第69話 親切な魔王

 世界中で一次ダンジョン十層と四次ダンジョン五層のスタンピードが起き、新たに五次ダンジョンの出現が報告された。


 五次ダンジョンは世界中で六十か所の出現が確認された。

 この時点で地球上に存在するダンジョンの数は六百か所となる。


 最初に予想された、人口の千倍の数によるダンジョンの消滅は一次ダンジョンの数が百八十か所になって以降は確認されていない。


 今回はの一次ダンジョン十層のスタンピードから既に三時間が経過しているが、現時点で中ボスが確認されているのは日本とUSの二か国だけで在り、他の百七十八か所では未だに突入が行われていない。

 ジャッジホンを所有する、GB、DE、CN、KR、FR、RUの各国でも、最精鋭部隊を十階層の神殿へは配置しているが、USからの報告によりいまだ突入はGOが出ない。


 そんな中で動きがあったのは、GBのロンドンダンジョンだった。

 突入部隊の隊長ポール大尉の元に連絡が入る。

『ポール大尉、ダンジョン周辺に展開するロンドンダンジョンシティに展開した迎撃隊が……全滅です』

『なんだと……まだスタンピードから三時間しか経過していないのに五千人が全滅したというのか?』


『はい、正確にはロンドンダンジョンシティ内の迎撃隊は一時間程でほぼ壊滅していました。魔物の群れにリーダーがいるかのように、種族別に襲い掛かって来て手が付けられませんでした』

『どうすれば良い?』


『現在、魔物は既に防護壁を破壊しロンドン中に散会し始めていますが、防壁を抜けた途端にこれまで見せた統率の取れた動きがなくなり、バラバラに行動しています。ですが延々とダンジョン内から溢れ出してきていますので、突撃班はそのまま待機を願います』

『了解した。健闘を祈る』



「ジョージ大尉、スタンピードに迎撃部隊が壊滅したと報告が入った。統率を取って襲って来たそうだ」

「なんでそんな状況になったんだ。USからの連絡ではこの扉の向こうの中ボスはオーガレベル二十で、各ステータスが五百以上あるそうだ。相当な攻撃力が無いと厳しいぞ」


「だが……日本では五分で終了させて出て来たそうだ。俺たちのスマホを作ってくれた、黒猫が一撃で倒したらしい」

「どうなってやがるんだ。あの子猫は……」


「今の俺達のステータスがEXPで580程度だから初期数値と合わせて640か、攻撃全振りで挑めば何とかなるのかもしれないが、かなり危険な賭けだな」

「だが、やらなければロンドンが壊滅する」


「おい。ジョージ。ブルートゥースでメッセージが入ってるぞ」

「この階層に俺たち以外に誰かいるのか? 内容はなんだ?」


「『取引をしないか?』だってよ」

「なんだそれは?」


『このダンジョンに今後一切人を入れないなら、俺達がスタンピードを止めてやる。約束を守れなかったら勝手に滅びろ』だと……


『姿を見せろ』

『それは無理だ。このままお前らは上の階層に上がれ。姿を見かけ無くなれば俺達が止めてやる』


『九層に上がるだけでいいか?』

『構わんが、もし十層に再び降りて来たら滅びを与えるぞ』


『お前らは誰なんだ? 一体』

親切な魔王Kind Demon Kingだ』


『九層で三十分待機する。それでスタンピードが止まれば約束は守ろう』

『まぁいいだろう』


ポールたちの部隊は提案を受け入れ、とりあえず九層に上がり本当に約束通りに、スタンピードが止まるのかを待った。


 ◇◆◇◆ 


『聖夜。なんでこんなおせっかいしたの?』

『あー、気まぐれだ。というのは冗談で、外に出てしまうとこれ以上強くなるのが難しいだろ? それならこのダンジョンごと俺達が手に入れて、TBに勝てるほどの実力を身につけないと安心できないと思ってな』


『TBと戦うの?』

『最終的にはそうなるだろう』


『ふーん、じゃぁこのロンドンダンジョンは聖夜の魔王城ってわけだね?』

『まぁ最終的には、本物の魔王が出てきたりするかもしれないけどな』


『マジで? 勝てるの?』

『今の時点でTBと戦うよりは勝算はあると思うぞ?』


『それなりに仲間の数もいるし、意外に聖夜の言う通りかもね』

『とりあえずは、いけるとこまで種族ランクを上げよう』


『そうね。でも結構オーガは強かったよね』

『それでもこの二十体で囲めば問題は無く倒せたんだし、TB以外が相手ならそんなに問題無い』


 ◇◆◇◆ 


「TB。今連絡入ったけどGBは自力で止めたそうだよ。でも迎撃部隊の方が壊滅してロンドンがパニックになってるそうだけど」

『何でそんな状態になるんだ? おかしくない?』


「攻略部隊のポール大尉にでも聞いて見たら?」

『うん』


 俺はすぐにポールにメッセージを入れてみたが『通信ではちょっとまずい、会えないか?』と返事が戻って来た。


『彩。各国が一番近いのは、ヨーロッパだよな?』

「そうね。南アジアかヨーロッパになるわね」


『俺、ヨーロッパに渡るよ。何か国は突入部隊に無駄な死人を出させなくて済むだろうから、迎撃だけなら各国の軍である程度は耐えるだろうし』

「今GBの話をしたばかりなのに、そんな事言って」


『まぁ出来るだけの事はしたいから、USのジェフリーに伝えてカール・ブラック大統領から各国に話して貰えば問題無いと思う』

「そうなの?」


『取り敢えず横田に着くまでに連絡を取って見るよ』


 ◇◆◇◆ 


『ジェフリー。至急で大統領に連絡とりたいけど何とかならない?』

『TB。戻ってきて早速大暴れだな。大統領からメッセージを送って貰える様に伝える』


『ありがとう』


 その後十分ほどでカール・ブラック大統領から連絡が入り、俺がヨーロッパに乗り込む事を伝えると『C-17輸送機を使えば、無給油でパリまで行ける。オルリー空港に着陸できるように手配をしておくから横田で乗り換えて向かってくれ。私に連絡をくれた事を嬉しく思うよ』

『ありがとうございます大統領。マイケル達は大丈夫なんですか? ポーションの必要量を言ってもらえれば、横田で渡して置きます。後、横田で用意しておいて貰いたい物がありますが、いいですか?』

『それは助かる。数をまとめて連絡するよ。用意する物は在庫さえあれば無条件で用意しよう』と返事をもらった。


 当然英語読めないから彩に通訳頼んだんだけどね!


 その後ですぐに麗奈に連絡して『横田基地までタクシーで向かって』と連絡した。


 横田基地に到着すると、すでにUSの兵士に案内されて麗奈も到着しており、一か月風呂に入れない生活をしていた麗奈が「社長。もう完全に全身ふやけるまでお風呂入りましたよー。どこ行くんですか?」と、イマイチ緊張感のない様子で聞いて来た。


『ヨーロッパ観光だよ!』と教えると「嬉しいです! ご褒美ですか?」とはしゃいでたが軍の輸送機で行く時点で気づけよ! と思ったぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る