第33話 上田二佐に報告

 俺達は、青木さんと遠藤さんの二人を二層に残して五層へと向かった。

 咲と麗奈は四層までは既に来たことがあるので、スムーズに五層への階段まで辿り着く事が出来た。


 四層から五層へ降りる階段部分に自衛隊の隊員が歩哨に立っていた。

「この先は危険度が高いので民間探索者は、原則立ち入り禁止になっています」


「斑鳩二尉に連絡を取りたくて伺ったんですが、伝えていただく事は可能でしょうか? 麻宮と田中と言います」

「斑鳩二尉のお知合いですか? 無線で確認を取りますのでしばらくお待ちください」


 そう言って階段を五層へと降りて行き、二分後くらいに戻って来た。


「斑鳩二尉が上がって来るそうですので少々お待ちください」


 十分ほどして彩ちゃんが四層へ上がって来た。


「久しぶり。大阪に来たんだね」

「色々と相談したい事もあったし、TBが恐らく自衛隊だけで梅田の中ボスを処理するのは難しいだろうって言いだしたから来ました。スタンピードはいつ頃とか予想は出来ているんですか?」


「最速で三日後くらいを予定しているわ。国外の二次ダンジョンがスタンピードをいつ起こすのかでもう少し正確な情報が入ると思ったけど……」

「思ったけどって何かあったんですか?」


「海外は五層登場時点で二次ダンジョンから一斉に引き上げて、日本からの情報待ちをする事にしたそうよ」

「それは? どういう事なんですか?」


「日本が一次ダンジョンも最初に突破したから、二次ダンジョンも日本に情報を貰う方が良いと判断したみたいね」

「そうなんですね……でも狩らなければスタンピードは起こらないと言う、楽観的な考え方は出来ないと思いますけど」


「日本の攻略班もそれは同じように考えているわ。最悪は最初の条件達成が起った時間帯に、一斉に世界中の二次ダンジョンもスタンピードを起こすかもしれない。むしろその方が確率は高いと思っているわ」

「今日は彩さんも外に出れるんですか?」


「そうね。今日一度出て明日の朝から侵入したら、その後はスタンピードが収まるか死んじゃうかのどちらかになるわね」


 そう言って少し遠くを見るような眼をした。


『彩。俺が守るって決めたから安心しろ。この国もこの世界も俺が纏めて守ってやる。だからちょっと協力して貰えないか?』

「進……あんたそんな事言って正体ばらしちゃうの?」


「進とは言わないけど、TBは言葉を理解してスキルを使う事が出来る猫だと発表しようと思う。ポーションとかも高ランクの物は実質俺しか作れないし、そんな状況なら、こそこそやるより俺がやってるって解ってた方が逆に安全だと思うから」

「そっか、じゃぁ私が今から一緒に出て会見を準備させるよ。一応上田二佐には会って貰えるかな?」


「うん。二佐には進だって言っておいた方がいいよな?」

「そうだね」


「二佐以外には、まだ内緒でお願いするよ」


 俺達は彩と合流して一度梅田ダンジョンから外に出る事にした。

 二層で青木さん達を拾いダンジョンの外に出る。


『彩、公安の青木さんと遠藤さんだ。なんか俺達を守ってくれるんだって』

「いやいや、どう考えても守る手間がかかるだけでしょ? ダンジョン鋼の9㎜弾を無限に確保できるとかなら、話も分かるけど」


「彩さん結構きついね」


 流石に青木さん達も少しうなだれてた。

 取り敢えず予定通りに再び俺のスマホで青木さん達の写真を撮っておいた。


「TB。上田二佐に連絡を付けたわ。今から二佐に会って貰って、その後D.Aのサイトを使って、ランキング一位の存在である事を発表するわ」

『了解。青木さん達はどうする?』


「一応、予定通りに護衛任務を継続します。国益や他国の干渉を防ぐ視点から、防衛相だけのガードより、我々公安がガードに付くべきだとの指示が出ましたので」

『俺は別にいいけど、まじで自分の身は自分で守ってよ? それと斑鳩二尉と揉めたりとかはしないでよ? その場合は俺は無条件で彩ちゃんの味方だからね』


「ありがとうTB」


 俺のメッセージを見て彩が俺を抱きかかえてチューしてくれたけど、相変わらず弾力が足りないぞ彩!


