第46話 お袋たちと合流

「TBありがとう。これで私もスキル保持者以外のメンバーとパーティを組めるわ」

『有効活用してね。俺達は暫くUSへ行くことになるけど、次のスタンピードには間に合うように帰ってきたいと思ってる。それまでにダンジョンの入場許可が取れるならって条件は付くけどね』


「それねえ……JDAは何をやりたいんでしょうね?」

『一般の探索者にマウント取って言う事を聞けって叫んでるだけだね。今回のエリクサーなんかを『治験で使ったから返品は出来ない』って言い切ったし、俺達がそれに対して法的手続きを取って対価の支払いを求める訴えを出したら、どう対応するんだろうね?』


「私に鑑定させた以上、治験で使ってることはあり得ないと思うんだよね? その現物はどうするんだろ?」

『今更表に出せないし、廃棄をするような勿体ない事はしないだろうからさ、今、俺達って世界中のスパイさん達と知り合いになってるから、ちょっと協力して貰おうかな? とか思ってるんだ』


「でも……それしちゃうと聖夜さんとエミちゃんが困る事にならない?」

『ああ……そうかもね……一応聖夜さんに先に話振って見てようかな? その反応を見て他の国の人達と話してみるよ』


「USはどっちに行く予定なの?」

『ワシントンD.Cだね。七層の方がステータスの上りが早いし』


「あ、そう言えばさ。ミスリルの武器ってもしかして、レイスに物理攻撃通らないかな?」

『あり得そうだね。ついでに彩の武器もミスリルに換装しておいてあげるよ』


「ありがとー」


 そう言って平べったい胸に抱きしめて、チューをしてくれた。


『彩ってそんなキャラだったっけ?』

「進なら流石に出来ないけどね。その見た目だけは反則的に可愛いからなんか許せる」


『まぁ役得って事にしとくよ』

「ミスリルの武器とか、今値段付けたら、億単位の値段になりそうだよね」


『そのうち錬金系のスキル保持者が現れたら安くなるよ』

「昨日時点でスキルカード保持者一万人超えてるし、出やすいスキルならもう持ってる人がいても不思議じゃないんだけどね」


『回復系の魔法も報告は上がって無いの?』

「今の所は存在してないみたいだね」


『意外にポーションの価値が重要かもね』

「後はダンジョン内の通信環境が整えば随分被害は抑制できるんだけどね」


『世界中の二次ダンジョンの五層はもう突破できてるんだよね?』

「ええ、日本では二十四人の殉職者。世界全体では四千六百八十二人が今回のスタンピードで殉職されてるわ」


『俺みたいにペットに飲み込まれちゃって意識を保ってる人とか出てこないのかな?』

「いても不思議はないよね」


『もし居たら、俺に会える様に取り計らって貰えるかな?』

「解ったよ。気に留めておくね」


 ◇◆◇◆ 


 俺と彩が階段を下りて事務所に行くと、既に相川さん達は居なかった。


「TB。ちょっと聖夜さん達呼んでも良いかな?」

『どうしたの?』


 先ほどまでの相川さん達との話の中で納品したエリクサーの行方を知りたいという話が出て、俺も興味を持ったから『話してみよう』との結論に至った。


「で、ですね。私達は明日から当面USでの活動をする事に決めたのですが、公安に頼めるかどうか確認したい事は、社長の家族の警護とエリクサーの行方の追及。この二点です」

「私の権限でどこまで出来るか、微妙なラインですね。海外のそれこそCNの諜報辺りだと簡単に見つけ出しそうですが、私がそれを容認したと言う訳には立場上出来ません。私に出来るのは偶然CNやGBの諜報局員にその件の興味を持ってもらって、独自の判断で調べて置いて貰う事くらいですね」


「聖夜さん? 意外に黒いね……」

「前にも言いましたが私は太田協会長が警察庁に居た当時に、いじめられましたから」


「社長の家族の安全は確保できるの?」

「それは問題無いですが、一緒にUSに行かれる選択は無いですか?」


『なんで?』

「私の身体も一つしか無いですから、TBについて行くと他の人間に任せる事になります。当然警察庁の主流閥は、太田協会長の元部下たちですから、安心できないと言うか……」


『なるほどね。うちのお袋って結構フットワーク軽いから、もしかしたら行くって言うかもしれないし連絡入れてみるよ』

「では私も各国の諜報機関には知られている周波数で、先ほどの問題に関して調べる事が可能かを、本庁に問い合わせてみます」


「黒い……」


 結局お袋は、『US旅行に連れて行ってくれるの? 穂南も一緒に? 超うれしいわー! 穂南の学校? そんなのUS旅行に比べたら些細な事だわ』と、親としてそれはどうなの? と言う乗りで速攻で返信があり、咲の運転で穂南とお袋を迎えに行く事になった。


 その時点で既にジェフリーとデビットの二人がガードに付き、万全の状況で国外へは出る事は出来そうだ。


「TB。先ほどの青木の通信は仕込みなのかい?」

「知らないよ」と答えたが「ニャニャニャ」としか聞こえないけどね。


「USも一応その件は調査しておくよ、判明したら一応伝えるね」


 太田協会長、絶体絶命のピンチだな……


「お兄ちゃん達こんな素敵な事務所があるんだねぇ、都心の超一等地でこんな広い家とか羨ましすぎるよー」

『穂南。今はこの辺り魔物だらけだから、意外に安いんだよ?』


「そうなんだぁ、でも築六十年のうちの家と違い過ぎるよ」

『お袋? お袋さえ良ければ戻って来たら、家建て替えてもいいけどどうする?』


「あらあら、進ってそんな甲斐性あるんだね。じゃぁ帰って来たらお願いしちゃおうかな?」

「お兄ちゃんまじ? 超すごいじゃん。さすが世界一位」


 ちょっとだけ親孝行できるかな?

 お袋や穂南の着替えや旅行道具は、俺が異次元ボックスに放り込んで来たから殆ど手ぶらでもOKだけど、不自然だから旅行鞄だけは一応もってもらってる。


 事務所でテレビを見ていると、先ほどこの事務所に訪れていた鮎川さんが、ポーション類の流通の一時禁止を発表していて、政府認定の鑑定スキルもしくは鑑定アイテムによって厚生労働省認可のシールが貼られたものだけが、今後流通する事になると発表していた。

 JDA側が権力の横暴だと抗議コメントを出していたが、『お前らがそれを言うか?』とテレビのコメンテーターもあきれ顔だった。


 話は世界でのポーションやダンジョン鋼の流通にも話が及び、各国で現状買取価格も流通価格も一定の基準が無く、そもそも国内で納品されていたランク2以上のポーションが殆ど国外に流通して、高値で取引されている事実などが晒されていた。


 まだ俺達のダンジョン進入禁止や、国外への拠点の一時変更などの情報は伝えられていないが、第三次ダンジョンの五層中ボス発生までには、戻れる環境であってほしいと願うよ……


 彩からチャットで連絡が入り、梅田五層で【鑑定LV1】スキルを身につけた松田曹長が、厚生労働省に鑑定要員として、貸し出される事になったんだって。

 今現在毎日五十人程の自衛官がスキルを身につけているが、その為にポーションランク1の獲得が必須条件だから、梅田五、六層と代々木五、六、七層は自衛隊の部隊で埋まる状況だって言ってたよ。


 全自衛官がポーション水鉄砲で狩りをするなら22万個以上のポーションが必要だから、とてもじゃないけど需要を満たしてないからね……


 明日は、もう一度梅田ダンジョンに行きミスリル武器でレイスを倒す事が出来るかどうかの検証を行われるらしい。


 倒せたらいいけどね?

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