第67話 一次ダンジョン十層スタンピード

「穂南ちゃん。とうとう一次ダンジョンの十層スタンピードが始まったよ」

「彩さん達は大丈夫なんですか?」


「ジャッジホンもミスリル武器も使えるし、彩さんの火魔法はLV5まで上げてるらしいから、よっぽどの敵じゃないと大丈夫なんじゃないかな?」


「今回は一応USのマイケル達が、ワシントンDCダンジョンに最初に突入して、情報をジャッジホンを持つ八か国に流す予定になってるし大丈夫だよ」


 ここAEでも、アブダビの一次ダンジョンが同じようにスタンピードを起こしたけど、完全に傭兵部隊に任せてるこの国では、さほどの緊迫感を感じさせない。


 オイルマネーって凄いんだね……


 そしてスタンピード発生の速報から僅か五分後に……


 日本からスタンピード終息の一報が入った。


「えっ? 彩さん情報待ちじゃ無かったの?」

「NDF創設から最初のスタンピードだったから、気合が入り過ぎて我慢できなかったからとか何ですかね?」


「いくら何でもそれじゃ、国のダンジョンフォースとして行動が身勝手すぎるでしょ?」


 開始から五分で終わったスタンピードでは魔物も入り口で抑え込まれて軽傷者が何名か出ただけで、代々木ダンジョンシティ内も収まっていた。


 更に十分が経過したころに、NDFの斑鳩大佐が突入班と共にダンジョンの入口から出て来た。

 その胸には……「あああ、お兄ちゃんだ!」


「TB。良かったぁ」


 洋子さんも修三さんも黒猫の進の姿を確認してちょっと目に涙が浮かんでた。


「麗奈も無事みたいだね。髪がちょっとボサボサだけど、服とか綺麗だね。大丈夫だとは思ってたけどやっぱり姿見るとほっとしたよ」


「私達もアシュラフさんに頼んで日本に戻る準備しなきゃね」

「そう言えば札幌はどうなってるんだろ?」


「ちょっと流石に今は彩さんに電話する訳にはいかないから、麗奈に電話して聞いて貰うね」


 日本のスタンピードが問題無く収まった事に安心して、他の国の状況など全く気にせずに話していると、テレビの画面はUSに切り替わりワシントンDCダンジョンのスタンピードを映し出していた。

 既に発生から二十五分が経過していたがこの時点でまだスタンピードは収まっていない。


『麗奈、お帰りなさい無事でよかった。心配したんだよー』

『咲、おひさ。社長が超強くて吹いたわよ。十一層に私たちずっと閉じ込められてたんだけど、十層に上がる階段が現れたから上って行ったの。そこに居た十層の中ボスを社長がワンパンで倒しちゃったんだよ。それで反対側の扉の前で待ち構えてた彩さん達と合流して戻ってきた感じ』


『そうなんだ……どんだけ強くなってるのよ……それより札幌とか他の国の様子とかはそっちで情報入ってるの?』

『札幌はUSの攻略情報聞いてから突入の予定だったんだけど、ここがすぐ終わったから、突入は待たせて今から横田までヘリで移動して、彩さんのチームと社長が行くみたいよ? 私は事務所で留守番って言われたけど咲は事務所に居るの?』


『それがね。色々あって今は北原ファミリーと一緒にAEに来てるの……』

『えっ? 何でそんな状況なの? まぁいいや事務所で落ち着いてからまた連絡する』


『待ってるね』


 テレビ中継を見ていると四十五分経過した所でようやくUSのワシントンDCでスタンピードが止まったと流れていたけど、突入班がいつまでたっても戻ってこない。

 状況が良く解らないけど事故があったのかな?


 そう思いながら続報を待ってたら、メアリーだけが姿を現して来た。

 そのメアリーも、明らかに満身創痍な様子だ。


「各国の突入班の皆さん。USの精強なパーティーですら二十四名で突入して、半数が死亡、ほぼ全員が重傷を負っている状況です。突入は控えて戦力をスタンピードの撃退に宛てて、有効な攻撃手段を選定するまで耐えて下さい」


 と各国の部隊に宛てて発信した様だ。

 USの突入班でその状態だと恐らく……他国では突入しても全滅まで考えられる……


 えっ? ちょっと待って? その敵をワンパンで倒しちゃったとか言ってたTBっておかしくない?


 ◇◆◇◆ 


 事務所に戻った麗奈から、改めて電話が入って来た。


『ちょっと私一月以上お風呂入れなかったから、お風呂から電話するねー』

『臭そうね……』


『そんな事は無いよ? スキルで【浄化】って言うの覚えたからね。でも髪とかシャンプーとかリンスは出来て無かったからゴワゴワして我慢できないの』

『スキル覚えたんだ。良かったね。ランクとかどうなの十一層に一月も居たんなら、高くなってるんじゃないの?』


『ちょっと待ってね? 『ステータスオープン』あっああああああああ!!』

『どうしたの? 痴漢でも出た?』


『いや……あのね……』

『うん?』


『ランキングは二位になってた……それよりも……Expがねヤバいの』

『どうやばいの?』


『2200.6758とかなってる……』

『ええ? ちょっと待ってね私も見てみる。 私でもランキング128位で540.1265とかだよ……四倍くらい違うじゃん』


『一週間前くらいに見た時は、600くらいしか無かったんだけどね?』

『それって、十層の中ボスが凄いの?』


『違うと思う……』

『そうそう。それより十層の中ボスってどうやって倒すのが良いの? USが四十五分くらいかけて倒したけど、ほぼ部隊が壊滅して他の国に不用意に入るなって連絡してるみたいなんだけど……』


『えー? 普通に社長はエンチャントウインドで走り抜けたら、首がポトって落ちて、スキル獲得して出て行ったけど?』

『全く参考にならないね……』


『でも、私から見ても全然強そうには感じなかったけどね、LV20のオーガなんだけど』

『オーガって鬼みたいな感じのやつ?』


『そうそうよく知ってるじゃん。お風呂たまったから浸かるね』

『はいはい、きっとこれ以上聞いても参考になりそうにないから、またかけなおすね』


『解ったー』


 ◇◆◇◆ 


「TB、無事でよかったよ」

『彩? 制服変わってるし…… なんか階級章が一佐のになってない?』


 それから、札幌に向かう間に俺が居ない間に起こった事を色々と聞かされて、びっくりするやら、悔しいやら、悲しいやらで頭混乱したよ。


「TB、USがね……撃退成功したけど殆ど壊滅的にマイケル大尉たちのチームがやられちゃったみたいだよ。メアリー少尉が会見で恐らく腕骨折してる状態で出てた」

『ポーションも切れてる状態って事なのか』


「USでその状態だと、他の国は不可能なんじゃないかな?」

『かも知れないね。レベル20のオーガだけど特別な弱点とかがある訳じゃ無くて普通に十層辺りの敵とは格別に基礎ステータスが違うって感じなんだよね。後……時間がかかると、咆哮って言うスキルを持ってたから、一撃で倒せなかったら結構大変なのかも』


「何か方法は無いの?」

『あるけど……届けるのが大変かも』


「その辺りは、札幌が終わってから詳しく聞かせてね」

『じゃぁ俺は今のうちに準備しておくね。一次ダンジョンは百八十か所だったかな?』


「そうだね」


 札幌に付くころに、新たな情報が入って来て、GBロンドンダンジョンでスタンピードから僅か一時間足らずで、包囲していた五千以上のGBの軍が、組織だったモンスター達の攻撃により壊滅して、一斉にロンドン市内に魔物が溢れ出したと言う情報だった。

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