第58話 麗奈!
相川さんとの話を終えて、十四時頃からようやく代々木ダンジョンへと向かった。
今日は八層へと向かう。
ワシントンDCでも八層には少し行ってみたけど、この両手を広げると百二十㎝程もある
蝙蝠なんだから、群れで現れてくれればいいのにとか思うけど、数自体は多く無いのも原因なんだよね。
そんな事を考えながらも俺は咲と麗奈と共に八層での狩りを行っていた。
この階層ではスキルを使うか、ダンジョン銅以上での武器を使わないと、七層に比べれば明らかに狩りの効率が落ちる。
その替り通常のドロップ品としてポーションのランク3やダンジョン銅のバーが低確率ではあるけどドロップする。
運の値で結構ドロップ率は変わる様なので、俺はステータスを運中心に降る事でそこそこのドロップは確保できているけど、麗奈たちだと十パーセント未満のドロップ確率しか無いので楽に稼げると言う訳でもない。
咲が飛斬で結構効率よく狩れているが、射程を言えば麗奈のクロスボウに比べれば全然短い。
スタイルとすれば麗奈と咲でワンセットで、麗奈がクロスボウで敵を釣り、咲が止めを刺す形で今は安定している。
俺はソロでエンチャントウインドを施したミスリルダガーを咥えて戦っている。
蝙蝠に対してはエアカッターで撃ち落として止めを刺す感じだね。
二十匹程狩りようやく右足の付け根の部分にコアを発見し飲み込む事が出来た。
『ソナーバッドLV8の核と融合を果たしました。スキル【怪音波】を獲得しました』
鑑定で調べてみる。
怪音波……混乱、暗闇、麻痺の症状をランダムで引き起こす。
相手によっては有効な使い方が出来るのかな?
とりあえず目的は達成したのでいいや。
後は雷魔法をLV3くらいまでは上げておきたいので、とにかく乱発をしていこう。
そう思いながら狩りを続けていると麗奈の声が聞こえた。
「社長! 宝箱落ちたよ」
『麗奈、恐らくスキルオーブだ。漸く麗奈もスキルホルダーになれるな。開けていいぞ』
俺は深く考えず、今までに宝箱での罠なども報告が無かったから軽く言ってしまった。
麗奈も何も疑う事も無く宝箱に触れると、麗奈の姿は宝箱に飲み込まれた。
『麗奈!』 俺は慌てて宝箱に近寄り、麗奈を飲み込んだ宝箱の中に飛び込む。
それと同時に宝箱の扉は閉じた。
「TB……麗奈……」
その場に一人取り残された咲が呟くが、その目の前で宝箱は姿を消して行った。
大慌てでダンジョンリフトから地上に戻り彩へ連絡を取る。
『咲ちゃんどうしたの?』
『TBと麗奈が、代々木八層で現れた宝箱に飲み込まれて、宝箱と一緒に姿を消してしまったんです』
『何ですって? 宝箱にそんな危険性があったなんて……』
『TBならきっと何とか乗り切ってくれるよ。そうだ最新のランキングは覚えてる?』
『いえ? それが何か』
『ちょっと待って、私は今朝ランキングカードを確認した時九位だったから、変わって無ければきっと生きてるのは間違いが無いから見てみるね』
『はい……』
『きっと大丈夫よ私のランキングは九位のまま、他に咲ちゃんがランキング確認できそうな高ランクの人は居る? もう一人くらい確認できればほぼ間違いないから』
『USの四位のマイケルさんなら、ジェフリーさん経由で確認できるかと』
『じゃぁすぐに確認を取って貰った方がいいわ。私はもう作戦行動に入るから』
『解りました。ありがとうございます』
私は、すぐにジェフリーさんに連絡を取り、グリーンベレーのマイケルさんへ確認してもらった。
結果はマイケルさんも四位のままで、『TBがどこかで生きているのは間違いないだろう』との返答だった。
一体どこへ行っちゃったの? TB、麗奈……
私はTBが生存しているはずだと言う事を前提にして、TBのお母さん北原洋子さんへ連絡を入れた。
「そう……大丈夫よ麻宮さん。進は必ず田中さんと一緒にちゃんと帰って来るから、一緒に待って居ましょう」
「はい」
翌日になってもTB達との連絡は取れないままだったけど、洋子さんと穂南ちゃんは予定通り事務所へと引っ越してきて共同生活を送る事になった。
「とりあえず帰って来るのに時間がかかるかも知れないし、私達はあの子たちに取り残されないように、しっかりと鍛えて魔物に対抗できるようにしましょう」
「私も、お兄ちゃんなんかより絶対強くなるって決めたんだから任せてよね」
