第66話 ロンドンの魔王軍

 GB、MI6ダンジョン諜報部


「ハリーとジョンの二名は連絡がつかないのか?」

「はい日本国内で、敵対行動を取った警官二名を拘束して、本国のダンジョンで処分をすると連絡があり、入国までは確認が取れていますがその後、連絡が途絶えてます」


「ダンジョンに潜入したのは間違いないのか?」

「それは入り口で確認が取れています」


「当然その警官もダンジョンから出て来ては無いのだろう? ダンジョン内で魔物に倒されたと考えるしか無さそうだな。一応ダンジョンアーミーのポールに遺品の探索を頼んでおこう」

「あのジェローズ長官……」


「どうした、リックター?」

「この二週間ほどですが、ロンドンダンジョンで探索をする探索者シーカーの生還率が、以前よりかなり10%程度低いと報告されていますので、ダンジョンアーミーの調査を頼みたいのですが?」


「それはどう言う事だね?」

「強力な魔物が発生しているのか、シーカーを狙った殺人集団が居るのかもしれません」


「だが、出入り口ではシーカーたちの身元確認は行われているのだろう? 怪しい人物が居ればわかるだろう?」

「そうなんですが、例えば日本の黒猫のような能力を持ったシーカーが殺して奪ったアイテム類を持ち出す事は可能なのではないかと思いまして」


「なる程な。ダンジョンアーミーにその辺りの情報を与えて、各階層を徹底的に探索するように頼もう」


 ◇◆◇◆ 


『聖夜。どうやら私達の形態は同種族での進化しかできないようね』

『そうだな。他の種族の能力を欲しい所だが、何かいいアイデアは無いか?』


 ダンジョン内で、魔物達を倒しながらコアの摂取などを続けていた、聖夜とエミは、現時点でホブゴブリンと、レッドウルフへと進化していた。

 ただし他種族のコアも摂取はしていたが、一向に違う系統の能力を身につける事は無く、ホブゴブリンの聖夜が【身体強化LV2】【統率LV1】スキル。

 レッドウルフのエミは、【気配探知LV2】【夜目】を身につけるにとどまっている。


 しかし根っからの悪人ではないこの二人は、自分たちを殺そうとした相手以外を積極的に殺す事はしていない。

 それでも魔物の姿である以上は、シーカーと出会えば狩られる立場であり、結局はそれなりの数のシーカーを倒してはいたのだが……

 

『取り敢えずはレッドウルフやホブゴブリンが三層や四層に居たら不自然だし、八層辺りに移動するぞ』

『了解』


 聖夜とエミが、八層に降りて行くと一般のシーカーが狩りをしている現場へと出くわした。

 当然、聖夜達は魔物なのでクロスボウで狙われたが、普通のゴブリンやウルフと違い大幅にステータスは高い。


 二人はクロスボウの矢を避けると、聖夜がエミの背中に飛び乗り、颯爽とその場を一度離れた。


「何よあのゴブリン? ゴブリンライダーが居るとか情報聞いてる?」

「いや初めて聞くな」


 そんな会話をしていたシーカーを上空からソナーバットが狙って来た。

 運悪くその四人パーティに向けて放たれた怪音波は、四人の理性を奪い混乱状態に陥る。


 同士討ちを始めた四人パーティの様子を気配探知で確認したエミが、その場に戻って行った。


『スライムに溶かされる前に、有用な品物が有ったら貰わなきゃね』

『だがまだ生きてるみたいだから気を付けろよ?』


『取り敢えず聖夜クロスボウで、あの蝙蝠を打ち落としてよ』

 

 聖夜が、クロスボウでソナーバットを倒し、シーカーの四人に近づくと三人は既にお互いの攻撃により死んでいた。

 しかし、女性探索者が一人まだ生きていた。


『聖夜、ちょっと閃いたわ。仲間を増やすのはどう? どうせこの女性このまま置いてても死んじゃうけど、コア食べさせたら変異して傷も治るんじゃない?』

『やってみる価値はありそうだ。仲間にならない選択をすれば倒せばいいだけだしな』


 そこに丁度沸いたスライムを倒してコアを取り出すと、血を流して意識の朦朧としている女性に、コアを飲み込ませた。

 するとその女性は、黒い霧に包まれ、スライムへと変異した。

 色合いが彼女の髪色に近い若干金色っぽい色だ。


 スライムに意思の疎通は出来るのか? そう思ったが、聖夜がスマホで文字を英語で打ち込み、見せると『プルプル』っと体を震わせた。


 何この可愛い動き……

 エミは気に入ったようだ。


『意識はあるのか?』


 そう打ち込んで見せると、スライムのボディーを指先の様にとがらせてスマホの画面を触れる。

『Yes』と書き込まれていた。


 それからスマホを利用して、この女性『ジェシカ』と意思の疎通を図った。

 現時点で使えるスキルは溶解液だそうだ。


 一緒に人に戻る方法を探すと言う事で協力をする事になり仲間を増やした。

 このスライムが優秀だった。


 聖夜とエミが同種族のコアを積極的に吸収すると進化できる情報を既に持っていたので、一層に行き弱いスライムしかいない中で、同族のコアを吸収しまくると、その日のうちに、一回り大きくなり、異次元ボックススキルを覚えたのだ。


 異次元ボックスがあれば、様々なアイテムを拾って移動しても、不自然さは無いので、彼ら取得するアイテムを全て、ジェシカが持ち運んでくれる。

 そしてその身体を自由自在に変形できるので、スマホのチャット入力でも、ゴブリンの聖夜よりも正確に素早く入力できる。


『ジェシカって目はあるの?』

 そうエミに聞かれると、光を感じる様な感じで見えると言う事だ。

 地面に書かれた文字では、体でなぞらないと解らないが、スマホの文字は画面が光るので、読みやすいそうだ。

 音は聞こえないらしいが、空気の揺れとして感じるので、進化が進めば解るようになるかもしれないと言っていた。


 それに味をしめた聖夜達は、その後は自分たちがシーカーに襲われると、出来るだけ殺さずに、モンスターコアを飲みこませ仲間にする方針で活動した。


 こうして徐々にロンドンダンジョンで増殖して行く人の意思を持ったモンスター軍団はこのロンドンダンジョンで、後に『Demon King Army』と呼ばれる存在へと育っていく。

 この集団の狡猾さは、GBのダンジョンアーミーの様な精強な軍が現れたら、決して姿を見せない事だ。


 そうして徐々に仲間を増やしながら十層のスタンピードを迎えるころには、二十体程の勢力となっておりリーダーである聖夜はゴブリンジェネラルへ、エミはシルバーウルフへと進化を進めていた。

 


 ◇◆◇◆ 



「もうすぐ、ロンドンの十層もスタンピードを起こしそうだな。そう言えば以前話題に上がった、シーカーの行方不明者はまだ多いままなのか?」

「その件に関しては、ポールからも報告がありましたが、怪しい部分も無く行方不明者に関しても以前の水準へと戻っています」


「そうか、それは良かったな。ロンドン十層の対策はどうするのだ?」

「今回は恐らく……四次ダンジョンの五層とタイミング的に重なりそうですので、トップから4チームをロンドン十層。それに続くチームをリバプールへと待機させ、USからの情報を待つ事になります」


「そうか、無事にクリアできればよいのだがな」

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