだよね。

 勿論、安全とは程遠い設備でやるので見てるだけでも超怖い……


 俺達はポールの率いる攻略班を横田で見送って、Dキューブの本社に移動する。

 そこで、USの二人のスタッフ、ジェフリーとデビットを呼んで、麗奈と咲と俺の五人で、スキル取得方法のミーティングと言うか、秘密会議を行った。


 事前に、極秘と伝えてあるので、ジェフリーとデビットも緊張の面持ちだ。

 

「マジかよ…… それが本当に有効な手段だと凄い事になるぞ。既に世界で百二十万人のスキル取得者が居るし、各国が自力での防衛やダンジョン攻略が可能になるかもな。発表をするかどうかは、実験結果を待ってからUSと日本の代表者に委ねる事になるが、問題は誰が実験をするかだ。俺がやろうと思う」


「ジェフリー。本気か?」

「他の奴に話を持って行って情報が洩れる危険性を考えたら、他の適任者は居ない。最悪ロンドンの聖夜やエミの様に意識は残るだろうから、その場合はここの研究室に閉じこもる事にするよ」


 そう。

 俺が思いついたのは、既にスキルホルダーであればモンスターコアを摂取した場合も変異が起こらないのではないかと言う事だ。


 俺が、変異を起こさなかったのは、ほぼ間違いなくアンデットモンスターと認識されたからだろうし、既にスキルと言う人ならざる能力を持った人間は、モンスターと認識されるのではないかと考えたのだ。


 かなり可能性は高い。

 ただ…… 一番取得した場合に強力な能力になるのは、スライムなんだが、トイレ問題が起こる以上、勧められない。


 文明国で生活する人間がトイレ利用できないとか、無理ゲーだよな。

 女性なんかだと、まじ自殺もんだよ……


 男だと最悪ダンジョンで立ちションって言う手段もあるけど、それでも雫がたれたりしたら、ズボンヤバいし……


 まぁその辺は俺が言ってもしょうが無いから、習得スキルのリストは渡して、自己責任で頼むか。


『じゃぁジェフリーが実験するでいいのか?』

「ああ、覚悟は決めた。実験失敗の時は頼むぞデビット」


「ああ、任せろ」


 そしてその日の深夜、代々木ダンジョンの二層で実験は行われた。

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