第26話 狩り禁止

 私は進から作って貰った鑑定スマホを持ち、攻略班の指令である上田二佐の元へと向かった。

 鑑定と言う能力が存在する事を初めて世界へと広める事になるが、どう説明するべきだろう? 作って貰ったと言えない以上は、勝手に自らのスマホが変異してしまったと報告するしかない。


 十分怪しいが、それを否定する理論も無いのだから、信用するしかないだろう。

 それに現時点では、私が鑑定が出来ると言っても、鑑定結果やジャッジボタンの存在を他の人が見る事は出来ないのだから、何も確証が無いのだ。


「私の言葉を信じて!」と言うしか無いとか、どこの教祖様? っていう話だよね。


 それでも手に入れた事実として、何人かの隊員を実際に鑑定して、STRを比較して腕相撲の勝者を当てるとか、AGIで足の速さを当てるとか、DEXで遠距離武器の命中率の高い人間を当てるなど繰り返せば、信用せざるを得ないだろう。


 私は国から給料を貰う自衛官である以上、知り得た情報を情報提供者の秘匿義務以外の範囲では正しく報告しなければならないと思っている。


 でも、それで進が守れない状況になったらどうしよう。

 今は進より強い存在なんて居ないか?


 組織にいる間はその一員としての義務は果たそう。


 ◇◆◇◆ 


 私が上田二佐に報告に行くと、丁度新たな特殊構造体攻略班の班長達が揃っていた。

 前回の五層の中ボス戦で三つの班が崩壊してしまったために、全国の自衛官から希望者を募り、二十四班体制として攻略に当たる事になった。


 大阪の梅田ダンジョンの担当班も必要なので、実質東京と大阪に十二班ずつの配属となる。

 今回の新たな編成では、私は唯一の魔法使用者だから、班長としての職務は外され、攻略上一番必要と思われる部署に派遣される立場になる事が決まっていたので、この集まりには呼ばれていなかった。


 今度の二十四班体制において、班長はそれぞれ一尉か二尉であり、私より上の階級の者が多い。

 同じ階級であっても女性を下に見る人も多いのがまだまだ実態あり、結構やりにくい部分はあるんだよね。


「次回の梅田ダンジョンにおける五層中ボス戦に関してですが、大阪担当の班の班長に、スキル取得のチャンスはいただけると言う事で間違いないですね」


 梅田ダンジョンを担当する最先任士官の大川一尉が、上田二佐に対して念を押すように伝えていた。


「梅田ダンジョンの中ボスが、代々木と同じであると言う保証も無いので十分に気を付けて取り組むように」

「了解」


 班長達の整列した後ろで聞いていたが、部屋から出て行く新しい班長達は半数以上が私を露骨にライバル視している様だ。

 今までの攻略班の班長は二名だけしかいないので、ちょっと寂しくもある。

 現在残っている第一班から第三班までの十五名の隊員達は、各班に先任隊員として振り分けらる事になっているので、連携なども少し心配要素である。


 現状は新しい態勢を軌道に乗せるために、代々木五層での狩りを行いながら、ステータスの上昇に取り組み、連携の強化に充てると言う事だった。


 新しい体制になった特種構造体攻略は、メインウエポンがM4からクロスボウと槍に変更された。

 銃弾と違い矢は回収すれば再利用も可能なので、経費的な面では圧倒的にコスパに優れているからしょうがないかな。


 威力的にもダンジョン鋼のやじりであれば、五層と六層のウルフに対しても十分に効果がある事が確認されているので、これ以降は主力武器となるだろう。


 おそらく銃は魔法にとってかわられる運命だろうね。

 魔法なら私が使えるファイアボールでも二発でウルフを倒せるので、今後広まれば狩りの効率は一気に上がるはずだ。


「上田二佐重要なご報告があります」


 班長達が退出した後に私が挙げた報告で上田は驚愕した。

 鑑定能力は最も重要と思われていた能力だ。


「現状、斑鳩二尉しか使えないと言う事であれば、前線に立たせて貴重な鑑定能力を失うのを避けなければならない。他の鑑定が出来る能力者が現れるまで、危険を伴う任務から外れてもらう必要がある。当面ダンジョン内には通常任務での立ち入り禁止を命ずる」

「了解……しました」


 あーどうしよう。

 冷静に考えれば、この指示が出るのは当然だった。

 絶対に咲ちゃんが使える事を漏らさないようにしないと。


 ◇◆◇◆ 


「ラッキーだったねぇ」

「こんないい方したら悪いけど、代々木周辺はスタンピードのお陰で空き物件だらけで今までの半額以下の家賃で借りれたからね。敷金権利金も安いし、魔物による被害の場合は修繕も貸主負担って言う条件だから、めちゃいいよ」


 D.Aを出た後に早速不動産屋に行って事務所で使える住居を探すと、空き物件だらけですぐに見つかった。


 一戸建てで敷地も百坪を超える物件だった。

 建物は一階が事務所スペースとして使える作りで、二階が住居で2LDKが二軒あるような形だ。

 都内なのに庭も広く、理想的な物件だった。

 家賃は格安の月三十万円、先月までは百五十万円で出してたらしいけど、スタンピードで建物が結構損壊したりして、応急処置をしただけの状態と言う事でこの価格だ。


 恐らく前の住人はスタンピードでやられちゃったかな?

 塀などは補修が終わって無い。

 ここはダンジョンシティのすぐ外側になる為に、まだスライムが現れる可能性も高く大規模な補修は取り組めないと言う事だ。


 でもこの辺りでは、逆に高層建築物は危険なので一切の立ち入りが禁止されてる物件も多く新宿駅徒歩圏内とは思えない静かさがある。


 ここからだと家に帰るにしても車だと十分程度だし即決したよ。


 不動産屋の次は中古車屋さんに行って、RVの丈夫そうな車を購入して貰った。

麗奈が「私、軽しか運転した事が無いから怖いな」とか言ってたけど、咲が「運転は私がしてあげるから任せて」と言って、すぐに決まった。


 でも都内はまだまだダンジョンシティの外でも魔物の被害が定期的に報告されるからお袋たちが心配だよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る