第59話 イケゴブと天神スタンピード

 ロンドンダンジョン


「青木警視と遠藤警部補だったね。小銭稼ぎの為に愚かな行為をしたもんだね」

「どうやってMI6は見破ったんだ。隠蔽は完ぺきだったと思うが」


「なに難しい事じゃない。そもそもマカオのCN系マフィアが俺達の手ごまだったからさ」

「な……参ったな。それは見破れなかった」


「俺達をどうする?」

「ちょっとした実験に付き合ってもらいたい」


「実験?」

「TBの強さの秘密。君たちは側にいて見ていたはずだ。モンスターコアの摂取」


「あれは……人間が行えば、魔物化してしまうだけだと判明している」

「果たして本当にそうなのか? もしかしたら、TBのように自我がちゃんとあるのではないかと思ってね。君達に飲み込んでもらおうと思ったんだ。安心しろ自我を無くして居ればちゃんと天国に送ってやる。だが自我があるならば協力して貰おう。その場合はちゃんと過ごしやすい環境も考えよう」


「人体実験か……」

「そのまま、ただ殺されるよりチャンスはあると思わないか?」


「選択肢は無さそうだな」

「希望の姿くらい聞いてやるよ? 何が良い」


「せめて人型がいいな」

「ゴブリンだな、遠藤警部補もそれでいいのか?」


「あ、私は……ウ、ウルフでお願いします」

「解った」


 人気の少ない深夜の三階層で、ハリーとジョンに寄って倒された、ゴブリンのコアを聖夜が飲み込んだ。

 血の付いたゴブリンのコアは生臭い匂いがした。

 黒い霧のような物に包まれ、そこには若干通常のゴブリンより背も高く少し人間ぽいゴブリンが居た。


「グギャ」

「喋れないのか……失敗か」


 そう声に出すと、目の前のゴブリンが首を横に振った。


「青木なのか?」

「グギャ」


 返事は同じだが、首を縦に振った。

 

「どうやら実験は成功の様だ。遠藤はウルフで良いんだな?」

「はい……」

 今度は、ジョンがM4を構えてウルフをフルオートで倒し尻尾の付け根部分を切り裂きコアを取り出し、素早くエミの口に押し込んだ。


 同じように黒い霧に包まれグレーウルフにと変異する。

 しかしよく見れば若干、顔つきに理性を感じ涎も垂らしていない。


「遠藤? 自我はあるか?」


 その問いかけに対して、ゆっくりと頷く。


「成功だな。どんな能力か使えるのかなどは解るか?」


 青木がスマホを操作するようなポーズをとる。

 ハリーがスマホを取り出しエディタを立ち上げる。


「これでいいか?」


 頷きスマホを手にした青木は「身体強化だ」と書き込み、見せた瞬間に素早くハリーの後ろを取り一気に強化された腕力でハリーの首をねじ切った。

 その動きを見たエミも、一気に踏み込み鋭い爪をジョンの胸部に突き刺した。


「エミ。中々やるな」


と聖夜が呟いたが「グギャグギャギャ」としか聞こえない。


「聖夜もね」と呟いたエミの声は「ウォン」としか聞こえない。


 ジョンとハリーのスマホをそれぞれ奪い取り首から下げた。

 武器も手に入れた。

 ゴブリンの身体であればM4も問題無く使える。

 ここでシーカーを殺して食糧と武器を補充しながら、TB以上の強さを身につけて行けばいいか。


 恐らく他の魔物のコアを摂取する事で他の能力も身に付くだろう。

 TBがそうしていたように。


 ◇◆◇◆ 


「何故私は拘束を受けたのでしょうか?」

「自衛官が民間から物品の提供を受け、自衛官でしか知り得ない情報を流出させていた事実の告発が上がっている。これは事実か?」


「そ、それは……はい。事実です」

「それを認めている以上、他に何も理由は必要ないだろう」


「ダンジョンから国民を守るために必要な行為であったとしてもですか?」

「それを判断するのは君では無い」


「解りました」

「君が民間から供与を受けた品に関しては、証拠物品として押収する事になる。しかしながら個人的な遊興費に充てたわけでもない事は理解している。よって刑事罰が科される事は無いが公務員としての立場は失職する事になる」