 俺はまず咲と麗奈を伴って上田二佐の乗った指揮車両を訪れた。


「上田二佐、先日代々木ダンジョンの五層を突破した際、本官に協力をいただいた黒猫TBと、行動を共にしている麻宮、田中、両名をお連れ致しました。これから梅田ダンジョンの攻略及び世界のダンジョン事情に置いて、重要な話になると思われます。もう一点。この車両の外に警察庁公安の二名が、麻宮、田中の両名及びTBの護衛として、付き添っております」

「公安か……厄介そうだな」


「上田二佐。TBとの会話を円滑に行うためにチャットのグループ会話をセットアップしますのでよろしいでしょうか」

「了解だ」


「TBは普通に聞き取りは出来ますが、しゃべる事が出来ませんので、チャットはTBの発言のみの利用です。それではTBから上田二佐にご挨拶させます」

『ご無沙汰しております。代々木で殉職した北原曹長であります。理由は解りませんがこういう事態になってしまいましたので、組織の枠から外れた中でダンジョン攻略に取り組まさせて頂いております。今後も組織にとらわれることなく、世界中をダンジョンの理不尽から解放するために、活動して行きたいと考えております。二佐にお願いするのは、北原進は今まで通り死んだものとして、私の事は黒猫TBとして扱って頂きたいと言う事です』


「な……北原曹長なのか君は。失礼、三尉だな」

『階級は、死んでる前程の階級なので三尉と呼ばれると、気持ち的に困ります』


「なるほどな、なぜそのような事になったのだ?」

『その辺りは良く解りませんが、俺が拾ったこの子猫が魂状態だった俺を丸飲みして、気付いたらこうなってました』


「不可思議な事があるんだな……しかし、信じる以外は無さそうだ。現時点で私に報告できる内容はどんな事がある?」

『ステータスカード所持者のランキング一位は俺です。当然斑鳩二尉と同じ鑑定能力も使えますし、もっと優れたスキルの使用も出来ます。身体能力で言えばランキング二位の斑鳩二尉の倍程度は能力がありますので、できれば梅田の五層突破は、このメンバーで行きたいと思っておりますが』


「なるほどな、私だけで判断して良いならそれが一番確実な手段であると思う。しかし君も解ると思うが、組織とは一人の考えで動かせない現実があるんだ。現状は斑鳩二尉ですら今回の梅田スタンピードにおいては基本手を出さない立場で、まさかの時の為のバックアップ要員だ。君たちにももし先発隊が任務にしくじった場合にお願いすると言う事になるが構わないか?」

『みすみす殉職の危険度が高い任務に、確証なく部隊を投入するんですか?』


「それを言うなら相手が解らない以上、誰が行ったとしても危険度が高いのは変わらない。それならば民間人に任せるわけにもいかないので、公には許可できないのだ」

『解りました。今後の自分たちの安全の確保のためにも、まず自分たちの存在を公表して、国の枠にとらわれないダンジョン攻略のチームを立ち上げます。これからD.Aのサイトを通じて発表して賛同者を募りますので、出来れば協力して頂きたいと思います』


「そうか、逆に民間でないと出来ない部分もあるのかもしれないな。特務隊としては、梅田ダンジョンのスタンピードが落ち着いてからの返答になる。明日以降は代々木の部隊もすべて、ダンジョンシティ内に展開する事になるから、民間人の立ち入りは基本明日朝九時以降できなくなる。君たちがダンジョン内に立ち入るのなら、それ以前に入って置くようにな」

『了解しました』


 上田二佐との面会を終えて、俺達はD.Aの施設に向かい、全世界に向けて黒猫TBがカミングアウトした。

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