第70話 オーガ撃退武器

 俺は横田基地で麗奈と合流すると、すぐに大統領から頼まれていたポーション類を米軍にわたしてパリのオルリー空港に向けてC-17輸送機で飛び立った。


 積み荷が少ない状況では余裕で無給油でのパリまでの飛行が可能な機体だ。

 彩はNDFとしての初戦になった代々木ダンジョンと札幌ダンジョンのスタンピードを、死亡者なしで切り抜けた事を国民にアピールすると言う重要な仕事を残しているし、現時点で国外に出る事は無理があるので横田で別れた。


 今回はカール大統領が日本の総理にも直接連絡し『世界のスタンピードをおさめるために、黒猫TBの力を借りたい』と、頼んでくれていたので、代理人である麗奈と共に国外へ向けての行動は、日本政府も承認した上での行動だ。


 途中AEで咲達とも合流したいが、咲達は出国をちゃんとした手段で行っていないらしいので、日本に戻るのはまた別々の動きにならざるを得ないだろうね。


 でも、爺ちゃんやお袋も一緒に居てくれるのは安心した。

 聖夜達の事もあったし、俺が居ない中では日本と言えども安心できないからね。


 アシュラフさんに感謝だよ。

 横田では操縦士以外のメンバーは再びジェフリーとデビットが合流していた。


 すでにスタンピード開始から七時間が経過しており、各国も総力を挙げて食い止めてはいるが、軍の絶対数の少ない国であるアフリカ諸国やアジアでは、かなり厳しい状況になっているらしい。


 だが戦える人数を大量に抱えている国、特にCNやUSが周辺国に対して、魔物鎮圧のための部隊を派遣する行動に出ていると言う事だった。

 

 国境はあっても地続きだし、他人事じゃ済まされないからだけど結構思い切ったよね。


 日本も隣国であるKRに部隊を貸し出そうかと打診したが、丁寧に断られたそうだ。

 嫌われてるよね……


 

 それでも俺一人で出来ることなどしれてるから、パリへの移動中に準備をする。

 横田で用意して貰っていたのは、四百発のロケットランチャーの砲弾だ。


 こC-17輸送機の中で、ひたすらミスリル材質にして、雷魔法を付与する。


 この弾頭であれば、十層のオーガならコア付近の心臓部分に当てれば、一撃で倒せるはずだ。


「TB? その弾頭って値段付けたらいくらになるの?」

『うーん。ミスリルが一発に付き200gくらいだし魔法付与してあるから2500万円くらいかな?』


「凄いねー集金するの?」

『今回だけは広告宣伝費でもいいかとも思うけど、そんな事言うと『次も当然ただで出せ』って言う所もありそうだから、カール大統領やアシュラフさんに相談しようかな? って思ってるよ』


「なるほどねー。取引って難しいよね」

『うん』



 俺達がオルロー空港へ到着する頃には無事に準備も終わっていた。

 ロケットランチャーの引き渡しはジェフリーに任せて、デビットと共にパリダンジョンに向かった。


『アンリかい? TBだ。今パリのダンジョンに付いた。今から突入するからあと一時間我慢してくれ』

『TB! 待ってたぜ。こっちは負傷者も無しで神殿のセーフティーゾーンだ』


『了解』


 俺はエッフェル塔そばのダンジョン入り口に到着すると、けが人の治療やスタンピードの抑え込みの手伝いを麗奈とデビットに頼んで一人でダンジョンに飛び込んだ。


 俺の風魔法で覚えたジェット噴射が優秀なので、ジャンプと同時に発動すると楽に百メートルくらいは飛べるから便利はいいよ。

 口にミスリルサンダーダガーを咥え、空を飛ぶソナーバット達を切り裂きながら、突入した。


 一層から五層へはリフトを使う。

 そこからはジャンプとジェット噴射で、出来るだけ戦わずに一気に十層まで駆け下りる。

 一時間は掛からなかった。


『お待たせ!』

「早かったな」


『早速行くよ』


 俺は一人で扉を開けて十層のボス部屋へ颯爽と飛び込んだ。


 だが……「俺代々木でオーガ倒してるから、俺だけじゃ出てこないんだ……」


 しょうが無いから一度戻って、『アンリ俺だけで入ると、敵が出ない一緒に来てくれ』と声を掛けた。

ダコール了解」と勢いよく返事して1パーティ六人が一緒に入った。


 今度はちゃんとオーガも現れて代々木と同じように一撃で首を跳ね飛ばした。

 無事に下層に続く階段も現れる。


 だけど宝箱は出なかった。

 俺が倒すと初回ボーナスの百パーセントドロップじゃないんだね……

 まぁしょうがない。


 それと同時にスタンピードも止まった。

『アンリ、暴れ足りないだろ? ダンジョンシティやパリの街に結構な数の魔物が残ってるから掃討戦を頼むね』

「了解だありがとう」


 一層へと戻るとミスリルサンダーランスを振り回す麗奈が無双していて「ヴァルキリー……」だとか、浄化スキルでスケルトンやゾンビを倒す姿を見て「聖女セイント」だとか呼ばれて、周りのFRの兵士がため息を漏らしていた。


 俺と麗奈は後をアンリたちに任せてGBのポールへと連絡を入れた。


『ポール、今パリに来てるんだが、どこに行ったら会える?』

『TB、今俺達は前線をケンブリッジの南、二十キロメートル地点に移して防衛中だ』


『解った。パリからヘリを出して貰って、ケンブリッジに行くからそこで会えるかい』

『了解だ』


 ロンドンだけは、ダンジョンシティー内での制圧が殆どされない状態で魔物があふれたので情況的にはかなり厳しい事になっている様だ。

 だが溢れたのは、精々十層までの敵なので、軍が本気で立ち向かってどうにもならないほどでは無いから徐々に押し返せるだろう。


 それを困難にさせるのは、民間人を守りながらと言う条件が付いてしまうんだよな。

 どれだけ警察組織などが協力して民間人の避難を行うかで状況は大きく変わる。


 ヘリでケンブリッジに向かう同行者は麗奈とデビットだけだ。


 ジェフリーはまだオルリー空港で次々と飛行機やヘリにロケットランチャーを託す仕事で手が離せないみたいだ。

 非常事態なので、民間機も駆り出されて世界中に向けて飛び立っていく。

 近隣のシャルルドゴール空港や、空軍基地にも運び込まれて迅速な対応を行っているとの事だ。


 ケンブリッジに到着するとポールとはすぐに合流できた。

 そこでロンドンダンジョンで何が起こったのかを聞く。


『ポール、そいつらは魔王軍デーモンキングアーミーを名乗ったのか?』

「ああ、実際には会っても居ないし、ブルートゥースでの通信だけだから複数の人間が居たのかどうかも解らないがな」


 勿論、俺には英語はさっぱりわからないので、麗奈とデビットが通訳してくれているけどね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る