第63話 NDF創設
「斎藤防衛大臣。実際の状況はどうなってるんだ?」
「報道の通りです」
「至急関係各所の人員を集めなさい」
その後日本国内閣総理大臣「藤堂晃」の呼びかけに応じて、自衛隊、警察の現場責任者も招集され閣議が開催された。
「今回の事態に陥った直接の原因は結局どうなんだ。統合幕僚長」
「それは……今回の件で自殺した上田二佐の権限が不十分で、横やりが入ったために対応できる戦力の投入がスムーズに行われなかったためだと……」
「その横やりを入れた人物とは誰なんだ?」
「陸自の伊藤将補です」
「次のスタンピードでは責任もって彼に部隊を選抜させて、自ら率先して指揮を取らせれば満足なのかね?」
「それは……」
「警察庁警備局は公安から民間のトップ探索者に対して警護を出していたな? そこから消息不明の民間探索者たちの情報は入っているのか?」
「それが、公安の二名もUSから戻ってきた翌日の午前の報告を最後に、連絡が途絶えている状況です」
この時点でこの警備局長はGBに身柄を拘束された事実を掴んでいたが、口外できないでいた。
「それは国外勢力からの拉致が疑われる内容なのか?」
「警護対象には複数の国外勢力が着目していたので、逆に出し抜いての拉致などは難しい状況であったと思われます」
「対応出来そうな人員の中で、現在連絡が取れる者はいないと言う事か?」
「いえ一名だけ……収賄容疑で更迭された、斑鳩二尉であれば連絡は取れます」
「至急、この席に召喚できますか?」
「連絡を取ります」
◇◆◇◆
「彩。防衛省から連絡が入っていますよ。統合幕僚長ご本人だそうです」
「えっ? すぐに出ます」
統合幕僚長など、尉官でしかない彩がこれまでに会話などしたこともないし、それでなくとも現時点で、自分自身がおかれた自宅謹慎中の立場で会話をする事があるなど、想像も出来なかった。
「はい、斑鳩です」
「二尉、至急総理官邸の閣議室への出頭を求める。可能か?」
「了解しました。直ちに向かいます」
「二尉の実家は静岡の吉田町だな? 焼津の航空自衛隊静浜基地から静岡県警のヘリを利用してくれ。到着次第すぐに飛び立たせる」
「了解しました」
自衛官の私が警察所有のヘリを利用してまで首相官邸に召喚など、普通で起こりうる事態では決してあり得ないが、統合幕僚長から直接の命令が出ている以上は、それが全てだ。
自衛官の制服を着用し、父に車で静浜基地へと送ってもらった。
現場では、既に伝わっていてすぐにヘリポートへ案内される。
そのまま警察のヘリパイロットによって、一路首相官邸を目指した。
二時間弱で直接首相官邸の前庭へ到着すると、静岡県警のふじ3号はそのまま、まっすぐ帰投した。
2014年度に池を埋め立てて整備されて以来、初めて実際にヘリポートとして使われた瞬間だった。
警備局のSPによってすぐに閣議室へ案内される。
「斑鳩二尉、召喚に応じて参りました」
並みいるこの国の大臣たち、自衛隊、警察組織の制服組のトップを前に敬礼をする。
統合幕僚長のみが答礼を返し、他の閣僚は軽く頭を下げた。
その場で、統合幕僚長から申し伝えられる。
「陸上自衛隊『地下特殊構造体攻略班』斑鳩二尉、本日ただいまを持ってその任を解く。以降の指示は内閣官房長官より受ける様に」
それだけを伝えると統合幕僚長は退室した。
これは……ただのくびなら、こんな大掛かりなことしないよね?
大臣全員が揃ってる前で、くび宣告とかあり得ないでしょ?
「斑鳩さん、突然の事で困惑されていると思いますが、今しがた統合幕僚長から指名のあった、内閣官房長官の島と申します」
「はい、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「あなたにこの国をダンジョンから守ってほしいのです。現状の色々なしがらみがある自衛隊組織では、到底ダンジョンをどうにかする事など出来ません。今回の天神スタンピードでその弊害が最悪な形で露見しました。現状考えうる最高の形で、一月以内に予想される、代々木の第十層スタンピードの抑え込みを行うための、総指揮をとっていただきたいのです。その為に必要な、人、物、金は最優先で揃えます。斑鳩さんが中心になって、スタンピードを抑え込むのに必要な人員、部隊、装備を集め、最速で対応できる体制を作り上げて下さい。この組織は『日本ダンジョンフォース』略称で【NDF】長官は私が兼任します。実働部隊をあなたが率いて下さい。必要な事はすべて私に言って頂ければ最優先で揃えます。斑鳩さんには新しい組織における階級【大佐】に任命します」
考える暇すら与えて貰えなかった。
これを断る理由もない。
「NDF斑鳩大佐、現時点を持って着任させて頂きます。早急に人員編成に入ります」
「了承する」
わずか二十六歳での大佐への任官。
現存している正式な国の軍事組織としては、最も若年の佐官であるだろう。
心が震える。
閣議室を出ると、早速、官房長官の執務室へ案内された。
「斑鳩大佐。当面頭数が必要なのは間違いないと思うが、ここに国内のすべての自衛隊組織並びに、特殊訓練を受けた警察官の名簿がある。この中から、最速で必要なだけの人数を指名し、組織を作り上げてくれ。両組織には全面的に協力するように、総理から直接通達が出されている。拒否権は本人だけが有し、上官などから横やりが入った場合は、その上官達に次のスタンピードで最初に突入して貰うと伝えてある」
「随分痛快な指示ですね。やりがいを感じます。最初に必要な物は本官の押収された装備品です。それが無ければ本官など通常の自衛官と大差ありませんから」
「それほどの装備なのですか? その装備は増やす事は出来るのですか?」
手早く押収された装備品をすぐにこの場に持ち込むように指示を出しながら聞いて来た。
「島長官。すべては黒猫TB次第です。彼を認め、友好的に接し、協力を得る事が出来れば世界最高峰の戦力でスタンピードに立ち向かう事が可能です。彼は殉職したとされている元自衛官の北原進三尉の魂を宿した存在ですから」
「そうなのですか? それは海外の諜報組織などは情報をつかんでいるのですか?」
「日本も公安の青木警視や遠藤警部補などは当然知っていた情報かと?」
「そうなんですか、警備局には報告が上がっていませんでした。それにその両名も現時点で行方不明です」
「一つ確かな事は、黒猫TBとそのパーティの行方不明と、青木、遠藤両名の行方不明は直接繋がりはありません。また現時点で民間から助力を得る場合、TBは必要としますが、TB以外のパーティメンバーだけであれば、自衛官や警察官で代替えが出来ます。手始めの人員は、自衛隊の部隊の人員を把握できている人物及び、同じく特殊警察官の人員を把握できている人物を紹介してください。そこから指名選抜させていきたいと考えます」
「了承した」
島長官と別れ当面の滞在場所として指定されたホテル内で、咲の捨てアドに今回の急激な対応の変化を連絡して置いた。
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