第90話 ロンドンどうする?

『TB。遠藤君だが暫く私の補佐を頼みたいので、当面合流を出来ないが構わないか?』

『遠藤さんだけですか?』


『ああそうだ。鮎川君は麻宮さん達と一緒に戻って貰う』

『了解しました。あの? もしかしてエミと聖夜絡みですか?』


『な……TBは彼女たちは生きていると思っていたのか?』

『はい。そうですね。恐らくロンドンの魔王軍の正体は聖夜とエミだと思っています』


『なる程。それなら話は早い。こちらの遠藤ユミ君にエミを名乗る者からスマホにメッセージが入ったんだ。真偽の程と要求の内容を突き止めるために、私と二人で対応しようと思っている』

『解りました。何か解ればまた連絡をお願いします』


 ◇◆◇◆ 


 展開としては楽しいけど、俺が早くダンジョンから出れるようにならなきゃどうしようもないな。


 麗奈たちは明日中にもKIのタラワダンジョンへとやってくる予定になっている。

 アシュラフさんとカールブラック大統領が緊急で手配してくれたボーイング737のD³仕様の機体が横田基地へ準備してあるそうだ。


 この737は特別仕様で座席数は大幅に少なくゆったりと作られ通常百二十六席の機体だが百席ほどになっている。

 余裕のある機体には大き目の燃料タンクがサブで用意され、二万㎞以上の航続距離を確保出来る。


 パイロットもこの機体を飛ばす事を熟知した日本の航空会社出身者をD³で四名雇用して運用して貰う。

 整備に関しては民間では不安要素が高いので、横田基地をベースとして米軍にお願いする事になった。

 当然有料だけどね。

 カール大統領が友達価格で請け負ってくれるそうだ。


 それに伴ってだけど、六次ダンジョン出現国を中心にD³討伐班への人員派遣を募った。

 直接の人選や対応はUSのジェフリーとデビットに任せる事になるけど、過去の経験で多くの人員を教育して来た実績も踏まえて、修三祖父ちゃんにも今回の採用に協力して貰う事になっている。

 前例で既に各国の諜報関係者でさえも受け入れているのは、国際的な諜報関係者の中では知れ渡っているので、堂々と各国から諜報畑を歩んできた人員が送り込まれてくるとは思うけど、逆にダンジョン関連の技術や情報は、どんどん真似出来るならしていいよ?


 うちの会社から条件を出しているのは、ダンジョン関係以外の事での諜報行為が確認された場合は、即刻解雇と以降のD³から当該国家への支援を断る事が通達してある。


 大丈夫だよね?


 ◇◆◇◆ 


『エミ? あなたは本当に生きていたの? 本人だと証明する事は可能かしら?』


 私はエミを名乗る相手に対して返信を行った。

 

『お姉ちゃんの初恋の相手は中学の野球部の大輔君。後はそうね。ロストバージンの相手は大学の先輩の和也さんかな』

『ちょっ、エミ何てことを言うのよ。解ったわよどうやら本人のようね』


『ヘヘェ。どうせお姉ちゃんの事だから一人で私と連絡を取る決断なんかできないだろうし、この文面は誰かに見せなきゃならない条件付きでやり取りしてるだろうからね』


 エミは私の行動をある程度予測した上で、連絡をしてきたようだ。

 なんでいきなり私のロストバージンの相手を島長官に教えなきゃいけないんだよ。

 もしエミに会ったら絶対ひっぱたいてやる!


『それで、何を協力すればいいの?』


 その画面を見る島長官も、このやりとりに少し困った表情をしていた。


『きっとそんなに悪い話じゃないと思うよ? 私達が持っているダンジョン産の薬品や金属類を買って欲しいんだよね、それと私達が希望する物資を用意して欲しいの』

『そんなの、普通に売りに行けばいいじゃない? 大体エミは一体どこに居るの?』


『うーん。まぁいいか。どうせ予想は付いてるでしょうから……ロンドンダンジョンだよ。取引は私が姿を現す事は出来ない事が一点と、ロンドンダンジョンシティの中にはお姉ちゃん以外の人が入って来ない事。入り口には私達の監視の目があるから約束を破ればGBは壊滅するよ?』

『ちょっとすぐに返事は出来ないわ。少し時間を頂戴』


『そうね、すぐには決断は出来ないでしょうね。でもあげれる時間は二十四時間だけ。それを過ぎたら裏社会の組織に取引相手は変更するよ。因みに私達は既にミスリルやランク4ポーションの在庫は所持してるからね。取引材料として使えるほどの量を』


 そのやり取りを見て、島長官はGB大使館経由でMI6のジェームズ中佐へと連絡を取った。

 ロンドンダンジョンのGBでの扱いがどのようになっているのかを確認するためだ。


 それから三十分もしないうちに連絡が入り、Dキューブへと出向しているポール大尉がNDFの本部へ訪れた。


「島長官。恐らく今回取引を持ち掛けて来たのは魔王軍Demon King Armyを名乗る勢力に間違いないと思います」

「やはりそうか。TBも同じ意見だった。問題は彼らがTBと同じように高度なアイテムを手に入れる手段を持っていると言う事だな。どんな方法を使ったんだろう」


「TBが魔物のコアの摂取を行っていたと言う事は、私達行動を共にしていた者の中では公然になっていますが、既に前例がある様に人間がコアを摂取した場合、その魔物に変異してしまいます。確認されていたのはそこまでですが……もしかして変異した後に自我が残っていたと言う可能性は予測できます」

「なる程。失踪したGBの諜報員が青木警視と遠藤警部補を使った人体実験を行った結果と言う事ですか?」


「MI6が組織として行ったとは思えませんが、その可能性は高いと思います。しかも彼らが軍を名乗っている事から、それなりの人数を確保できていると言う予想も成り立ちます」

「その辺りはポール大尉に心当たりは?」


「一時期ロンドンダンジョンの探索者の行方不明者の割合が上昇した時期があり、私も部隊を率いて、内部調査を行った事がありました。一月ほどで異常値は収まりそれまでと変わらない数値に落ち着いて来たので、調査活動は終了しましたが」

「彼らの目的は何処にあるのだろうか?」


「それは全く見当が付きませんが…… 取り敢えず裏社会と取引されると面倒が増える事だけは確かですから、申し出を受けるべきではないかと思います」

「解りました。GB側と調整を行い返答をする事にします」


 ◇◆◇◆ 


『エミ。ユミは話に乗ってくれそうか?』

『乗るしか無いんじゃないかな? 乗って来なかったら本当にマフィアとでも取引をすればいいだけだし』


『それは出来れば避けたいな。もし俺達が人間に戻れた時に表舞台に戻る事が不可能になる。今の状況ならうまくいけばダンジョンを攻略して、復権を勝ち取る事も可能性としては残っているからな』

『聖夜って結構人生に未練タラタラだよね』


『エミだってどうせなら人として幸せな人生の方が良いだろ?』

『まぁね』


 聖夜は結構見通しが甘い気もするけど、もしかしたら本当にこの世界の事を考えてたりしてるのかな?

 でも私も本気で魔王になりたいなんて考えて無いからね?

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