第81話 【閑話】遠藤ユミ
「遠藤警部、君の妹が国際的な犯罪に手を染めた事実が発覚した」
「えっ? エミは国内トップシーカーの警護任務に当たっていたはずですが、なぜそのような事態に……」
「今、話題になっているJDAによる特殊ドロップ品の搾取に関わる件で勤務中に入手した情報を利用し青木警視と共謀して裏ルートで流出させた」
「そんな……それで青木警視とエミはどうなったのでしょうか?」
「JDAの不正でこれだけの大騒ぎになっている中で更に警察庁職員が横領したなど発表すれば長官以下幹部の首が全て挿げ替えられるほどのスキャンダルだ……残念だが事前に情報をくれたGBのMI6に処分を任せる事になった。この件は一切の口外を禁ずる」
「担当していたマルタイは事実を把握しているのですか?」
「それに関しては既に警備局内ではマルタイが殉職したはずの自衛官『北原進』三尉であると認定している。この国の法律上では、まず認められることは無いであろうが……その北原三尉と内々の取引を行い、以降監視を送らない条件で本件の秘匿に同意して貰っている。パーティメンバーにも漏らさないという条件だ」
「それは……マルタイは経済的損失は回復したのでしょうか?」
「いや5500万ドル相当のアイテムは既にマカオの裏社会で取引され消失して、マルタイに対しては一円も入っていない。全てを知らぬと言い切れば、元々のJDAから正当な対価が補填されるはずだ。出来なければJDAは法人として死を迎えるな」
「それは? 倒産ですか?」
「あの組織は元々が国が半分を出資して出来上がった組織で、職員も主にこの警察庁からの天下りが殆どをしめる組織だ。倒産をさせる選択は出来ない……しかしここまで状況が悪化すれば自立再建も難しいだろう。別法人に吸収させる手段しかないだろうな」
「引き受ける会社があるんでしょうか?」
「ダンジョン省から職員を送り出して、許認可関係をスムーズに通す条件で一社立ち上げを行うが……」
「何か問題が?」
「会社を立ち上げる代表者で相川と言うJDAの部次長を務めていた男性だが用意が周到すぎると言うか、この流れを全て把握していたような動きを見せている。恐らく国外勢力がバックに付いていると予想できる」
「それは単独国家でしょうか?」
「その辺りがまだはっきりはしないが、複数国家の連合体が後ろ盾である可能性も高い。そしてその場合は、わが国単独では動きを抑える事は難しい」
「しかし、許認可はダンジョン省しか出来ないのですよね?」
「そうだ。だが当面許認可の必要となるアイテムは先ほどのマルタイからしか提供されない。こちらは今回の青木警視の件で表立って動けなくなった所なだけに非常にタイミングが悪い。遠藤警部は再び警察庁が彼らに接触できるタイミングが出来た時に素早く懐に潜り込めるよう準備をしておいて欲しい。既に各国の諜報機関が姿を現している以上、日本だけが乗り遅れるわけにはいかないからな」
◇◆◇◆
私の妹であるエミがとんでもない行動に出てしまった。
上司で
当然エミと結婚を前提としてお付き合いをしている報告も受けていた。
青木警視は私が狙っていたのに、いつの間にかエミが落としていた。
超焦るよね。
妹に先に結婚されるのだけは防ぎたいし……
そう言う意味では良かったのかな?
いや、良くない!
