第56話 聖夜とエミ
麗奈たちとお袋の事務所物件での共同生活が決まり、俺も少しだけ安心した。
『お袋? もう十分普通の魔物くらいなら倒せる実力はあるんだから、事務所で大人しくしてろよ?』
「何言ってるの進。せっかくこんなに若々しくなれる方法見つけたのに、辞めるわけないよ。むしろ日本中の魔物は私が全て倒してしまいたいくらいだよ」
『…………まぁいいや。無理するなよ?』
「穂南も目標はお兄ちゃんに勝つ事とか言ってるから、ダンジョンに潜り続けるみたいだよ」
『マジ心配だな。で? 穂南は何処に行ったの』
「友達にお土産持っていくんだって」
『そうなんだ。学校はまだ三学期なんだよな?』
「そうね。今年はスタンピードの問題なんか合ったから、出席日数は関係なく基準の甘い試験だけで進級も卒業も出来るそうだから余裕だって言ってたよ」
『でも結局それで大学入試が簡単になる訳じゃないんだからな?』
「まぁその辺りは本人もちゃんと考えてるみたいだよ。進のお陰で私立の四大でも問題無く進学できるしね」
『そっか。引っ越しは業者さんに任せるでいいの?』
「そうだね。お金はあるから任せちゃうのがいいでしょ」
『じゃぁ俺は咲たちが迎えに来たら、先に事務所に行っておくからね』
「解ったよ」
◇◆◇◆
咲たちが迎えに来て、俺は麗奈に抱きかかえられてランクルに乗り込んだ。
「社長。今日の予定は私は咲と一緒に会社設立の件で司法書士さんと話したりで午前中はつぶれちゃうけど、どうしますか?」
『俺は午前中はネットで色々漁ってるから、午後は相川さんと連絡を取れるようにしておいて貰えるかな?』
「了解です」
俺が事務所でネットサーフィンを始めると、彩からメッセージが入った。
『進。久しぶり。福岡ダンジョンが一週間以内にはスタンピード起こしそうなのは情報入ってるよね?』
『彩。ただいま。うん解ってるよ』
『お願いしたいのはジャッジホンのアップデートと新規スキルカード取得者に対しての提供なんだけど……』
『あー。構わないけど、別に日本だけ優遇するつもりはないから、他の国と同じ一台二百万ドルで受ける事にしたよ』
『そっかぁ、防衛省的に予算は厳しいでしょうね』
『彩の分だけは最新状態にアップデートしてあげるから事務所に寄ってね』
『福岡は進も来てくれるの?』
『ああ、それは当然行くよ。でもさ……また最初は自衛隊の部隊でとか、意固地な事言ってるの?』
『流石にそれは無いわ。『民間の力も借りた上で最も被害の少ないと思われる体制を整えてオールジャパンでの撃退を目指す』だって』
『その割に、正式なオファーとかは無いんだね』
『一応、私が伝えた後でOKを貰えれば、上田二佐が改めてお願いを出す形になるそうだよ』
『そっか、組織って大変だよねぇ』
『うん……昼前にはそこに行けるからスマホはその時頼むね』
『了解』
俺はこれから企業としてやって行く為に、日本だけは無料でジャッジホンを作るとか言う選択はしなかった。
今までの対応から考えても、甘い対応をすると付け上がる未来しか見えないしね。
だが、俺はここで重要な事を見落としていた。
組織のめんどくささ極まれりの対応がここで来るなんて、この時は思ってもいなかったよ。
彩とのやり取りが終わって中断してたネットサーフィンを始めようとするとインターホンが鳴った。
俺は一人の時はインターホンの対応出来ないし、しょうがないから無視しようと思ったら、エミからスマホにメッセージが入った。
『今インターホンを鳴らしたのはGBの諜報局です。どうしますか?』
『俺一人だと玄関開けれないから、中庭の方に回って貰ってエミも一緒に来て』
『了解です』
俺の連絡を受け、中庭からGBの諜報局のハリーとジョンが二人揃って、エミと一緒にやって来ていた。
