第37話 梅田五層突破

 梅田ダンジョン内でスタンピードが発生した時点で世界中の二次ダンジョンが等しくスタンピードを起こす事態となっていた。

 世界中で百五十か所に及ぶダンジョンが一斉にスタンピードを起こしたが、状況としては予想されていたのでD.Aを通じてダンジョン周辺の避難及び、スタンピードに対応するための軍は派遣されており、周辺地域に魔物が逃げ出さないように包囲態勢は整えてある。


 問題は、どのタイミングで二次ダンジョンの中ボスの倒し方が判明するかである。

 各国ともにスキル獲得者の損耗を防ぐために、最初から投入する事を控えたが、中ボスの撃破を行わない限りは延々とスタンピードは続き、そのうち損耗し最悪の事態を招く事になる。


 そして……その時間に合わせて各国で第三次ダンジョンと呼ばれるダンジョンも登場した。

 二次ダンジョンより更に数は少なく、世界中百二十か所に登場したこのダンジョンは当然の様に人口の多い国から順に百二十か国に現れた。


 現在の世界におけるダンジョンの総数は一次ダンジョンが百九十三か所現れ十三か所が消失。

 第二次ダンジョンが百五十か所。

 第三次ダンジョンが百二十か所で、総数四百五十か所が存在する。

 そして……このタイミングで、今までの一次ダンジョンの百日おきに次層が登場すると言う、基本パターンが崩れ一次ダンジョンでは第七層が発生した。


 これらの事実を現時点ではダンジョン内部に居るTB達は知る由も無い。


 ◇◆◇◆ 


 代々木ダンジョンでは今回は連動スタンピードは起きなかったため、多くの自衛官は梅田へと移動してスタンピード対策に取り組む事になった。


 その中にはこの五日間の間に新たにスキルホルダーとなった十名の隊員も含まれる。

 曹士であった彼ら十名は、スキル獲得と同時に無条件に准尉へと昇進し、やる気にあふれる隊員である。


「山田。聞いたか三次ダンジョンの話?」

「ああ、博多の警固公園だって聞いたぞ」


「その情報は正しくないな」

「違うのか?」


「警固公園は博多じゃない、天神だ」

「違う場所なのか?」


「ああ、俺のような山をかく男には大事な違いだ」

「今そこにこだわる必要在るか?」


「そうだ……」

「まぁいい。その警固公園のダンジョンを俺達が担当するらしいぞ。梅田のスタンピードが収まった後の話だけどな」


「それは、俺としては地元に戻れるからうれしい話だな」



 ◇◆◇◆ 



 世界中の二次ダンジョン周辺では各国のスキルホルダー達も、二次ダンジョンの攻略情報を待ち望んでいる。


「上田二佐。まだ二次ダンジョン五層攻略の連絡は入って来ないのか?」

「マクセル長官。残念ながら突入から一時間を経過した現時点で報告は入っておりません。一次ダンジョンのオークを現状平均して十五分以内で倒せる状況ですので恐らく中ボスはオーク以外の敵であり、時間がかかっているとしか判断できません」


 USのダンジョン攻略局、マクセル長官より上田二佐へと情報の確認が入るがいまだ提供できる情報が無い事に焦りを感じて来る。


 そしてスタンピード発生から六十五分が経過した時に、梅田ダンジョンにおけるスタンピードは終焉を迎えた。


 ◇◆◇◆ 


「みんな突入するわよ」

「「「了解」」」


 彩の号令に合わせてTB、咲、麗奈、松田、山本、鈴木、そして彩の七名で五層神殿内のボス部屋へと突入して行った。


 ゆっくりと扉が閉まると部屋の中央部分に黒い霧がかかり、霧が晴れると同時に五層の中ボスがその姿を現した。


『…………厄介そうだな。麗奈すぐ写真を撮って俺に見せてくれ』

「了解だよ」


 現れたのは半透明にも見える霊体系の敵だった。

 攻略班の三人がクロスボウを構え狙い撃つ。


「駄目だ。すり抜けます」


 しかしよく見ると、すり抜けたと言うよりは、最初の一体のレイスの身体を引きちぎった様な感じであり、更に引きちぎられた部分がすぐに別のレイスへと成長した。

「増えた……」

「攻撃は控えて、TBの鑑定が出るまで回避に専念」


 最初からいきなり四体に増えてしまったレイスを相手にする事になる。

 これを最初に突入した、四班二十四人が同じ感じで初撃を入れていたとしたら……

 二十五体のレイスを相手にしなければならなかっただろう。


 まさか……とは思うが中ボス戦用にM4の5.56㎜×45㎜のNATO弾をダンジョン鋼使用にした物で銃撃して居れば、弾倉が三十発として各班一丁をフルオートで撃てば、一瞬で百二十体のレイスに増えた可能性まである。

