第98話 穂南の日常③

「お願いします。私達三人を魔物と戦える様に鍛えて下さい」


「うーん。お母さんどうしよう?」

「そうねぇ。三人とも今からご両親をお呼びする事は出来る? 三人のご両親がここに来て、今日の事もちゃんと話した上で許可を貰えるんだったら、聞いてあげるわ」


 三人は少し考えたけど、結局意を決して家に電話をした。

 それから二時間程が立ち、三人の親御さんが訪れた。


「初めまして。美咲の父で志村昭雄と言います」

「初めまして。詩織の父で三村孝明と妻の雅美です」

「お久しぶりです。洋子さん。恵子がご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 美咲のお母さんはスタンピードの時に亡くなられていた。

 恵子のお母さんは恵子が幼稚園のころからシングルマザーで恵子を育てていて、私とも幼稚園の時からずっと友達だ。

 お母さんも当然面識がある。


 私のお母さんは本来は四十九歳なんだけど、一人っ子の恵子のお母さんはまだ三十八歳で実年齢は随分若い。

 最初おばあちゃんのほうに「洋子さん若返られました?」って聞いてた。


 お祖母ちゃんが、「私は穂南の祖母の幸子ですよ? 洋子はこっち」と、二十代にしか見えないお母さんを指さすと、親御さんたちがドン引きしてた。


 それから、今日の神宮球場での出来事を報告して、三人が鍛えて欲しいと言っている状況を伝えると、


「美咲。お父さんはダンジョンの魔物によってお母さんを失って、美咲までそんな事になったらとても生きて行けない。許したくは無い。でもこれから先ある程度の自衛手段を身につけていないと、この土地で暮らして行く事自体が危険だと言う事も解る。約束しなさい。お父さんより先に死ぬことは許さない。守れるか?」

「う、うん。絶対にお父さんを守れるほど強くなるから。ちゃんと結婚して、お父さんに孫を抱かせるって約束するし」


「な、まさか、そんな相手がいるのか? それはまだ早い。許さんぞ」

「ち、違うって、ものの例えだよ」


 ちょっとグダグダになった所で詩織のお父さんの三村さんが、「ゴホン」と咳払いをして話し始めた。


「穂南ちゃん。洋子さん。幸子さん。今のお話をお聞きして、大変高価なお薬まで使って頂いて詩織を救って下さったことを感謝します。私ども夫婦には詩織は大事な一人娘です。出来れば危険な事をさせたいとは思いません。それでも今の日常、東京でも魔物は存在しているのも事実です。どうか防衛するための力を身につける事が出来るのなら、私達親子三人揃って鍛えて頂けませんか?」

「ちょっお父さん何言い出すのよ。お父さんたちも一緒だなんて」


「あら。詩織。洋子さんの姿見てごらんなさいよ。洋子さん? その姿は幸子さんも含めて、魔物を狩る事で身につけられた、若返り方法が有ると言う事で間違いないですよね?」

「は、はい。確かにそう言う効果はあると思います」


「なら決定よ。私達も若返って昔のようなラブラブカップルに戻るわよ」

「お母さん。何恥ずかしい事言ってるのよ」


「詩織。他の理由はどうでもいいんだ。俺達は詩織を守るための力を付けたい。どうせ今は会社も長期休業中だし時間はあるからな」

「あの? 私達は付きっ切りでご指導は出来ませんし、出来るだけ危険のない育成方法をアドバイスするだけですが、それで構いませんか?」


「勿論です。よろしくお願いします」


「恵子? あんたはちゃんと鍛えて貰って、今日のお薬の分くらい自力で稼いで、洋子さんにお返しするんだよ? 私もこの歳までお水の仕事であんたを育てて来たけど、今日の洋子さんの姿を見て覚悟は決まったわ。ダンジョンに潜るよ」

「ちょっと母さんまで何言い始めてるのよぉ」


「いいじゃない、母さんが洋子さんくらいまで若返れば、まだまだイケルんだから」

「何がイケルの?」


「どうするんだい洋子? この方達の面倒を見て上げるくらいは私が出来るから、それでいいんじゃないかい?」

「お祖母ちゃん本気で言ってるの?」


「ダンジョンで亡くなられた方も多い中で、若返りや、ポーションの事で今までの世界では考えられなかった希望を与えて上げれる事も一つの事実だから、これもDキューブという会社の活動の一つと考えればいいんじゃないかい?」


 Dキューブという言葉が出てきて、喰いついたのは美咲さんのお父さんだった。


「あの? Dキューブとおっしゃられましたが、今ダンジョン関係で話題の黒猫が社長のDキューブですか?」

「あ。ご存じありませんでしたか? ここの事務所はこれでもDキューブの本社なんですよ。黒猫社長は元々うちのなくなった息子が拾って来た猫だったんです」


「それは凄い。世界のダンジョン攻略の最先端じゃありませんか」


 その情報を聞き、三人の親御さんたちも改めてびっくりしていた。


「私は仕事は病院の医師をしておりまして、整形外科を専門としています。是非ポーション医療の本格的な発展を目指して、協力関係にありたいと思いますが、ご助力を願えませんでしょうか?」

「あら。そう言う関係のお話は、麗奈ちゃんとTBが居ないと勝手に出来ませんので、一度社長に伝えてはおきますからそれでよろしいでしょうか?」


「はい。構いません。ご連絡をお待ちしております」


 結局お祖母ちゃんが放課後の時間帯に指導を行う様にすると言う事で、話は纏まったけど……

 なんだか、この三人だけで終わりそうにない気がするのは、気のせい?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る