二人とも犯罪を犯しそうな人物では無かったが、流石に六十億円にも上るアイテムが宙に浮いている状態であれば、心が動いてしまったのか……
GBの諜報局に連れ去られたのであれば、生存は難しいかも知れないけど、あの二人の遺骨を弔ってあげることくらいはして上げたいな。
冷たい姉? そう思われてもしょうがないけど、例え仲の良い妹であっても、この仕事に携わる以上、絶対に守らないといけない事はあるの。
それを出来なかった以上は、しょうがないわ。
マルタイに関して警備局は人と認めているのなら、それも疑いようのない事実なのであろう。
現在トップランカーであるのなら、警護に付く可能性を考えれば、私自身もダンジョンでのステータスアップをしておかなければならないわね。
◇◆◇◆
だがその日から一月間にも及び、対象の消息を見失う事態に陥ってしまった。
タイミングが悪かったのは、全く見張りも付けていなかったために、家族もろとも関係者全てが消息不明だった。
唯一マルタイと良好な関係を築いていたであろう斑鳩二尉までも、自衛隊の中でのチンケな権力抗争のせいで、自宅謹慎処分中になってしまっている。
私が今出来る事はDFT社の内情の調査と背後関係の特定くらいだ。
これは決して敵対的に見る訳ではなく、ダンジョンを巡る世界の流れに、この国が取り残されないようにする事。
それがエミの残した警察庁の汚点を拭い去る為の私の責務だわ。
◇◆◇◆
エミたちの消息が途絶えて一月が経った。
この一か月間で日本は大きく揺れていた。
天神スタンピードでの自衛隊『地下特殊構造体攻略班』の失態。
上田二佐の自殺により、事実上この組織自体がまともに機能しなくなった。
後任人事に就く者が居ないそうだ。
この問題を引き起こしたとされる陸自の伊藤将補も更迭され依願退職の形になった。
彼に下された命令が「次のスタンピードの突入部隊の陣頭指揮を執って最初に突入を行え」であったそうだから、ほぼ百パーセントの確率で自分の腹心たちと共に死ねと言われたのと同じに感じたのかもしれない。
絶望的な空気が流れ始めたこの国は、意外にも起死回生の一手を打って来た。
この国の閣僚で最も人気のある、島官房長官を前面に押し出して先日の贈収賄疑惑で更迭されていた斑鳩二尉の地位と権利を回復させ、更に新組織では世界中の軍と呼ばれる機関では異例の僅か二十六歳での大佐への就任と言う事で話題を集めた。
確かに初期のダンジョンのスタンピードでの実績もあり、黒猫TBこと北原三尉の存在が確認できない以上、最善の人事だろう。
それから超法規的な人事を次々と発令し、自衛隊と特殊警察官の混合でNDFは旧『地下特殊構造体攻略班』をはるかに上回る人数と体制を整え、世界が初めて迎える十層スタンピードに挑んだ。
その結果は……
劇的ともいえるTBの出現で僅か五分で解決するという結果になった。
NDFの存在も世界に認められる最高のスタートだろう。
このスタンピードで世界中で五千万人の死者が発生したのに、日本では0。
完全に天神スタンピードの対応で世界に後れを取った日本の低評価を覆した。
それに引き続きTBの特殊能力とUSの大統領から直接の指示により、世界が未曽有の大惨事を乗り切る。
本来なら、このカール大統領の立ち位置に藤堂首相が付かなければならなかった点が日本の残念な所だよね。
世界中に存在を認められた黒猫TBに対して、今の日本が出来る事はTBのバックアップだ。
恐らくパーティメンバーである田中、麻宮の両名を除き最もTBに近い存在である斑鳩大佐を広告塔に仕立て上げ、日本とTBの良好な関係を徹底的にアピールするだろうな。
そして漸く表面上の問題が整理され、私も当初の予定通りTBの運営する会社Dキューブへと出向が命じられた。
出向期間中は公務員としての権利の凍結状態である。
Dキューブを退社すれば公務員の権利は復帰する。
私と共に厚生労働省の鮎川さんも派遣された。
高級アイテムの存在を正確に把握するためだ。
製造方法自体がファンタジーすぎて、学んだから出来ると言う性質の物でない以上は生産者と仲良くする以上の入手方法が難しいからね。
その辺りをカール大統領やAEのアシュラフ王はうまくやっている。
Dキューブに合流を果たした私は、世界の第一線で活躍するスパイ軍団と行動を共にする事になる。
エミと聖夜はこの化け物たちを相手に活動してたのか……
彼らの口にする言葉は本当に感情が伝わらない。
本気なのか冗談なのかも判断できない。
だが、実力は確かだ。
そう思っていた私の斜め上を行く存在が居た。
TBの代理人田中麗奈と麻宮咲。
この二人は私が実力は確かだと思わせたスパイ連合のメンバーを赤子の手をひねる様な感じで上回る。
年下の女の子に恐怖を感じた。
この連中を裏切ろうと思ったエミってある意味大物なの?
でも……死亡が確認されたわけでは無いのだから、もしかしたら再び会える日もあるのかもしれない。
その時は私はエミに言ってやるわ。
「私より先に嫁に行こうなんて絶対許さないんだからね!」って。
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