第47話 ハローワシントンDC

 俺達一行は翌日朝早くから羽田空港へと向かった。

 横田からの特別機の提案は、聖夜が「日本国としてその対応を認めるのは現時点で非常に困る状況であります」と今更ながら堅苦しく言って来たので、全日空機を使ってのUSへの旅になる。

 グリーンカードの発行に関しても、現時点では申し出を受けないように言いくるめられている。


「でもさ聖夜。それに対して日本が俺達に供与できる条件ってあるの?」

「そう言われると困りますが、日本人で居られ続ける事は大事な事だと思います」


「ヘイ聖夜。日本ってめんどくさいな? 麗奈、咲、TBはいつでも本人が希望した時点でグリーンカードの発行とあらゆる外国勢力からの保護を約束するから、心が決まったら言ってくれ」

「OK、ジェフリー」


 麗奈が軽く答えると聖夜とエミが微妙な表情になる。


『聖夜。これ以上変な条件を付けるとか、俺達が獲得したアイテムを不当に搾取するとか言いださない限りは、日本で過したいと思ってるから普通にしたら大丈夫だと思うよ?』

「TBの存在が普通でないから困ってるんですよ。日本の法律の中ではジェフリーの様に、北原進さんの人格を認めるなんて言う判断は出来そうにないですから」


『あー、それは俺が人間の見た目に戻れたら気にするかもしれないけど、この見た目のうちは別に進である必要は無いから気にしないでいいよ。ただ、ダンジョンにはステータスカードの提示で入れる様にしてくれれば問題無い』

「そうですよね、ステータスカードで身分証明に使えますね。あれ? でも名前入ってましたっけ?」


『名前は入って無いけど、ステータスオープンって念じたら、手元に移動するから他の人には出せないし十分に証明になると思うけどな?』

「なる程、でも名前の入った身分証のような物があればより確実に証明できますね。今後探索者も増えますし、そう言ったシーカーの方の免許証制度も様な物を実現したいですね」


『なるほどねー。それって元の基準は何使うの?』 

「納税の関係などもありますし、マイナンバーカードが妥当かと思いますけど?」


『それじゃぁ俺入れないままじゃん。問題解決してないし。テイムアニマルとかテイムモンスターと言う制度を作れないの?』

「それは、他に事例が無いと制度化は難しいかもしれませんね」


『そんな事言ってて三次ダンジョンや十層のスタンピードで大勢の人が亡くなったら、だれが責任取るの? きっと俺なら対処できるけど、彩だけだと難しいと思うよ?』

「それを言われると、どうしようもありません。帰国までには問題無く出来る様に努力します」


 ワシントン・ダレス国際空港に到着した俺達は、当面こちらでの拠点としてホワイトハウスのゲストハウスを用意された。


『えええええええええええ。マジで?』

「ここまでの二度のスタンピードを受け、現在合衆国政府はNYにその機能を移転させてるから、ここは基本無人状態なんだよ。魔物もかなり出回ってるから、そこまで安全な環境では無いからね。TB達のような特別な招待客に使ってもらってるんだ」


『理由は解るけど感動だね』


 お袋たちも、まさかのホワイトハウスステイに開いた口が広がらない様子だった。


「日本のダンジョンシティと同じようにダンジョン入り口から、半径二キロメートルに渡って壁を作り、その内部がダンジョン特区と言う事になります。ですがこのDCでは壁の外側にもかなり多くの魔物が流出していて更に五キロメートル地点とワシントンDC全体を囲む三段階の防壁を建築中です。人口は七十万人が存在していましたが、被害にあった方と居住地を移動された方が多く現状ではDC内部の人口は十万人まで減っています」

 

 一次ダンジョンが消えた小国の様に、このダンジョンが消え去るまでは再びこの土地が行政の中心になるなんて難しいだろうな……

 そう思いながら美しい白亜の建物を眺めた。


 実際のDCダンジョンでの狩りは翌日から行う事にして、今日は体を休める事にする。

 ジェフリーとデビットの二人の案内で、街へと出てレストランで食事を済ませるが、やはり人口が七分の一まで減っている影響は大きく、街の雰囲気は閑散として感じる。

 歩いていると普通にウルフの姿を見かけた。

 こんなとこにまで出回ってるんだな……


「スライムやゴブリンなどの足の遅い魔物は、ダンジョン周辺で殆ど仕留められているが、アルミラージとウルフとマウスに関しては運動能力が高くて、かなりの数が、広域に逃げ出している。これによって毎日百名程度の被害が起っているから、ポーション。それもランク3クラスの物が欲しい情況なんだ」

『そうか、ジェフリー俺達がDCに滞在している間は、毎日十個のランク3を有償提供しよう。それ以上のランクは要相談だ』


「そいつは助かるTB。幼い子供達の被害者も多いからな」


 全員を助けるなんて事はとても無理だから、負担にならない範囲での協力を約束した。

 ゲストハウスに戻りネットで日本の状況を確認する。

 今日は大きなニュースは無さそうだな。

 梅田のスキル取得者が二百人を超えてるのか。

 鑑定所持者が増えてくれるといいけどな。


 ここにいる間に麗奈や穂南たちもなんとかスキル覚えてくれれば、随分安心はできるけど、穂南たちにオーク戦をさせる訳にはいかないから、その辺りは運しだいだ。


 部屋は、俺と穂南とお袋で一つ。

 咲と麗奈で一つ

 聖夜とエミにはSP用の控室が用意された。


 一応すぐ側に日本大使館はあるが、防衛省からの派遣人員が残っているだけらしい。

 ジェフリーとデビットも基本俺達の滞在中は、ずっとついてくれるらしい。

 翌朝、朝食に呼ばれ、お袋と穂南と共に出向くと、新たに二人のガードを紹介された。

「初めましてナタリーです。女性の方が多いので私達が派遣されました。日本語は二人とも会話に困らない程度に理解できます」

「メーガンよ、世界一強い男がこんなに可愛い猫だなんて素敵だわ」


「よろしくお願いします。咲と麗奈と穂南と洋子です」

「Ohヨーコ旦那はジョンかしら?」


「いーえ私の旦那はとっくに天国ヘブンです」


 なんとも……かみ合わない会話をしてるなお袋。


「皆さんはステータスカードはお持ち何ですか?」

 と咲が聞くと「残念ながらまだ取得できてないわ」とナタリーが返事をした。

 取り敢えず今日は、お袋と穂南のステータスを上げる事が中心だ。

 二層で武器の使い方を咲と麗奈によってレクチャーして貰いながら、俺が周りの敵を狩りつつステータスアップをしてもらう。


 お袋と穂南は、魔物とは言え生き物を殺す事が出来るのか不安があったが、意外にバッタバッタ倒してた。

 武器がミスリルのランスとボーガンだから、ほぼ一撃だよ。

 このミスリル製の武器は、STR二十パーセントアップと言う特殊効果がついている。

 ダンジョン鋼では特殊効果は無かったが、ダンジョン銅でも試してみたいな。

 10%くらいのSTR上昇効果が付きそうな気がする。


 俺が結構な数を狩ったので二人とも平均的にステータスが5ずつは上がった。

 午後からは穂南とお袋はお留守番で他のメンバーと七層へと降りた。


 一次ダンジョンのリフト使用は、ここでも共通で使えた。

 俺の班と咲の班で二つに分けてパーティーを作って降りたけど、当然ステータスカード無しでパーティが作れる事実などUS側のメンバーは知らないので驚いていた。

 もしかしたらここでもオーク戦が出来るかと、ちょっとだけ期待してたけど残念だ。

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