第97話 穂南の日常②

『もしもし。美咲どうしたの?』

『穂南。どうしよう。詩織と恵子がアルミラージに突撃されて…… やばいの。私だけじゃどうしようも無くて。スライムも出てきて…… このままじゃ、詩織と恵子がスライムに食べられちゃう。どうしよう』


『え? どこなのそれ? 周りに人はいないの?』

『周りの見通しが良いとこの方が良いと思って、神宮球場の正面の所で狩りしてたんだけど、周りには誰も居ない……』


『そのまま待ってて、絶対無理しちゃだめだよ。十分以内には行けるから』

『解った』


『119番もしたんだけど魔物に襲われてるって言ったら、NDFに連絡をして安全確保が出来てからじゃないと行けないって言われたの……』

『うん。今は美咲が襲われないように隠れてて。到着したら電話するから』


 私はお母さんに頼んで、車で神宮球場に向かってもらった。

 お祖母ちゃんも一緒に車に乗ってくれた。


「言ってる側からこんな事になっちゃうとか。困ったわね」

「うん。どうしようお母さん。私がポーション使って治してもいいのかな?」


「そうねぇ。状態を見てからじゃないと解らないけど。アルミラージだと恐らく重症でしょうね」

「ポーション3とか使って治療しないと駄目でしょうけど…… 親御さんの許可を貰わないと駄目かな?」


「いくらするんだっけ? ポーション3」

「納品価格で350万円だったかな? 流通価格は500万円以上ね」


「勝手に使って請求は出来ないよね」

「親御さんの許可無しで使うなら、上げるつもりで使うしかないわね。それでも構わないんだけど、そんな助けられ方しちゃうと反省もしない様な気がするわね」


 そんな事を話しているうちに神宮球場に到着した。

 今はこの辺りで野球の試合が行われる事も無いので閑散としている。


 正面入り口の方に向かうと美咲が居た。


「美咲。詩織と恵子は何処?」

「あ、あっち」


 震えながら指をさす方向に二人が倒れていた。

 お母さんとお祖母ちゃんは既に武器を取り出して走り出してた。 

 私もその場でクロスボウを取り出して狙いを定める。


「えっ? 穂南それなに?」

「そう言うのは後で!」


 お母さんたちが辿り着くよりも早く、私は優れた動体視力で側にいたアルミラージを射抜いた。

 お祖母ちゃんとお母さんが集まって来ていたスライムをどんどん倒す。


 辺りは血まみれになってて、詩織の足は既にスライムに取りつかれて、膝から下は消化されていた。


 その時

「グルルルルゥ」という唸り声が聞こえ、血の匂いに誘われたのかウルフが十頭程も集まって来ていた。


「キャアアア」

 美咲が叫ぶ。


「落ち着いて美咲。これくらい平気だから」

「だって……ウルフだよ。平気なわけないじゃん」


「いいから静かにしてて」


 私はクロスボウでグレーウルフに狙いを定めると、素早く三連射した。

 突き抜けて倒れたウルフを含めて五頭が、霧に包まれ消えた。


 残りの五頭も、お祖母ちゃんが鋭いやり捌きで倒した。

 お母さんは詩織と恵子の状態を確かめている。


「お母さん。二人を治してあげて」

「いいのかい? この状態だと恵子ちゃんはランク4。詩織ちゃんはランク5のポーションが必要だよ」


「うん。美咲。今日の私達が来てからの事は、絶対学校でみんなに秘密にしてよ。もしばれたらポーション代請求するからね? ランク4が二千万円。ランク5だと一億円くらいだからね?」


 私がそう言うと、美咲は頭をガクガクと縦に振っていた。


 お母さんが自分のマジックバッグから、ポーションを取り出して二人に飲ませると、柔らかな光に包まれて二人の傷は癒えていった。


「穂南。みんなを家に送って行ってあげたほうがいいでしょ?」

「うん。そうだね。その前に一度うちに来て貰ってちょっと話した方が良いと思うの」


「穂南がそうしたいなら、それでいいけど親御さんたちに連絡はしないと駄目よ?」

「うん。解ってる」


 みんなを車に乗せて、家へと戻った。


「あれ? 穂南引っ越したの? こんなすごい所住んでるんだ」

「言って無かったっけ? 今うちは建て替え工事中なんだよね。その間知り合いの人の所に住んでるの」


「そうなんだ。でもなんか凄い豪邸だよね」

「まぁそれは良いけど、三人とも少しは落ち着いた? 傷は治っても、服とかボロボロだから、シャワーを浴びてから私の服に着替えて」


 そう私が言うと、詩織と恵子も今の自分の姿に気付いた様だ。

 アルミラージの突進を胴体に受けていた2人は制服に大きく穴が開いていて、あちこち見えちゃいけないものが見えてる。


 シャワーから戻って来た、美咲が口を開く。

「あの、穂南のお姉さんとお母さんですよね? ありがとうございます」

「美咲? 私にはお姉ちゃんなんか居ないよ。兄弟は死んじゃったお兄ちゃんだけ、お母さんとお祖母ちゃんだよ」


「えっ? ええええええええええ? どう見ても20代の人と40前後くらいの人じゃんお祖母ちゃんとかありえない」

「まぁそれはいいから。あんな危ない事になってもう懲りたでしょ? 絶対スコップだけ持って魔物狩りに行くとかしちゃだめだよ」


 詩織と恵子も戻って来て、うなだれていた。

「あ、あの。今日のお薬っていくらくらいするんですか? 私達。働いて払います」

「あ。詩織も恵子もそれは聞かない方が良いと思うよ? うちはちょっと特殊な理由でお薬の在庫があったけど、普通だと手に入らない薬だから、きっと値段聞くと後悔しちゃうよ?」


 先に値段を聞いていた美咲は、ちょっと顔が青ざめてた。


「あ、あの。穂南とか穂南のお母さんって、なんであんなに強いんですか?」

「ん-…… 鍛えてるから?」


「それって私達も出来るのかな?」

「出来なくはないけど、安全じゃ無いからおすすめは出来ない」


「ねぇ穂南。ちょっと三人だけで話しても良いかな?」

「うん構わないよ」


 そう言うので、私とお母さんとお祖母ちゃんは一度二階に上がった。


 ◇◆◇◆ 


「詩織。恵子。あなた達に使って貰った薬ね…… 想像は付くと思うけど、ポーション4とポーション5だよ。一般的に出回って無いけど、価格は二千万円と一億円の薬だって」

「うん…… 私の足溶かされてるの、気づいてたから解ってる。もう絶対に死んだと思ったもん」


「私もお腹に大きな穴開けられて、血がどくどく流れてたし、絶対死んだと思ってた」

「どうしよう? 命の恩人だよね」


「穂南達に鍛えて貰ったら、私達も強くなれるのかな?」

「あなた達あんな目に遭って、まだ戦うつもりなの?」


「えー? いっぺん死んじゃった様なもんだし、一億二千万円なんて親に言っても絶対払えるわけないんだから、他に手段なくない?」

「DOGEZAして弟子入りしようよ三人で」


「マジ?」

「大まじだよ」

「うん私もマジ」


 三人が話を終えて、穂南のスマホに連絡が入ったので、お母さんたちと事務所に降りて行くと、綺麗に土下座を決めた三人が並んでいた。


「ちょっ。私の服で土下座なんてしないでよ。汚れるじゃん」


「「「あ。ごめん」」」

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