第75話 もう一つの会見

 首相官邸での会見が終わるとリムジンでいったん代々木の事務所へと戻った。

 そのタイミングを見計らったかのように、DFTダンジョンフェアトレード社の相川社長から電話が入って麗奈が応対してた。


「社長、今から相川さんと松田さんが二人できても良いかって言ってるけどどうしますか?」

『いいんじゃない? 咲やお袋たちが帰ってくるまで、ここで待ってるしか無いんだし』


「そう伝えますね。そう言えば咲達は何時頃に付くんですか?」

『お昼は過ぎるんじゃない? 成田からトレーラーでコンテナごと運ぶとか時間かかりそうだし』


「ある意味貴重な体験ですよね」

『あー穂南が言ってたけど窓が無いから全く実感が湧かないんだって。カラオケボックスみたいとか言ってたぞ』


「そうなんだ」


 そんな話をしているうちに相川さんが松田と共に訪れた。

 この事務所からDFTの社屋までは直線距離だと三百メートルくらいしか無いから早いよね。

 まぁ実際にはダンジョンシティの防壁があるから八百メートル程度は歩かなきゃいけないんだけど。


「田中さん。TBさん。無事な姿を見る事が出来て安心しましたよ。天神スタンピードの前日にお会いしてから一月以上も会えなかったので心配しました」

「結構引きこもってましたからスイマセン」


「斑鳩大佐から、うちの松田部長が情報を伺ったみたいですが鑑定魔導具を完成されたらしいですね」

「社長? それはOKな内容ですか?」


『ああ。大丈夫だよ』

「それは、機能としては鑑定だけでしょうか?」


『ダンジョン内通話などは出来ないですね。特殊能力は完全に鑑定機能だけです』

「それでも十分です。取り扱いをDFT社に一任して頂けるなら一台三十万USドルで引き受けたいと思いますが、いかがでしょうか?」


『結構いい値段ですね。作成に大量のMPを消費しますので、台数的には日産で二台ずつくらいしか作れませんが、それで良ければ納品しましょう。他にも便利な商品は在りますけど、現状はMPの消費の問題で、量産が難しいので作りためた物がある時にお願いします』

「了解しました。現状はジャッジホンがあるだけで、各ダンジョンシティに拠点を作る事が出来るだけでも助かります。今日この後で発表を行いますがJDAと業務を統合します。存続会社はDFTでJDAの今までの職員たちは基本的に天下り組は全て退社して貰い、JDAの職員には探索者シーカーを育てる業務に取り組んでもらいます」


「それって? ラノベであるみたいな学校みたいな感じですか?」

「そうですね、学校という程の長期間の教育では無いですが基本的な戦い方や基礎知識を学んでもらう場所ですね。後はランク認定も行っていきたいと思ってます」


「それは? 個人とかパーティーとかでつけるSランクとかそう言った感じの機能ですか?」

「その通りです。探索者は以前お話ししたように、税金などを最初から差し引いた形で買取を行いますので、マイナンバーカードの進化版のシーカーカードだと思って頂ければいいです。銀行口座も連動して、キャッシュレスでの取引が基本となりますが、それにプラスした感じで、DFT社が個人鑑定を行った上でランクを認定します。強制力のない認定ですが概ねの探索階層などの目途が立てやすいので、我が社の基準でランクと推奨階層の一覧を作成し、事故の抑制に努めようと思います」


『へー凄いですね。それなら一般探索者の事故が減りそうだ』

「松田部長が仲の良い同僚をダンジョンで失ってから少しでも同じ悲しみを味わう人が少なくなるように、ずっと考えていたそうなんです」


『松田。エロいだけじゃ無かったんだな』

「え? まさか俺にそんな事言うやつってお前、進かよ?」


『ああ。そうだ。二十代で大きな会社の部長さんなんてすげーな』

「なんで進が猫なんだ」


『まぁ色々あるんだよ。でも俺はあの時死んだのは本当だ。一般探索者が少しでも安全に狩りが出来る様に頑張ってくれよ』

「進がTBなのは当然秘密だよな?」


『そうだな。バレたら松田が彩の小さなカップのブラを盗んだのバラスぞ』

「バッお前。何で知ってるんだ」


『俺も狙ってたからだよ』

「同罪じゃねぇかよ」


「松田部長、今後そう言う犯罪はくれぐれも引き起こさないようにな? 今そんな情報が露見すればわが社のダメージは結構大きいから頼むよ?」

「相川社長、これは進の、いえTBの陰謀なんです」


『往生際悪いな。だがよろしく頼むな』

「ああ、こちらこそだ」


 こうして大体の流れも決定し、その後のテレビで行われたDFT社の会見で大きく報道された。

 JDAとDFTの合併も衝撃だが一般的に魔導具の存在が明らかにされ世界中からジャッジホンのバックオーダーが初日だけでも一万台を超したそうだ。


 俺が三十万USドルで納品すれば四十五万USドルで販売するらしく松田がもう少し生産台数を増やしてくれと泣きついて来た。

 

 まぁ作れば作るだけぼろもうけだし、少しは緑ポーション飲みながら頑張るかな。



 午後になって漸く咲やお袋たちが戻って来て、祖父ちゃん夫婦も東京で一緒に暮らす事になったので、取り敢えず実家の建て替え工事を急いでもらう事にした。


 二世帯住宅で一階部分はダンジョン鋼の防御板を使った最新式のスライム対応物件だ。


 建築に半年間くらいは掛かるが、その間はこの事務所でみんなで合宿生活だな。


 そうそう、祖母ちゃんが祖父ちゃんが若返ったのを見て、自分だけ年老いたままだと祖父ちゃんが若い女と浮気したら嫌だからとか言いだして、祖父ちゃんと一緒にアンチエイジングするんだって。

 若返るのは良い事だけど、穂南より全然年下の叔父さんや叔母さん作るなよ?

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