第96話 穂南の日常
私はお母さんと一緒にお兄ちゃんと咲さん達が作った会社の事務所兼自宅に住んでいる。
お祖母ちゃんも一緒だよ。
私たちが住んでいた家は、今は建て替え工事中なんだよね。
お兄ちゃんがお金はあるんだから、思い切って家を建て替えようと言ってくれたからだ。
実際うちの家は今時都内で百坪近い土地があって、家はぼろかったけど公示土地価格っていうの? それで計算すると結構な高額の物件だったらしい。
らしい? って言うのは代々木ダンジョン出現以降、新宿近辺の土地価格は実勢価格が0になってると言う状況だからだ。
うちの場合はお兄ちゃんがダンジョン鋼などの高額な金属をいくらでも用意できるから、家を建て替えた場合でも安全性は確保できるしって言ってたけど、家の周りに魔物が存在する事は変わりないから、住みやすい街ではなくなったかもね?
定期的に訪れるスタンピードの危険性を考えれば、誰も今この地域の土地を購入したいと考える人はいないし、買い手が居ない以上価値は無いに等しいからね。
実際うちは代々木からは少し離れているけど、それでも初期のスタンピードで溢れた魔物による被害は、週に二、三件はニュースで伝えられている。
ダンジョン発生以前の常識で考えたら、東京で通り魔被害なんて起こればそれこそ、全国版のニュースで取り上げられるような問題だから、日本も大きく変わっちゃったって言う事だよね。
高層建築物の被害が特に甚大で、見た目は綺麗に見えても基礎部分をスライムに溶かされたりしていて、実際二十三区内で高層建築物なんて基本的に立ち入り禁止物件の方が多いからね。
私の学校の同級生たちもこの一年でダンジョン被害の無い地方都市へ引っ越して行った人が半分以上だ。
特にマンション住まいだった人達は否応なしに、引っ越しを強制されてるしね。
ネットで騒がれている情報だと、ダンジョンは今出ている六次ダンジョンまでで出現は終わったんじゃ無いかと言われているけど、それも確証がある訳じゃ無い。
日本の国としては、もう少し様子を見て七次ダンジョンが現れないと言う事になれば、遷都を行う予定になっているそうだ。
候補地としては大都市圏の中では唯一ダンジョンの発生が無かった名古屋近辺にしたいらしい。
今はその噂が出回って中京圏の土地価格が凄い事になってるらしいけど、もし名古屋にダンジョン現れたらどうするんだろ?
そして私は、今日もまじめに学校へと通ってるよ。
一応大学には進学したいしね。
今、私達の学校で一番話題になっているのは、
先生たちは「魔物は危険だから近づくな」って口を酸っぱくして毎日のようにホームルームで言うけど、実際は殆どの生徒が放課後はダンジョンへ行ったり、町中の魔物を見つけて倒したりしてる。
意外に街中でのハンティングの方が人気なんだよね。
理由は、ドロップにある。
ダンジョンでは五層より先に行かないとドロップは現れないんだけど、街中で遭遇するモンスターは、スライムからでもドロップ品が現れる可能性が高いからだよ。
そして今日も放課後になると、何人かのグループを作って、街中で狩をする為に出かける人たちが盛り上がっていた。
「ねぇ穂南。あなたも私達と一緒にスライム狩りに行かない? スライムだったら溶解液だけ気を付けてたらスコップで楽勝だし、結構いいバイト代になるよ?」
「えー美咲も狩りを始めたの? 危ないからやめときなって、怪我をしてからじゃ取り返しがつかないよ?」
「だってポーションなんてドロップしたら。今はDFT社が十二万円で買ってくれるし、私達だって二日に一回くらいは実際にドロップしてるからねー。これを覚えちゃったら止められないよ。もう大学とか就職とか馬鹿らしくて考えられないじゃん」
「そうなんだ。怪我をした時のリスクは全部自分で背負わないといけないんだから、気を付けなよ?」
「穂南は全然戦ったことは無いの?」
私は、実際はお兄ちゃん達のお陰でミスリル製の武器も持ってるし、下着やマジックバッグなんかも最新verの装備品だけど、そんな事は学校では秘密にしてる。
だって普通にヤバそうだしね……
猫の絵(一応お兄ちゃんらしい)が描いてあるお母さんのお手製のトートバッグは、百㎏まで収納可能なマジックバッグで、愛用のミスリル製のクロスボウや、オリハルコンのダガーナイフなんかも常に入れてあるけど、これはあくまでも護身用だよ?
