第27話 穂南とお袋
夕方の十八時にまた四人で集まった。
「え? 彩さんダンジョンに入れないんですか?」
「鑑定能力の報告をしたら、現状世界中で一人しか持たないこの能力の所持者を危険な任務に就ける訳にはいかない! って言う事になってダンジョンへの立ち入りが禁止されたわ」
『それって本末転倒だよね。どう考えても俺を除くと彩が一番強いんだから、他の自衛官が事故にあわなくて済むように彩が先頭に立った方が絶対にいいのに』
「私もそうは思うんだけど、自衛隊の中でも色々あるのよ。私が最強である事を良しとしない人もいるし、今回討伐班も一気にに二十四チームまで増えて、殆どが私より立場は上の人ばかりが班長になってるし、私以上の実績を残そうと躍起になってるのよね」
『出世争いか……俺は曹長までしか上がれなかったから、そう言う世界には無縁だったからな』
「あ、それも今度から攻略班に関しては昇格基準が変わったんだよ」
『へーそうなんだ。猫の俺には関係ないけどね』
「少なくとも私達は攻略班って言うか、自衛隊の様な組織に加入する事は避けたいですね」
「咲ちゃんの鑑定スマホの存在は秘匿してね。バレたら相当ヤバい事になりそうだよ」
「解りました。彩さん」
「私は当分防衛省の庁舎での勤務になるわね。少なくとも梅田ダンジョンのスタンピードまでは」
『あ、梅田のスタンピードどう対処するつもりなの?』
「一応今回の二十四チームが総出で、十二チームが五層に待機して突入は四チームの予定ね。残りの十二チームと他の部隊がダンジョン出口で殲滅作戦を展開してダンジョンシティーの外には出さないと言う作戦だよ」
『そっかぁ、スライムが外に出ると相当ヤバいしね。ボスは? オークなら問題無いだろうけど違うボスの可能性は考えて無いのかな?』
「考えて無くは無いけど、五層だからダンジョン鋼の武器さえ揃えていれば、問題無いと思っているんじゃないかな?」
「そう言えばダンジョン鋼がどんどん高くなってるらしいですよ」
「そのうち、ミスリルやオリハルコンも現れるのかもね」
「手に入ったら、俺が咲ちゃんと麗奈の武器は作ってあげるから」
「麗奈は弓道もやってたよね?」
「うん。うちは古武術道場だから、日本の古武術は一通りだよ」
『なんかキャラ的に全く似合わねぇ。容姿はそう言われたら納得する感じだけど』
「失礼ね社長。咲と比べられたら困るけど、剣も薙刀も結構いけてるんだよ。弓も和弓しか扱ったことないけど二段だよ」
『クロスボウはどうなの?』
「使ったことは無いけど、ライフルみたいなスコープとかつけられるらしいし、少し練習すればそこそこ行けると思うよ」
『じゃぁ思い切って麗奈はクロスボウを極めてもらう方向性が良いかもね』
「武器は社長が用意してくれるの?」
『D.Aで使いやすそうなのを仕入れたら俺がダンジョン鋼と合成するよ。そう言えば彩はエンチャントファイヤ覚えた?』
「まだ覚えてないけど、もう少しだと思うんだよね」
『自衛隊の部隊のいない時間に潜って、火魔法だけは上げておいた方がいいと思うよ』
「そうだよね。見つかったら上田二佐に怒られそうだけど」
『ステータスカードで五層の神殿に直接行けるから、きっと大丈夫だよ。この後少し行こうか?』
「そうね、咲ちゃん達もいいかな?」
「あ、私達は今日は遠慮しておきます。麗奈と新しい事務所兼家の、片付け終わらせたいから」
「もう決めちゃったの?」
「結構凄い所ですよ」
「へぇ引っ越し終わったら、招待してね」
「明後日には終わりますよ!」
「ハヤッ」
「車も買ったんですよ、ランクル」
「凄いね……進が全部出したの?」
『進って言うなし』
「TBの方がいいんだ……」
「私は社長って呼びますけど」
『まぁ取り敢えず彩と二人で行って来る。麗奈のリュック貸して』
「私。武器は自衛隊の武器庫だから持ってないよ?」
『魔法しか使わないでいいよ。基本離れなければ俺が倒すから大丈夫』
「わかった。じゃあ行こうか」
◇◆◇◆
「ねぇ麗奈ちゃんはカード持ってないけど、ダンジョンリフトの移動使えるかな?」
『どうだろ? ステータスカード無しにパーティ組める機能あるのか解んないね。確かめてみるけど行けなかったら、めんどいな』
二時間程狩りをすると、無事に彩の火魔法はレベル2に上がり、ファイヤエンチャントを覚えた。
俺のダガーで実験してみたけど、風魔法と同じように、刃渡りの倍の射程で、武器に纏わせる事が出来る。
『彩、懐中電灯いらずだな』
「でも、これ使ってるとめちゃ目立つから、魔物がどんどん近づいてきそうだね」
『逆に便利じゃん。弱めの敵を有利な位置で数を狩るなら、効率良さそうだ』
「そういう使い方も出来るって事か!」
その日の目的は達成したので、そこまでで帰宅した。
俺は、彩に送って貰って家に戻った。
家に戻ると、穂南がお袋と何か言い争ってた。
「お母さんは絶対許可なんかできません」
「何で駄目なの?」
「お兄ちゃんだって自衛隊のレンジャー隊員で、体鍛える事しか趣味が無いような人間だったのに、ダンジョンでは簡単に死んじゃったんだよ? 穂南みたいに普通の女の子がダンジョン行きたいとか許せるわけないでしょ?」
「お兄ちゃんの趣味はもっと他にもあったよ? 薄い本とか美少女フィギュアとか、それにお兄ちゃんのパソコンの履歴見たら幼女とか好きだったみたいだよ?」
「それは今関係無いでしょ?」
「だってお母さんが他に趣味が無かったみたいに言うから」
地味にダメージ入る会話だな……
穂南がダンジョンに潜りたいとか言ってるらしい。
出来れば俺も反対したい所だけど、実際問題として戦い方と言うか魔物を倒す術は身につけて置いて欲しいとは思う。
だって魔物が出るのは、既にダンジョンだけでは無いし。
都内では少なくとも週に二十人くらいの割合でダンジョンシティの外でも魔物による被害が出ているのが実情だ。
俺は、穂南とお袋の会話が一段落ついてから、お袋にラインで連絡した。
『お袋。穂南の言う事も解らなくはないから、春休みまで待つように言って置いて。俺が穂南でも使える武器を考えるし、これからの世界で生き延びていくには戦えないと難しいから』
『進までそんな事言うの? 穂南までいなくなったらお母さんどうしたらいいのよ?』
『そうならない様に力をつけるんだよ』
『それなら私も条件出すよ?』
『えっ? どんな条件?』
『私も戦える様にしてよ進』
『ええええええええ? マジかお袋』
『穂南だけを戦わせるくらいなら私だってまだまだ頑張れるんだから』
勘弁してほしいと思ったが、とりあえず前向きに検討すると言っておいた。
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