第43話 歩きスマホは駄目だよ

 翌朝、俺達を取り巻く環境は大きく変わる事になった。

 昨日SNSを使って拡散した内容は賛否両論を引き起こし、実際にどのように治験を行ったのかを公表しなければ、収まりがつかなくなった。

 JDAも、まさか実際には治験など行われていなくて、オークションで販売する予定だとは発表できないし、そのポーションとエリクサーは協会長の太田の元へと預けられている。


「くそっ、民間探索者風情がこの組織に対して楯突くなどあってはならん事だ。あいつらを国内ダンジョンへ入場させる事を禁止にしろ」

「それはJDAの権限を超越した行為だと思われますが?」


「なぜだ? 入り口では入場者の身分証明書をJDA職員が確認して許可を出して入場させているだろう? あいつらの連れている黒猫は入場記録も何も残っていないのだから『違反行為を確認したので入場を許可できない』と言えばよい」

「解りました。その様に入場ゲートの職員に伝えます」


「JDAに逆らうものなどダンジョンに入れる必要などないからな」

「協会長、AEから国際電話が入っております」


「なに? この忙しい時に誰だ? 取り敢えず繋げ」

『JDAの太田だ』


『ムハンマドと申します。そちらにエリクサーと呼ばれる神薬が存在していると言うお噂を聞きました。単刀直入に言います。5000万USドルでお譲りいただきたい』


『なっ…… 』


 その言葉を受け、太田は素早く考えをめぐらした。

 出した答えは……


『ダンジョン産業に対する研究資金の提供と言う事で、ありがたくお話を受けさせていただきましょう。諸事情があるので取引を表ざたに出来ないが、それでも構わないのか?』

『解りました。CHの口座はお持ちでしょうか?』


『あー。ある』

『それではそちらの口座に入金を確認して頂ければ、カプセルの受け渡し方法を指定いたします。お判りと思いますが、カプセルが偽物だったりした場合は、神の報いを受けます』


『ああ、裏切る事は無い。物は相談だが一緒に赤のランク4とランク5、青のランク4とランク5にも値段を付けて引き取って貰えないか?』

『解りました。査定をして連絡を入れます』


  ◇◆◇◆ 


『後は昨日の各国の連中がどんな値付けをしてくれるかだよね』

「そうですね社長。そう言えば聖夜さんの言ってた相川って言う人には連絡は付けなくても良いんですか?」


『JDAの部次長さんだったって言う人か。気にはなるけど、俺達が焦って連絡を取る必要は無いかな? まだ活動資金は余裕あるしね』

「そうですね。もう少し様子を見たほうがいいと思います」


『彩はどうしてるの?』

「今日も防衛省で勤務だって言ってましたよ。昨日で百二十か所は終わって後三十か所も今日中に終わるって言ってました」


「それより昨日は早速梅田ダンジョンで、自衛隊がポーション水鉄砲作戦始めたらしいですね。ポーション1カプセルを500㎖の水に溶かしてかければ、倒せるそうですよ」


 麗奈がポーション作戦の成果を教えてくれると、エミさんが他国の状況を教えてくれた。


「他の国では、光属性のライトボールで一撃だって報告も上がってましたけど、そっちは所持者が圧倒的に少ないですし、今回の梅田で自衛隊員が10%程度スキル所持者になれば、何人かは出てくるでしょうけど」

「梅田は二十二万人の自衛隊職員が全員五層をクリアするまで一般探索者は夜間二十時から早朝五時までの時間に限定して解放だそうです」


『聖夜、それだと一般探索者も結構夜間並んでいる人間多そうだよね?』

「いえ。五層ですからそもそもダンジョン鋼の武器を所持してないと辿り着けないので、民間探索者は少ないようですよ? 自衛隊は武器を貸し出してローテーションで回してるみたいですけど」


『あーそうか。俺達みたいに簡単にはいかないか……ダガーで二百万円だもんな』


 俺達がそんな事を話しながらダンジョンゲートへと到着すると……


「田中さんと麻宮さんんですね。JDAからダンジョンへの入場を許可できない通達が出ています」

「え? 何故ですか?」


「ダンジョン内に入るためには、身分証明書の提示が必要なのはご存じですよね?」

「はい、勿論」


「お二人が連れている黒猫が、無許可でのダンジョン内での侵入を繰り返し、お二人はその違法行為を幇助していたとの判断で、ダンジョン内に立ち入りを禁止するように指示が出ています」

「えーと? JDAはそれを法的根拠のある決定として言ってるんですか?」


「私達は協会から指示を受けてそれをお伝えしているだけですので、私に言われても困ります」

『ふーん。徹底的に嫌がらせする気だね。聖夜、俺達が出国する場合は、聖夜たちがついてくれば問題無いんだよね?』


「えっ? まさか国外に行かれるんですか?」

『面倒ないちゃもん付けてくるくらいなら、その方がよっぽど気楽だよ』


 入り口でそんな話をしてると昨日事務所にも現れたUSの二人組ジェフリーとデビットが姿を出して来た。


「ハーイ、USはあなた達三人がUS内のダンジョンで活動するなら、最速でグリーンカードを用意します。なんならこのまま横田から特別機でご招待しますよ」

『だ、そうだよ? 聖夜』


「ちょっと待ってください。私の一存で返事が出来ない内容なので、本庁に確認を取ります」


 聖夜とエミが本庁に連絡を入れている間に、さらにジェフリーが話し掛けて来た。


「昨日お預かりした資料に基づく査定もお出ししてますので、お受け取り下さい。金属に関してはもう少し時間を頂きたいと思います」

『了解。さすがにUSはフットワークが軽いねー』


「昨晩のSNS掲載直後からこうなる予想はついてましたので、他の国もみんな声を掛けて来るはずですよ。出来れば国外に出る決断をされるならUSを選択してくれることを願います」

『咲と麗奈はどう思う?』


「ずっとって言う事じゃないなら、全然あり寄りのありじゃないかな? US以外だと一度出ちゃうと戻って来れない気もするから、行くならUSだと思うよ」

「私もそう思う」


『取り敢えず今はここに居ても、どうせダンジョンに入れないし一度事務所に戻ろうか?』

「了解」


「俺達もご一緒して構わないですか?」

『いいよ。どうせ他の国もみんな訪ねてきそうだから、一つの所と会ってるよりも、安心だし』


 そう言いながら、電話中の聖夜も一緒に事務所へと戻って行った。

 聖夜! 歩きスマホはマナー違反だからな!!

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