「福岡ダンジョンの防衛は大丈夫なのでしょうか?」

「それを君が心配する必要も無い。既に国内で自衛隊員だけでも四百名以上の優秀なスキル保持者が存在するのでな」


「解りました」

「君は処分の最終決定が下されるまでは自宅謹慎処分となるが、その間ダンジョンへの立ち入りや連絡がつかない等の状況になった場合は。拘束を受ける事になるので、十分な注意を払って行動しなさい」


 それだけのやり取りで、実家の静岡へと戻る事になった。


「彩、自分の信念に従った行動だったんだろう?」

「はい。お父様」


「だったらいい。胸を張って生きろ」

「ありがとう……」


 私は実家に戻り気になっていたTB達の情報を確認しようと思い、咲ちゃんに連絡を入れるがスマホの電源が入っていない様だ。

 メッセージも既読すらつかない。

 もしかして私が収賄容疑を受けたのだから、TBに関しては贈賄容疑が掛かっているかとも思ったが、現時点ではTBと代理人である麗奈ちゃんは双方ともに行方不明だから、咲ちゃんには質問程度の事はあっても拘束までは無いと思う。


 連絡が付けばいいけど……


 翌日。

 AM六時に福岡、警固公園ダンジョンはスタンピードを起こしたとテレビニュースで報道を見た。

 前回の梅田スタンピードを踏襲して天神ダンジョンシティー内は自衛隊員で埋め尽くされ、五層には特殊構造体攻略班が展開されている筈だ。


 報道では、ダンジョンシティー内の様子しか映し出されないから状況は解らないが、今の所ダンジョンシティーの外には、魔物は溢れ出していないようなので、大丈夫だとは思う。


 おかしい? 既にAM7時30分を迎えているがスタンピードが止まっていない。

 

 ネットを検索する。

 USに置いて三次ダンジョンNYのスタンピードの阻止成功が発表されていた。

 他の国では、二次ダンジョン同様に連絡を待っての突撃になる様だ。

 今回は、他国GB,DE.CN.KR.FR.RUの六か国に関しては、ジャッジホンの最新Verを持ち込みダンジョン内通話が可能な状態で、四班二十四人体制で待機しているはずだ。


 USに関しては全員スキル所持者。

 武器はミスリル装備で統一されている状態だから、二班が先行突入を行う報告は上がっていた。


 私のジャッジホンは押収されているが、本人以外では当然ダンジョン内通話などは出来ないので持ち込まれてはいないだろう。

 まさか……電話機能くらいは使えると勝手に思って持ち込んでるとかは無いよね?


 テレビ中継でも少し空気が怪しくなっている。

『現在、USからは既にスタンピード終了の連絡があり、その情報によりRU、CNの二か国でも、十分程度の戦闘時間でスタンピード終了が報告されています。しかし画面を見る限り、警固公園ダンジョンでは依然スタンピード状態が続いております。現在発生から二時間が過ぎ、天神ダンジョンシティー内の攻防戦でも、自衛官の負傷者が確認され始めています。状況は厳しいと言わざるを得ません。防衛省からの公式発表は未だありませんが、マイクを一度防衛相に用意された記者会見場に渡します』


『はい、こちら防衛相内に用意された、三次ダンジョンスタンピードの記者会見会場です。各社から今や遅しと記者会見の始まりを待ち望む様子が見られますが国内の三次ダンジョン、天神ダンジョンは現地画像の通り未だ収まりを見せる様子がありません。果たしてどういう状況なのか非常に気になります』


 二時間か……

 これは突入班は全滅まであるかも……

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