第61話 主人公たち

『斑鳩二尉。お会いする事は出来ますか?』

『松田准尉。自宅謹慎処分中なので私が動く事は難しいです』


『明日は本官は公休になっておりますので、本日の勤務終了後にそちらに向かわせて頂きたいと考えております』

『そう……それなら構わないわ』


『では、後程』


 松田准尉は、現在DFTダンジョンフェアトレード社に出向中であったために今回の天神ダンジョン突入メンバーには選ばれていなかった。

 もし彼が攻略班の突入メンバーにいたら、ここまでの惨劇は起こらなかったのかもしれない。

 今更「たられば」の話をしても失われた命は戻ってこないし、今更どうしようもないのだが……


  ◇◆◇◆ 


『麗奈。大丈夫?』


 そう語りかけるが、その場に響く音は「ニャアニャンニャ」だった。

 その胸に負けないほどに発育の良いお尻をつき出したような格好で、顔を地面に引っ付け着地していた麗奈が顔を上げるとおでこが大きく擦り剝けていた。

 ポーションランク1のカプセルを手渡し飲ませた。


「社長……ここどこですか?」

『わかんないね。代々木八層じゃないことは確かだけど』


「咲は大丈夫かな?」

『咲は脱出するだけなら大丈夫なはずだよ。電話してみてよ』


「社長のスマホじゃないと無理だから、つないでください」

『解った』


 だが、Ver3.0のこのスマホでも電波が届かなかった。


『やばいね。電波届かないよ』

「困りましたね」


『とりあえず階段探そうか』

「はい」


 動き出してすぐにスライムが現れた。

 麗奈に写真を撮らせて鑑定をしてみた。


『スライムLV11だね』

 

「レベル11って社長まだ十一層現れてないですよね?」

『うん。下の階層に飛ばされちゃったみたいだけど……もしかしたら、階段が現れる時期が来るまで戻れないかもしれない』


「そうなると……ここが代々木だとすると……代々木十層のスタンピードが起ってからになるって言う事ですか?」

『そうなっちゃうよね。期間的には七層登場から八層登場までが十日程だったから、後一月くらいかかるかも……』


「ええ、私もしかして一か月間お風呂とか入れない生活ですか?」

『そうだね……』


「人としてヤバくないですか?」

『大丈夫だよ俺しかいないし』


「食料とか水とかは在りますか?」

『猫缶とカリカリは結構多めに入ってるのと天神ダンジョンに行く前だったから麗奈と咲と聖夜とエミの分の食糧でコンビニ弁当はそれなりに一週間分くらい在庫入れてたし一月くらいなら麗奈一人は余裕で食べれるよ』


「よかったぁ、飲み物もOK?」

『うん。体拭くウエットタオルみたいなのもあるし、テント用具も簡易トイレも入ってる』


「社長、やっぱり頼りになりますね。もし人の姿に戻ったら絶対嫁に貰って下さい」

『一応検討はする』


 そう言うと、その豊かな胸に思いっきり抱きしめてくれた。


『俺達に出来るのは上層階への階段が現れるまで、ひたすら狩りをしてドロップアイテムやステータスを上昇させて頑張る事だ。気合入れて狩り続ければきっと麗奈のスキルも身につけれるよ』

「はい、頑張ります」


 麗奈と二人きりの比較的イージーモードなサバイバル生活を始める事になった。


 ◇◆◇◆ 


ロンドンダンジョン


『エミ。シーカーを中心に狩るぞ。TBが持っていたスキルは、どの魔物のスキルなんだろうな?』

『どうだろうね? 最初の一匹だけって言う訳じゃ無くて、結構同じ敵のも飲み込んでたと思うから、積極的に取り込んで行けば答えは出そうだけど』


『だが、さっきスライムのコアを飲み込んだけど何も覚えなかったぞ?』

『私もゴブリンコアを飲み込んだけど変化は無かったわ』


『とりあえず数を倒して行けばステータスは上がるはずだし、シーカーを倒して銃弾やバッテリー系の備品を補充し続けよう』

『そうね、ウルフ失敗だったかな? ゴブリンだと色々道具が使いやすかったのに』


『メスゴブじゃ見た目的に、生き残っても鏡見た瞬間に自殺したくなるだろ?』

『そうでもないかもよ? 聖夜の見た目普通のゴブリンより、かなりイケメンだし』


『まじか? ちょっとインカメで自分の姿見てみる』

『やっぱりゴブリン便利ね』


『ほー、結構まともだな。でもウルフだと最終進化形態でフェンリルまで考えられるから、エミの方が強くなれる可能性は高いと思う』

『フェンリルになったからって、別におしゃれできたり贅沢出来る訳じゃ無さそうだから微妙よ』


『人間に戻れる方法もあるかも知れないし』

『それにかけましょう。この姿は肉球大きすぎて、文字打つのが凄く難しいのよね……』


『そうなんだ……』


 ここも緊張感に欠けてはいるが、はっきりと人類の敵である魔物コンビが誕生していた。


 ◇◆◇◆ 


「咲。ちょっといいか。AEのアシュラフさんから、当面TBが戻って来るまでAE国内に保護しようかと提案があったがどう思う?」

「ジェフリー。ちょっと洋子さん達と話す時間を頂戴」


「了解だ」


 穂南と洋子はその後で、福岡の領事館に保護されていた両親とも話し、合流できるのであれば保護を受けたいと言う事になった。

 大使館経由のコンテナ内で移動すれば検査もされないので、黙って出国しても、また同じように帰国する事が出来る。

 アメリカだと人の目や噂話が無断出国の事実の露見に繫がる可能性も考えられるが、AEだとほぼ日本に情報が漏れ伝わる事も無いし、当面の面倒が無いだろうと判断できる。


「ジェフリー。一つだけいいかな?」

「どうした咲?」


「AEでダンジョン攻略はさせてもらえるのよね?」

「ああ、それもOKと聞いている」


「心配なのは彩さんの事だけなんだけど……」

「現状はまだ自衛隊に籍を置いているから、流石に俺達は接触が出来ない。はっきりと退官すれば、こちらから何らかのアプローチを出す事になる」


「解りました」


 そして私は北原ファミリーと共にAEでの暮らしを決意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る