第45話 相川と言う人

 インターホンが鳴り「ハーイ」と言いながらテレビフォンに向かう麗奈。

 そこで声出しても防音扉だし外に聞こえないだろ? とは思ったが日本人らしくていいやと突っ込みはしなかった。


 外には何故か、彩と見知らぬ男女が三人で並んでいた。


「彩さん。お知合いですか?」

「いえ、ここで一緒になっただけですよ」


「あの、先ほどお電話を頂いた相川です。もう一人の女性が厚生労働省の職員で今日のお話のオブザーバーとしてお願いした、鮎川です」

「鮎川美幸と申します。よろしくお願いいたします」


「一応私も自己紹介しておきますね。陸上自衛隊の斑鳩いかるがと申します」

「斑鳩さんって言われますとスキル保持者で、唯一の鑑定が出来ると言われている斑鳩さんですか? お会いできて光栄です」


「えーと、相川さんでしたっけ?」

「はい。そうです」


「鑑定スキルは私だけではなく、他にも使用できる方は居ますよ」

「そうなんですか?」


「まぁここではあれですから中へお入りください」


 麗奈の言葉で三人は中へと入って来た。


「TB、早速お願いしても良いかな?」

 彩に言われて俺は「ニャ」と返事をして、彩と共に麗奈の部屋へと上がって行った。


 今の時点では公安コンビは室外の車の中で待機をしている。

 基本、海外勢力との接触以外には関りを持たないスタンスは守ってくれている様で何よりだ。


「早速ですが、現在のJDAでは国際的な基準で考え、探索者シーカーの方々の公平な利益の獲得に繫がらないと私は考え、JDAとは別の組織を立ち上げて優秀なシーカーの国外への流出や、ダンジョン技術の開発をWINWINの関係で行える組織の構築を目指しJDAから離れました」

「それはまた恐ろしくタイムリーなお話ですね」


「JDAと言う組織は各国のD.Aの中でも政府に、より近い組織構造になっていまして全役員が天下りの元官僚です。そしてシーカーを下に見て組織の言う事を聞いとけばよい。という考え方が蔓延しています」

「今回私達も思い知らされました」


「世界基準で見れば、各国によってD.Aの組織の在り方はそれぞれ独自で、表面上の攻略情報などのプラットホームを共有しているに過ぎず、買取価格などは各国に一存されています。各国ともに現時点では一つの組織だけしか買取が出来ない事になっているために起こる現象ですね」

「そうなんだ。それで相川さんは何をなさるんですか?」


「フェアトレードと言う言葉をご存じでしょうか?」

「コーヒー豆とかでよく書いてあるけど、なんとなくしか分からないです」


「主に開発途上国における生産支援を現す、世界的な基準価格を盛り込んだ取引ですが。ダンジョン産のアイテムに関して今後世界中が同じ基準で取引を行える組織を作りたいと思います」

「何故最初からそうならなかったのでしょうか?」


「アイテムの保障が出来ないからです。今までは鑑定などと言うスキルはありませんでしたし、各国の基準に合わせた治験や、金属の耐久試験などとても手間のかかる手順を踏んでいましたが、それでも一定数以上の偽物フェイクアイテムが市場に出回っていました」

「日本とかダンジョン出口で買い取ったものだけ流通許可って言う話ですよね?」


「それにしても最初から偽物を用意して持ち込んだものを帰り際に提出してお金に換えるなど、どのようにでもお金をだまし取ろうとする人は現れます。そしてそれを見破れないのが現状でした」

「そうなんですね……」


「そこで私も、手段的には煮詰まっていたのですが、今回JDAのあまりにも身勝手な対応を耳にして、これでは日本のダンジョン産業が世界に置いて行かれると思い決断したのです。単刀直入にお伺いしますが先ほどの話でも出ましたけど、田中さん方も鑑定を出来るのでは無いでしょうか?」

「何故、そう思われたのですか?」


「先日のランク4及び5のポーションに関してはカプセルに数字が入っていますからまだ見当は付くと思いますが、エリクサーに関してはカプセルに表記はされていなかったのに関わらず、確信を持ってエリクサーの鑑定依頼をお出しされたからです」

「あ……」


「もし、その鑑定の能力が汎用性があるシステムとして利用できるのであれば、買い取り業務のシンプル化は勿論、その手間をシーカーの皆さんへの収益として還元させる事も出来るのです。もし手段があるのであればご協力を願えませんか?」

「それは私の一存でお答えは出来ない内容です。厚労省の鮎川さんがご一緒されているのには理由があるのですか?」


「はい。ぶっちゃけて言わせて頂きますね。今回JDA発足当時にダンジョン利権に乗り遅れてしまった厚労省の挽回のチャンスが訪れたので、この話に乗っかれば警察官僚中心の利益構造になってしまったJDAの鼻を明かせると思っています」

「それはまた……随分ぶっちゃけられてますね」


「ポーション類は明らかに薬品ですが、現状厚労省の薬事審議会すら通らずに日本の法律上の薬ではありません。これを野放しにしてしまうと法治国家の体裁すら失われます。特別法案を通して国が認めるれっきとしたお薬だと言う保証が出せるのは、厚労省だけです。これに経済産業省による金属類やこの先出てくるであろう魔導具と呼ばれる物の取引に特化した組織を作り上げれれば、ダンジョン利権は現状のJDAの手元からは殆ど離れます。精々今回の田中さん達が受けたような、入り口の交通整理で嫌がらせをする程度の組織でしかなくなります」

「私達にはその嫌がらせは大きいんですよね……」


「まぁ今日の所は、私達の動きに賛同して頂けるかどうかの提案だけですので、もしご協力いただけるようなら、また連絡を頂きたいと思います。もう一度言っておきますが、一番重要な部分はダンジョン産アイテムの鑑定にあるとお考え下さい」

「そうでしょうね……」


「一つだけ情報を流します。本日厚労省は日本国内でのポーション類の厚労省未認可状態での流通を全面的に禁止する通達を出します。解除の条件は厚労省が発行する許認可シールが貼られたポーションのみが国内流通でのルールとなります。実質鑑定スキルが無ければ流通させたら駄目ですよ? という判断ですね。 これを斑鳩二尉を抱える防衛相がどう利用してくるかで世の中の流れは変わってきます。田中さん達はSNSをご利用されてるみたいですが、今日のお話はまだ出来れば内密にお願いします。お互いのより良いお付き合いの為に」

「解りました」


 相川さんと鮎川さんの二人を送り出し、咲と二人で大きく息を吐いた。


「ねぇ? 私達って随分大きな話に巻き込まれちゃってるよね?」

「うん……」

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