第60話 天神スタンピード終了……

 

(斑鳩彩)


 テレビ中継で、KR、FR、DE、GBの四か国も相次いで、スタンピードの終了が伝えられていた。

 この六か国以外ではUSからの情報を受けて突入が始まっている。


 天神は……三時間を経過した。

 この時点で止まっていないのであれば先行した班は既に壊滅していると見て間違いないはずだ。

 今回の作戦では六班三十六名が五層で展開していたはずだ。

 上田二佐はまだ決断していないのか? 

 他の突入班でUSからの情報を持って五層に向かう決断をしなければ、疲弊したダンジョンシティー内の迎撃班も突破され福岡の街が壊滅してしまう。


 AM九時半を迎え、漸く十二班七十二名からなる突撃部隊が組織され一層から突入して行った。

 他国の例に例えれば、この突撃部隊は生存率五十パーセント程度しかない決死隊となる。

 そしてスタンピードの中をどんなに急いで五層まで向かっても三時間は到着に要する。


 既に疲弊しきったダンジョンシティの迎撃隊で、後三時間を守り通す事は難しいだろう。


 昼を過ぎ十二時半を迎え、漸く天神ダンジョンから魔物の流出が止まった。

 だが……ダンジョンシティーの防壁は三か所に置いて決壊しており、福岡から博多にかけて、かなりの数の魔物が溢れ出している。


 全国から自衛隊が総動員され、街中の掃討作戦が指示されるが、既に天神に展開する部隊は八割が負傷し、町中が大混乱に陥っている。


 更に衝撃的な報道が入った。


 『地下特殊構造体攻略班』指令上田二佐が執務室で拳銃自殺をしたと……


「責任はすべて私にある」


 そう書かれた書置きが執務机上にあり、スタンピードが止まった事を確認した直後に銃声が響いたそうだ。



「悔しい……」


 とめどなく涙があふれた。


 しかしこの状況でこれから予想される日本の苦境にどう立ち向かえばいいんだろう。

 鍵となるのは私と咲、TBしかいない。

 泣いてる暇なんて無い。


 咲ちゃん早く連絡を頂戴……

 

 ◇◆◇◆ 


「咲ちゃん。日本は最悪の決断をしたね」

「……そうですね」


 洋子さんと穂南ちゃんもつい先日、帰って来たばかりの実家のすぐそばにある天神ダンジョンのスタンピードに心を痛めていた。


「お父さんたち大丈夫だろうか……」

「爺ちゃんも定年は迎えたけど自衛官だったんだから、祖母ちゃんを守ってくれてるはずだよ」


「洋子さん。福岡のUS領事館からご実家の方の保護に向かわせましょうか?」

「そんな事お願いできるんですか?」


「TBとそれに関係する方々はUSのカール大統領から最優先で守る様に言われてますので。咲と洋子と穂南のスマホは現在電源を入れると居場所が特定されるので使用できませんが、私のスマホを利用して関係者と連絡をお取りください」

「ありがとうございます。大名の実家に連絡を入れさせていただきます」


 洋子が、父母に連絡を入れ無事を確認する。


『お父さん洋子よ。大丈夫?』

『見なれん番号だから出ようかどうしようか考えたぞ』


『今からUSの領事館から迎えが行くから、その車に乗って取り敢えず領事館へ行ってもらえんね』

『何故USなんだ?』


『詳しい事ば後でまた連絡するけんが、とりあえず今は生き残る事を最優先で行動ばして』

『洋子が博多弁ば使うほど切羽詰まっちゅうこた解った。今は言うとおりにする。後で必ず説明ばしいや』


『ありがとう父さん』

「ジェフリーさんお願いします」』


「お任せください」


「デビット。私は斑鳩二尉と連絡を取りたいんですが可能でしょうか?」

「咲。了解だ。彩は現在静岡県内の実家に居る。ジャッジホンは自衛隊に押収されているので実家への電話若しくは、PCとスマホの共有アドレスを使っているメールでの連絡なら可能だ」


「実家への電話でお願いします」


『もしもし、斑鳩さんのお宅でしょうか?』

『はい、どちら様でしょうか?』


『麻宮と申しますが彩さんは御在宅でしょうか』

『はい、お待ちください』


『もしもし? 咲なの? 何故私の実家の番号が解ったの』

『彩さん。私は今TBのお母さんと妹さんと一緒にUSに保護して貰っています。居場所特定されないようスマホは電源落としてますので、連絡はメールでお願いします』


 お互いが、その場で新しい捨てアドを作り、そのアドレスでのやり取りをする様に取り決め今後の情報交換をする事にした。

 今の時点で彩が居場所を移す事は、日本を敵に回すに等しい行為になる為に、当面は状況を見極めようと言う話になった。


 そして、その日の夜までに取りまとめられた今回の天神スタンピードでの被害者は

自衛官の死亡者二百八十六名。

重軽傷者八百七十五名

民間人死亡者五百九十五名

民間人重軽傷者五千四百二十名


 という、信じられないような数に及んだ。

 三次ダンジョンの五層中ボスは、身長三メートル程のロックゴーレムが三体であり、風属性か打撃系統の武器でないと有効な攻撃が出来なかったのだった。


 攻略班の初期に構えていた三十六名の中には、そのどちらにも対応できる人員がおらずに壊滅したようだった。

 しかし、それでもある程度の重火器は持ち込んであったのだから、鑑定をきちんと行えていれば、全滅などと言う事は無かったはずだ。

 TBでも居ればそれこそエンチャントウインドブレードで駆け回れば五分も必要なく倒せただろう。


 防衛省で行われた記者会見では幹部職員が総出で頭を下げ「すべては防衛相として認識が甘かった」と告げただけであった。

 本来なら全てを上田二佐の責任にして、更迭して誤魔化すつもりだったであろうが、本人の自殺によって徹底的に内部体制をつつかれる事になる。


 特にネット関係では『このタイミングで斑鳩二尉を攻略班から外す判断を下したのは誰だ?』という問題が大きく叫ばれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る