第40話 老害って……
JDA本部
「協会長。先日持ち込まれた鑑定依頼品のポーション類ですが、買取価格設定はいかがなさいますか?」
「相川君。現時点では鑑定など自衛隊攻略班の斑鳩二尉にしかできないのであろう?」
「そうですね」
「そうであれば鑑定依頼を出した上で、初回納品分はサンプル提供を求めればいい」
「今までにそういった対応を行ったことなどありませんが?」
「治験をしなければ効果が判明しないことなど納品者も解っているだろう? そこは今後のダンジョン産薬品研究の為に、協力費として、せいぜい現状のポーションランク3と同額で妥協して貰いなさい。こんな商品が継続的に手に入る訳ないんだし、D.A経由以外での流通は出来ないのだから、そう言い切れば問題は無い」
「果たしてそうでしょうか? 持ち込まれた方は民間探索者のランキング一位の代理人を務める『田中麗奈』さんですよ?」
「相手が誰であろうと対応は変わらない。D.A経由以外での流通が認められていない以上、余分な出費は防ぐのが組織と言う物です」
「ではポーションランク3と同額の百万円で、今回の五種類の査定を出すという事ですか? 今後の買い取り額はどう提示するのですか?」
「今後は鑑定結果を見てからだが、必要以上に高額な設定をする必要は無い。ランクごとに倍にしてやれば十分だ。現状ランク2が五十万。ランク3が百万だろう。ただし当然効果によってはJDAから販売する際には、競争入札を行い出来る限り高値での売却を行う様に」
「了解しました。しかし相手方がクレームを言ってきた場合の対処はどうなさいますか?」
「ダンジョンで拾っただけの物が百万円以上の値を付けて、それで文句を言うなどあり得ない。断固として言い切れば問題は無いのです」
「解りました。先方にはそのままお伝えします」
この返答を聞いた相川は『そんな理論が果たして本当に通用するなど思ってるのか? この狸親父』と心の中で毒づいた。
何が日本の発展のためだ? お前の頭の中に自分の利益のこと以外ないだろう。
D.Aなんてあくまでも暫定的な組織であって、ダンジョン産アイテムの流通に強制力なんて無いはずだから、国外相場と合わせたフェアトレードを行える別組織を立ち上げればD.Aを出し抜いて国内でのシェアを十分に奪えるかもしれないな。
肝は『田中麗奈』と『麻宮咲』の2人の取り込みだな。
そうと決まれば、こんな組織さっさと退社してしまうに限るな。
先ほどの協会長の言葉を、そのまま代々木D.Aの受付カウンターの担当職員に書面で通達すると人事部に赴き一身上の都合による退社を伝えた。
「相川部次長。急にどうされたんですか?」
「泥船が沈むのを見たくないですから」
実際に海外ではまだランク3ポーションすら報告されておらず、日本国内でのみランク5やエリクサーまで現れた。
これを顧みると明らかにドロップでは無い、高ランクの薬品の製造方法が有ると考えたほうが当然なのに、それを何故簡単に自分の所だけの利権に出来るなど考えれるのか本当に理解不能だ。
太田協会長は、警察庁からの天下りだったな。
現在次席に当たる部署を牛耳るのは、通産省からの川原専務理事と、防衛省からの都筑常務理事か。
それ以外の省庁からの後ろ盾を得るとすれば、厚労省と文科省辺りの人脈を抑えるのが良さそうだな。
まぁ、田中麗奈の協力を得る方が先か。
◇◆◇◆
「USのダンジョン諜報部のジェフリーとデビットです」
「GBのMI6ダンジョン部所属ハリーとジョンです」
「DEのダンジョン調査部フランクとメンヒルデです」
「CN地下特殊構造体調査局のマーとコウです」
「KRダンジョン調査局キムとヤンです」
「FRダンジョン情報局カタリーナとアランです」
「RUダンジョン攻略局のロマノフとタチアナです」
「皆さんは私達の事は当然ご存じでしょうけど、田中麗奈と麻宮咲です。それとここに居る黒猫が、ダンジョンランキング一位のTBです。ご存じと思いますが、日本語を完全に理解していますので、日本語でしゃべられる限りは意思の疎通は可能です」
