第51話 プレジデント
昨夜の日本での大騒動はあったが、実際今の俺達はUSで行動してるわけで、現状何かを出来るわけでもない。
むしろ全くの無関係者と言う訳でもないから今、日本に戻っても騒ぎに巻き込まれるだけだろう。
それに今日はUSに来て初めての完全休養日で、お袋や穂南も一緒にNYへショッピングに行く予定になっていた。
ジェフリー達US側の四人と何故かグリーンベレーのマイケルとメアリー、それに日本の公安警察の聖夜達も一緒に貸し切りバスでの一泊二日での予定で、ワシントンDCからNYに向けて旅立った。
俺はメアリーの胸に抱かれてバスに乗っている。
なんだと……麗奈より2サイズは上の感触だと……
俺の小柄な体では完全に埋没してしまうレベルの魔境に心は舞い上がっていた。
その様子を見る穂南の視線が微妙に痛い。
「お兄ちゃん? 邪な感情が駄々洩れだからね?」
俺は斜め上を見て「ニャッ?」と言って誤魔化した。
リムジン仕様のバスは後部分は十二人程で囲めるテーブルのような作りになっていて、聖夜とエミ、ジェフリーとデビット、麗奈と咲、それにマイケルが加わりミーティングを行っている。
あえて俺は加わっていないが、異次元ボックスLV4で作れる鑑定スマホVer3の機能について咲が他のメンバーに説明していた。
人物、魔物、ダンジョンオブジェ、アイテムと何でも鑑定出来てしまう機能に加えて、ステータス調整機能、パーティ作成機能、そしてついにVer3ではダンジョン内での通信機能まで手に入れた。
しかもバッテリーフリーだ。
これが有れば今後のスタンピードの対応に関しては格段に安全性が増すのは間違いが無い。
どこの国でも垂涎のアイテムだろう。
だが俺がこのスマホを無制限に提供するのか?
と言う部分になると、そんな事を安請け合いすれば俺の自由は完全に無くなる。
だがこのスマホが必要な物である事も確かだから、納得の行く対価を提示して貰えば、各国に対して現状で上限四台までは提供しようと言う話を行っていた。
まぁ今はステータスカード所持者に対して、本人専用のスマホしか作れないし、このバスに乗っているメンバーに限定しても、マイケルとメアリーの分しか作れないって事だけどね。
この提案に対して、USがいくらを提示してくれるのか、それを受けて聖夜達が日本政府にどう説明するのか、興味深い所だ。
JDAの件もあるし、両手離しで日本を信用する事なんかできないからね。
そして、俺はこの判断に関しては咲と麗奈に任せる事にしている。
圧倒的な優位な決定権を持たせる事で、身の安全の保障がされると思ったからだ。
俺は、はっきりと咲と麗奈及びお袋と穂南になんらかの被害が及んだ場合は、日本を含めて一切の国への協力はしないと聖夜とジェフリー達に伝えて、今はメアリーの魔境を堪能しているって事だ。
本当は必要な物だから、安くして上げたいけど中途半端に安い値段を設定すると、一般大衆がそれを求めて自分勝手な言い分を口にする事が見えるから、一般人には到底手が届かないレベルで価格決定は願いたいな。
聖夜やマイケル達も頻繁に電話を手にして、本国の上層部と交渉をしながら、話の内容を詰めている様だ。
四時間程の時間をかけて、バスはNYに到着した。
三次ダンジョンは金融街に現れていて、その辺りは既に防壁工事が始まっている。
ショッピング街は、出来るだけダンジョンシティに含まれない様に計画され、NYの都市機能を失われないよう考えられているんだろうな?