「洋子さん。穂南ちゃん二人とも強いね」
「もう、一回お兄ちゃん死んだの体験済みだし、あの状態からでも戻って来たんだから! 今回なんてランキングなんていうもっと解りやすい証拠があるんだし、またすぐに帰って来るよ」
「そうだね、TB達に負けないように頑張ろうね」
そう言いながら、何気なく見たニュース番組で衝撃的な報道がなされていた。
『「地下特殊構造体攻略班」幹部自衛官巨額贈収賄疑惑で更迭』
実名こそ出されていないが、他に存在しない幹部女性自衛官が民間探索者から巨額のアイテムなどの提供を受け、便宜を図られていた容疑で現在事実関係を調査中という内容だった。
「咲ちゃん……あれって斑鳩二尉の事だよね?」
「恐らく間違いないです。そして……図られた便宜って恐らくTBが提供していた鑑定スマホと、ミスリル製の武器の事だと思います」
「このタイミングで馬鹿なの? 防衛省?」
「内部告発によるものとされてるから、きっと他の隊員さん達に嵌められたのね」
「公務員だから、その辺り取り方次第で駄目と言い切ってしまえば駄目なのは解るけど、あり得ないよね?」
「洋子さん。穂南ちゃん。私、彩さんをここに迎え入れたいと思いますので、その為に協力して貰っても良いですか?」
「進が大事に思ってた人なんでしょ? 勿論全面的に協力するわよ」
「お兄ちゃんがアシュラフさんのカードとかお母さんに預けてるし、お金とかは全然心配ないからね、咲さん」
「私も、TBから会社設立資金とかで十億円程度は預かってますから」
「まずは彩さんに連絡がつかないとね」
「でも、ここにも利益供与の件で査察が入る可能性は高いわ」
「咲ちゃん。聖夜さんとかに対処を頼めないの?」
「それが、昨日ここの護衛任務から外されたみたいで……」
「いろいろな事が重なり過ぎて、偶然とは思えないわね」
その時インターホンが鳴った。
出てみると、ジェフリーとデビットだった。
「咲。状況を確認できるまでUS大使館へ避難してくれ。洋子と穂南もだ」
私達はその言葉に従い、US大使館へと移動した。
◇◆◇◆
「上田二佐、斑鳩二尉の処分に関して何か言い分はあるかね」
「伊藤将補。今回の判断は全く納得いきません。実際問題として国を守るためには必要な戦力です。民間から不当に利益供与を受けたとされる物品も、ダンジョン攻略の為に必要な物資として受け取っており、仰られる様な個人の利益などと言う物とは違うと認識しています」
「上田二佐がそう判断するのであれば、何故こちらからの要請に従って必要数量を準備するとかいう対応はしていないのかね? 聞けば、USに対しては一定数の同等品を提供したそうでは無いか?」
「それは……民間人であり、商取引として対価を受け取っての取引ですので、こちらが対価の提示も無しに商品だけを提供しろ! など普通に考えてあり得ないのでは?」
「君は根本を解っていないね。彼らは武器を輸出したんだよ? 防衛装備移転三原則に基づいた許可の必要な案件だという判断せざるをえない。そこをはき違えて貰っては困る。斑鳩二尉の不当に供与を受けた品物を解析させて、わが国の優れた技術力で量産を行えば、USや他国が巨額を出して買い取った品より、安価で高性能な物などいくらでも製造可能だ。日本の製造技術は世界一だからな」
「そうですか……斑鳩二尉の処分はどうなさるつもりで?」
「最終的には懲戒免職処分以外にはあり得ない。ただし個人の贅沢品として使用して居た訳でもないので、その辺りは情状酌量の余地はあるとして、供与された品物を解析研究用に快く提供してくれると言うのであれば、それ以上の法的追及は行わないでおこう」
「そうですか。それであれば私自身も、その行為を知りながら見逃していた責任がありますので斑鳩二尉と同様に処分を求めます」
「その申し出は、三次ダンジョンの防衛が終わってから受け入れよう。現状特殊構造体攻略班を指揮できる佐官が君しか居ない」
「解りました」
果たして伊藤将補は今だこの国のダンジョン防衛は斑鳩と北原のコンビでしか成しえていないという事を理解できているのだろうか?
確かにスキル保持者も国内で四百人近くなってはいる。
それで攻略できなかった場合どうするのだ……
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