そこまでの自己紹介が終わったころに青木聖夜も到着し、各国のエージェントを前に毅然と自己紹介をした。
「日本国公安警察警視『青木』と申します。現在日本国に置いて麻宮、田中並びにTBの三名に関しては、公安警察の保護対象となっておりますので、接触の際は理由の如何を問わず、必ず私の同席を求めて下さい」
「それはビジネスであってもですか?」
「国益を損ねないと判断すれば、私から他言をする事はありませんので、日本国の法律を遵守した上での取引であれば構いません。しかしながら当局の遠藤からの報告により、あなた方は皆さん、この建築物へ盗聴装置を設置され、それを利用した呼びかけによりお集まりいただいていると伺っております。この時点で日本国の刑法に違反していますので、友好的なお取引は難しいと思っております」
『まぁ今はそこを置いといて、今日皆さんが出るときにそれぞれ仕掛けた盗聴装置は責任もってお持ち帰り頂く。これ以降該当国の盗聴装置を発見すれば、その関連国家と一切のお話をお断りする。この二点をお約束頂ければ、重大な問題に関しては、情報の共有を行って良いと思っています』
「今のは社長TBがスマホで入力した文章ですが、実際問題としてそれでも盗聴や探知を使われる方が出るかもしれませんので、お教えしておきますが、社長はスキルによって気配探知を高ランクで所持しております。よってどんなに巧妙に隠しても、完全に探知できますので、その実力と逆鱗に触れる度胸のあるかたはお好きにどうぞ。ただしお伝えした以上、今後の一切の協力を得る事が出来ない事を覚悟の上でですが」
その言葉を受け各国のエージェント達も『ゴクリ』とつばを飲み込み頷いた。
「それで今日皆さん方をわざわざお呼び出しさせて頂いたのは、新たに発見したポーション類に関して、効能を書き出したシートを用意しております。これをそれぞれの国家に査定して頂き値段をつけて頂きたいと思います。談合は出来れば無しでお願いします」
「もう一点。新たな金属素材として、ダンジョン銅とミスリル銀の二種類の金属を発見しました。この二つの物質に関してはそれぞれの国家に百グラムずつのバーで用意してありますので同じように値段をつけて頂きたいと思います。こちらからの要望は以上です」
そう伝えると代表するかのようにGBのハリーが聞いて来た。
「大変ありがたい提案ですが、この提案をされるという事は、この国の値付けを信用されていないと判断されているんですね? 田中さん」
「はい。大変残念ですが百パーセントの信用は出来ていません。今回ポーション系統に関しては、既に現物をJDAに対して渡していますが、返答次第では一切のJDAとの取引を行わない選択肢も考えています」
「田中さん。それは困ります」
「青木さんはJDAの関係者ですか? そうだとしたら、この諸外国の方達よりも信用できませんが?」
「いえ、そう言う事では無く、国内での取引を基準に考えて頂きたいという事です」
「現時点ではJDAに対してランク2までのポーションまでしか流通させるつもりは有りません」
「それ以上のランクの物は正しい流通価格が算定できれば売る事もあるとだけ伝えておきます。金属も同じです」
それだけを伝えると、各国のエージェント達が一生懸命に部屋中に仕掛けてある盗聴器を取り外して持ち帰って貰った。
「田中さん……何とも思い切った行動をされるんですね。肝が冷えましたよ」
「聖夜さんとエミさんが私達の仲間である結果を望みたいですね」
「麗奈……意外に頼りになるんだね……」
「社長に捨てられない様に必死なだけだよー」
果たしてこの騒動は、どう収まるんだろうか? まぁ取り敢えず七層に出かけよう。
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