『今日は聖夜は?』
「US出張の経費精算で捕まっています。帰りのファーストクラスとか凄く予算が超過になったので……」
『ご愁傷様……』
「TB、今日は麗奈達はいないのかい?」
ハリーが明るく話し掛けて来た。
『うん、うちのパーティを法人登録するから、その準備で動いてる』
「それはとてもHOTな話だね法人に出資したら特殊アイテムが入手しやすくなるなんて言う話はあるのかな」
『可能性は高いですね』
「出資できる最大額をGBは投資する事を約束するよ」
『そんなあっさり決めて構わないんですか?』
「日本の公安警察とは権限の幅が全く違うから、対国家以外の場合だとほぼ俺達で決済できるんだ」
『凄いんだね』
エミが少し羨ましそうに会話を聞いていた。
「今日俺達が来たのはTBが非常に興味を持つ話題を提供できると思ったからだ」
『どんな話ですか?』
「消えたエリクサーの行方だ」
『それは……確かに興味深いですが、日本の公安警察も居る前で話して大丈夫なんですか?』
「事実は変わらないし権限の問題で日本の公安が動けるとも思えないから、伝えようと思ったんだ」
『なる程ですね』
海外から日本の警察組織って相当舐められてる?
「まず、問題は太田がどこと取引をしたかだが、これは予想が付いてるんじゃないかな?」
そう聞かれて思いを巡らせ、辿り着いた答えは……
『AE……ですか?』
「そう正解だ。AEから太田協会長へ五千五百万USドルの現金が流れている。これは既に日本国が口座を差し押さえているな」
『それで……ポーションとエリクサーは何処へ?』
「CN系のマフィアだ。盗まれてすぐに国外へ渡っている。マカオの裏社会のオークションでそれらしい商品が取り扱われた痕跡がある。品物に関しては既に消費されている可能性が高いな」
『そうですか。まぁ品物はまた手に入れれば済む事ですから』
「そう言うと思ったが、この問題の肝は何処にあるかは解るかい?」
『……? いえ』
「誰が、この情報をマフィアに流し商品を奪ったのかだ」
『あ、確かにそうですね。それも掴んでいるんですか?』
「ああ、情報が動くには必ずそれに伴って金が動くからな。俺達にとっては難しい事ではない」
その時俺の気配探知に悪意が引っかかる。
そして俺は悪意の元を制圧する……
『君達だったんだね、エミ、聖夜』
エミは何も言葉を発しない。
そして聖夜は窓の外で俺のエアエッジにより構えたMP5と共に腕を切り落とされていた。
「TBサンキュー。いきなり撃って来る度胸があるとは思って無かった」
『いつもなら必ず聖夜が来てからしか会話を始めさせないのにおかしいな? って思ってたからね』
この事件は、すぐに外交筋での処理扱いになり「このまま行方不明の方がお互い面倒が無いのでは?」と日本には伝えられたようだ。
俺は公安の聖夜達の上司に対して『今後、護衛と言う名の見張りを付けないのなら俺の仲間たちに対しても今回の件は内緒にしておきますよ?』と伝えた所、受け入れられた。
この国の深い闇を見たな。
ハリー達は何もなかったのかの様に綺麗に現場を片付けてミニバンの車内に聖夜とエミを載せて消えて行った。
真実は闇の中だが、きっと聖夜が太田協会長に恨みがあったのは本当だったのだろう。
そして聖夜とエミは当然男女の仲だったんだろうな。
GBが彼らをどうするのかは知らないけどスパイ怖いな!
でも太田協会長を襲ったのはAEのアシュラフさんの息がかかった人なのも、ほぼ間違いないので、アーリヤに対してはあんな優しそうなお父さんだったのに……
と、少しゾクッとしたよ。
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