 もし各班二丁装備していたら……


『麗奈みんなに伝えてくれ、触られると体力を吸い取られると同時に、恐慌状態に陥るみたいだ。見ての通り物理攻撃では敵の数が増えるだけだね。攻撃は俺と彩に任せろ。咲は俺と彩以外をとにかく守ってくれ、パリィは出来るはずだ』

「了解TB」


 麗奈が全員に伝えると、俺と彩は咲たちとは反対側に位置取り、エアカッターとファイアボールで狙い撃ってみた。

 命中するが、一回り小さくなるだけで倒すまでには威力が足りない様だ。


『彩、何かいい手は無いかな?』

「エンチャントファイアで斬れば恐らく三回ほど続けて攻撃したら大丈夫そうだけど、ドレインタッチ? あの攻撃を防げる確証がないと近寄るのは危険だよね」


『そうだな……レイスかぁラノベやゲームだと聖水とかポーションとか聖魔法に特攻効果がありそうだけどな。ポーションは結構在庫あるし試してみるか』


 十個ほどのポーションを取り出して床に置き、そこに今日覚えたばかりのトルネードを発生させた。

 指向性のある魔法で発動から十五秒程度は効果が続く。


 ポーションのカプセルを巻き込み渦を巻いた風が、レイスを包み込んでいく。

 発動が止まった時には、巻き込んだ2体のレイスと共に姿を消していた。


『成功だな。でも、コアの位置が解ればそれを直撃でなら、物理で倒す事も出来そうだね』

「でもどうなんでしょう? ちぎれた体から増殖してるし体全体がコアのような物なのかもしれないわよ?」


『なるほどー 取り敢えず倒し方は解ったから後二体をさっさと倒しちゃおう』

「そうね、咲ちゃんが二体相手取ってパリィしまくってるから、引き離してあげないと」


 彩が大きな声で咲たちに伝える。


「今からそっちに向かって攻撃するから、みんな回り込むように私達の後ろに来て」


 俺は再び十個のポーションをトルネードで巻き上げて咲を攻撃していた二体のレイスに向けて放った。


 無事に倒す事に成功し中央部分に宝箱が現れた。


「松田曹長宝箱を開けて」

「斑鳩二尉? 私でよろしいのですか?」


「ええ。構わないわ。能力者が増える事が大事ですから」

「はい。ありがとうございます」


 そう言いながら、宝箱に触れると蓋が開きスキルオーブが現れた。


「スキル獲得しました。【鑑定LV1】です」

「おめでとう。これで私も狩りに参加させて貰えるようになるかな?」


 そう言っていると下へ続く階段と共に、神殿入り口からの扉も開き、他の隊員たちが声をかけて来た。


「スタンピードは止まったはずです。すぐに外に向かい殲滅作戦に協力しに行きましょう」


 彩が宣言すると歓声が上がり、攻略班のメンバーは隊列を整え次々と階層を上って行った。


『彩。俺達はリフトで先に上るぞ。そう言えばパーティ人数の確認用に松田さん達パーティに誘って見ていいかな?』

「やってみて」


 麗奈に、松田さんをカメラで写して貰いながらパーティ勧誘しようとしたが、グレーアウトしたままで出来なかった。


『あー、上限が六人だったみたいだな』

「松田曹長は自分のステータスカードでリフト使えるけど、山本一曹と鈴木一曹は隊に合流して一層に向かって下さい」


「「了解です」」


「お疲れさまでした。ご無事で安心しました」


 公安コンビが、ねぎらいの言葉をかけて来る。


「今からリフトで下に戻り、すぐにD.Aの事務所で待っている上田二佐と合流して世界中にレイスの倒し方を伝えなければならないので急ぎます」


 俺達は五層中ボスを攻略して一層へと戻った。

 だが、今回も二十四名もの攻略班の殉職者を出してしまう事になった。

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