他にも過保護なお兄ちゃんが赤ポと青ポのランク3を五個ずつ持たせてくれてるし、これだけでも売りに出せば一財産だよね……
私が学校に行ってる時間帯は、お母さんはお祖母ちゃんと二人で代々木ダンジョンに潜ってる。
お祖母ちゃんも随分とステータスが上がっていて、代々木ダンジョンの一般探索者と言う括りでは、既に上級者と言ってもいいかもしれない。
私やお母さんだと、NDFの人達を除けば恐らく国内トップクラスかな?
「どうしたの穂南?」
「あ、いや。私はお母さんが心配するし、それにそろそろ車で迎えに来てくれるから、やっぱり止めておくよ」
「付き合い悪いね。ま。いっか。私達は狩りが終わったら打ち上げでカラオケ行くから、その時にまた連絡するね」
「うん。解った。本当に気を付けなよ?」
「大丈夫だって」
そう言って美咲と別れ、車で迎えに来たお母さんと一緒に家に帰った。
「どうしたの穂南? 元気ないね」
「あのねお母さん。今学校で殆どの生徒が放課後はお小遣い稼ぎで、魔物狩りに行ってるんだよね。ドロップ品出たら結構な額になるから」
「そうなの? 装備なんかちゃんと整えてるのかい? かなり安くなったとはいえ、ダンジョン鋼の装備品でも二十万円位はするでしょ?」
「そうなんだよね。みんな普通のスコップとかで、狩りしてるみたいだから心配なんだよね」
「そんなんじゃスライムや精々ゴブリンくらいまでしか対応できないでしょ? ウルフなんか出てきたら、大怪我しちゃうじゃないの」
「何て言うかみんな、イマイチ危機感が薄いんだよね。クラスメイトだけでも何人もスタンピードで被害にあってるって言うのに」
「穂南。力をひけらかす事はなくても、友達が危険な状況にならないように、気を掛けて上げてね」
「うん」
「そう言えばね、うちの隣の山上さんのお宅がね静岡に引っ越す事になって、お家が売りに出されてるんだよね。あそこはうちより土地が広くて150坪ほどあったから、今までなら5億円くらいの価値が有ったらしいんだけど、不動産屋さんに売りたいって言ったら、5000万円って言われたんだって」
「えー1/10まで下がっちゃったの?」
「それでも新宿辺りに比べたら売れるだけましだって言ってたよ。今は新宿辺りだと固定資産税は取られるのに、誰も買おうなんて思わないから、全域が不良債権になってる様だし」
「で? それを言うって事は、お母さん買うつもりなの?」
「うん。お爺ちゃん達も来たし、お金をとにかく使ってくれってDキューブの税理士の先生にも言われてるでしょ。だから町内の土地が売りに出たら全部買おうと思ってるの」
「何か凄いね。もし代々木のスタンピードの危険性がなくなったりしたら、凄い事になりそう」
「でしょう? まだ一般的な情報として進がクリアしたダンジョンはスタンピードを起こさなくなるって言う事実が知られてないしね」
「お母さん…… 意外にやりて?」
「この事務所も安く買えたし、ダンジョンシティの内部は流石に政府が一括で管理してるけど、Dキューブとしてダンジョンシティの外延部分の土地の取得と合わせて行っていく予定よ」
「他のダンジョンの周りはどうなの?」
「他の所は情報が無いし、全然わからないけどダンジョン省から新たに十人程Dキューブに出向してくる人たちが、巨額な資金の使い道に対して適切なアドバイスを行ってくれるそうよ?」
「ねぇお母さん。お兄ちゃんっていくら持ってるんだろ?」
「いくらなんでしょうね? アシュラフさんのカード持ってる時点で意味が無さそうだけど」
「それもそっか」
そんな話をお母さんと話をしてたら、美咲から着信があった。
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