第49話 異次元ボックスLV4

『相川さんのお電話でよろしかったでしょうか?』

『はい、どちら様でしょうか?』


 そう返事をしながらも、おおよその見当は付いていた。

 本日だけで五度目の会話だからだ。


『私は、KRのキムと申します。相川さんが立ちあげられると言う新しい会社を、大変興味深いと思いまして連絡を差し上げております』

『ご興味を持っていただいて大変嬉しく思いますが、その情報は何処から伺われたのでしょうか? まだ公式には何も発表していない筈ですが?』


 この会話も今日五回目だ。

 恐らく各国の諜報活動をしている連中である事も解ってるが、今から立ち上げようという会社が世界中のスパイと正体を知ったその上で付き合いがありますなんて言えるはずも無い。

 

 本当に取引をしたいのであれば、大使館経由だとかで、表の顔を持った人物なりを送って貰わないと話なんか怖くて聞けやしないぞ。


『私が伺いたいのは、田中麗奈の賛同を得られているのかどうかの一点だけです。それが得られているのであれば、本国大使館経由で取引に相応しい会社が出資の名乗りを上げさせて頂きたいと思っております』

『そうですか、近日中に公式に発表の運びとはなりますが、恐らく田中さん達のパーティには協力して頂けると思っていますよ』


『それは何よりです。このまま日本に戻ってこないと言う事は無いのですね?』

『その点は、時期ははっきり申し上げられませんが大丈夫だと思っております』


『出資の枠とワールドワイドな展開において、積極的に参加させて頂きたいと思います』

『その節はよろしくお願い申し上げます。それでは』


 今回、田中麗奈達のパーティーが、JDAの対応に怒り心頭で拠点を国外に移してしまったことで、それを聞いた時には一瞬目の前が真っ暗になったが、逆に考えればここからあのパーティがJDAに歩み寄る可能性は極めて低いと考えれる。


 徹底的なサポートを持ち掛ければ、必ず国際的なフェアトレードを掲げる、うちのDFTダンジョンフェアトレード社に協力をしてくれるはずだ。

 厚生省の鮎川の協力で、偉そうな天下り連中を抱え込むのではなく、現役職員を派遣して貰い、スピーディな認可と買取対応を心掛ける様にする。

 今後は新薬の認可などほぼ赤と青のポーションだけで事足りるから、大幅にポジションが減ってしまう事が予想される厚生労働省には渡りに船の提案だと思うしな。


 鑑定スキル持ちの人員の確保さえできれば、見切り発車も可能だがその点だけは未だ確保が出来ていないので、その問題次第だな。


 各国が俺に連絡を取って来ているのは、今回の国外への一時避難にUSを選ばれてしまった事で各国の焦りがあるのだと思う。

 現状「田中麗奈」達のパーティへの繋がりを持ちそうな所を、確実に押さえておきたいのであろう。


 そろそろこちらからもJDAに対して攻撃を仕掛けても良いかもしれないが、先に立ち上げを発表してから追い落とす方が良いかもしれない。

 どちらにしてもタイミングは重要だ。


 再び電話が鳴る。


『情報を買いませんか?』

『失礼ですがどちら様でしょうか?』


『聞かれない方がお互いの為に良いと思いますよ?』

『内容は?』


『報酬の約束が先ですね。扱われる商品の海外買取枠を取り扱い総量の三分の二以上で設定をする事を約束して頂きたいと思っています』

『それは、特定パーティの納品分に限定しての要請ですか?』


『その認識で間違いないでしょう』

『直接の現金などは求められない?』


『相川さんの起こす企業に長くお取引をさせていただきたいですから、クリーンなお付き合いは大事だと思います』

『解りました。内容を教えていただけますか?』


『太田協会長の下にあった治験で使用したはずのエリクサーを始めとした五種類の魔法薬がUEに流出しました』

『そ、それは。一撃でJDAが吹き飛ぶほどの問題ですね』


『詳しい内容が必要な場合は、また連絡を差し上げますので、その時にでも。その事実が噂になるだけでも、十分な効果があると思えますがね』

『はい、有効活用させて頂きます』


 今の電話はCNなのか? GBなのか?

 どちらにしてもそれなりの国家の諜報機関であろうことは間違いが無い。

 俺の元に連絡を入れて来たという事は、もしかすると現物を確認して接収する事にまで成功しているかもしれない。


 あの太田協会長が無料ただで、その魔法薬を提供したとも考えられないから恐らく相当な額の金銭も動いているはずだ。


 動かすならSNSだな。

 俺は興信所に連絡して、こちらの正体を伏せた上で、一連の国内トップパーティに対する嫌がらせのダンジョン進入禁止処分と、新たに発見された魔法薬の取り扱いに関するJDAの対応を拡散するように頼んだ。


  ◇◆◇◆ 


 七層で俺はグリーンベレーのメンバーを前にして、少し格好いい所を見せておこうと新しく覚えた技を披露して見せた。


【操糸】スキルを利用した立体軌道攻撃だ。

 俺の指先から延びる蜘蛛の糸は、壁面や天井に張り付くと簡単には剥がれない。

 それこそ通常金属の刃物では断ち切る事も出来ない。


 その糸でダンジョン内を縦横無尽に飛び交いながら、エンチャントエアブレードとエアエッジを併用して魔物を倒しまくる。

 唯一のグリーンベレーの女性隊員『メアリー』が「Ohワンダフルスパイダーキャット‼ ムービーヒーロー‼」って叫んでたけど、その映画って猫出て無いよね?


 麗奈と咲にも初披露だったから、中々受けてたぜ!


「社長凄いね! また差をつけられちゃったなぁ」


 まぁ麗奈はまずスキル獲得しろよな!

 それでもダンジョン鋼のボウガンを使う聖夜と、ミスリル製のボウガンを使う麗奈では元々のステータスも違うけど、かなりの討伐数の差がある。

 咲も既に七層の敵では、全ての魔物を居合一撃で倒せるようになっていて、M4の銃剣で戦ってるグリーンベレーの隊員達と比べても、咲の方が一人当たりの討伐数では勝ってるから中々のもんだよね!


 そして今日の狩りでついに異次元ボックスがLV4を迎えた。

 これが一番楽しみなランクアップだよ!


 取り敢えずスマホのアップデートを試してみるとビンゴだ。

 本来の使い方、通話が出来るよ。

 ダンジョン内で! 


 それにプラスして電池の残量表示が消えた。

 どうやら今回のアップデートで得た鑑定スマホの能力は、ダンジョン内通信とバッテリーフリーの機能の様だ。


 これならば……むしろ積極的に普及させなければいけないかも。

 後で、ジェフリーに値段付けさせてみようかな?


 麗奈に交渉させてみよう。

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