NYに到着するとランチタイムまでは、自由にショッピングを楽しむ時間となった。
俺は、穂南とお袋に拉致られブランドショップを連れまわされる。
通訳にはメーガンが付いてくれている。
咲と彩はナタリーと出歩いていて他の連中はどこかへ消えて行った。
俺が異次元ボックスに収納していた日本円をジェフリーがUSドルへ両替してくれてたのでお金は困らない。
でも今後他の国にも行くことを考えると、麗奈と咲と俺のパーティで法人を作って法人カードとかを発行して貰うのが良いよね! と言う話になってるから、その辺りは日本に戻れたら行おう。
USにこのままいる決断をするなら、ジェフリーが全部手続き代行してくれるって提案してきて少し心が動いたけどね。
だって聖夜達にはそんな権限全くないしね……
◇◆◇◆
ランチの時間になり、再び全員が集まりNY郊外にある妙に立派な建物に案内された。
『ねぇ、妙に物々しくない? これってまさか俺達USに拘束される?』
そうエミにメールしてみた。
「大丈夫よTB、私達も話を聞いた時は少しびっくりしたけど、拘束とかそう言う話じゃ無いから」
『そっか、ならいいけどね』
そして俺達が案内された先には、テレビで見かけた事がある様な人の姿が見えた。
「あの人って……」
麗奈と咲、お袋と穂南ですら顔に見覚えのあるような世界最高の権力者。
カール・ブラック大統領の姿がそこにあった。
名前はブラックだけど、白人って不思議だぜ!
そして他にも三名程の年配の、いかにも偉い人なんだオーラを出した人たちがいる。
「ようこそUSへ、世界一のシーカーの顔を是非見たいと思って、ランチに招待させて貰った。ゆっくりして行きなさい」
他の方達もそれぞれに挨拶をして、席に付かせられた。
俺の目の前には、ミルクとささみを割いたものと、白身の魚をほぐしたものが並べられているが、他のメンバーの前には結構なごちそうが並んでる。
ちょっとだけ猫な身体が寂しいと思った。
食事が終わり、ティータイムになると恐らくこれが目的だったであろう話が始まった。
「今日は私の個人的な友人を紹介したいと思ってね、AEの一国の首長であるアシュラフさんだ」
いかにもアラブ系の王族のようなその人は、力強い眼光を俺に向け話し掛けて来た。
俺アラビア語なんてさっぱり解んないぜ……
当然通訳はしてくれる人がいるんだけど、王族の人が子猫な俺に熱く語りかける図って中々見れないよね。
通訳された言葉を聞くと……
「アシュラフです。お会いできたことに神の加護を感じています。実は私の娘が大きな事故にあい、生死の境をさまよっております。TBさんが持つと噂される神の薬が最後の希望なのです。どうか力をお貸しいただけませんか?」
もう少し詳しい情報を聞きたいと通訳の方に話を聞くと、プライベートジェットの墜落事故により、右手右足を欠損した上に、体表面の40%近くを皮下組織に達する程の火傷を負い、既に3週間が経過。いつ死んでも不思議ではない情況と言う事だった。
俺は少し考えたが、救える可能性がある命に対して考える必要なんて無いよな?
と思い直し、無条件でエリクサーを異次元ボックスから取り出しアシュラフさんへと手渡した。
「対価も何も聞く前に提供されるのですか?」
『そんな事を考えるくらいなら秘密にしますよ』
アシュラフさんが足早に「シュクラン……シュクラン……」と言いながら足早に立ち去って行って、その様子をにこやかな表情でカール大統領が見送った。
「今日のランチが有意義なものになって私も嬉しい。私が君たちに何かできる事はありますか?」
『今は別にないですけど、日本に帰った時にダンジョンに普通に入れて貰える様になってればいいですね……』と答えておいた。
「ちなみにTB? 私が同じ状況になっても、同じ薬は譲って貰えますか?」
『仲の良い友人には最優先で用意させて貰いますが、物が物だけにこれをメインの商売にしたくないのが本音です』
「なる程……仲良くしてくれTB」と言いながら俺を抱っこしてくれたが五十代のおっさんに抱っこされても何も嬉しく無いからね?
「まぁそれは別として、先ほどマイケルとジェフリーから報告を受けた魔導具のスマートホンの件だが、USはその魔導具に対して一台に付き二百万ドルの対価を用意しよう。もっと数は欲しいがその辺りはTBとこれから仲良くなるにつれてお願いしたい。まずスキルカード所持者のマイケルとメアリーの二人のスマホをお願いして良いか? 残り二台は対象者の選定が終わり次第お願いしたい」
俺は「OK」と返事したけど「ニャア」としか聞こえなかった。
大統領それで頷いてたし、きっと伝わったんだよね?
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