第16話 新たな秩序
アクアラインを渡って川崎に到着したお袋の車が、食事休憩を兼ねてファミレスへと立ち寄った。
俺は、お袋の大きなバッグの中に入って一緒に入った。
事前にお袋へは伝えて置いたけど、ここで東京へと戻る事にする。
穂南がトイレに行った隙にスマホを使ってお袋にメッセージを送る。
『お袋、俺はこの国と世界を守らないといけないから
『進、絶対にもう死んだりしないでね』
『いや、死んでるし』
『そうじゃなくてTBの身体でって事』
『解ってるよ。穂南の嫁入りを見届けるまでは絶対生き残るから!』
『スマホで連絡は取れる様にして置いてよ?』
『うん。後さ……もう一回ギュッて抱っこして』
『二十五にもなって甘えんぼだね』
そう言いながら抱っこしてくれたお袋の目に少し涙が光ってた。
穂南もトイレから出てきて車へと向かう。
車に戻るまでの間は穂南が俺を抱っこしてくれてた。
このけしからん胸のクッションとも暫くお別れだな。
そう思うとちょっと悲しかったけど穂南に今、俺の正体を告げるのは、なんか駄目な気がしたから、俺は穂南の手からするりと抜け出て『ニャン』って鳴くと一目散に東京方面に走った。
「あ、母さん。TBが……逃げちゃった」
「穂南。TBは絶対また会えるから今は福岡へ急ぐよ」
「えっ? なんで? TBここで別れちゃうの?」
「大丈夫だから……」
◇◆◇◆
隊員の半数を失った『特殊構造体攻略班』の面々は悲しみに浸る時間も与えられない。
地上に溢れ出した魔物の撃退に隊員それぞれが日本中から集まって来た自衛隊のメンバーを指揮し、東京の魔物掃討作戦を実行しなければいけない情況に陥っているからだ。
上田と斑鳩の両名は代々木から程近い防衛省の本部に呼び出され、各国のスタンピードに対応する為のオブザーバーとしての任務に就かされていた。
実際には斑鳩のみしか、オークの撃破を体験した物は居ない。
「オークに対応するメンバーとして、女性隊員が混ざるとヘイトが集中しやすく対応はし易いはずですが屈強な精神力が必要です」
「それは? どう言う事だ?」
「オークは本能として女性に対しての欲情が激しく、銃弾による攻撃くらいだと女性に襲い掛かる事を優先する行動本能がありました」
「それは実体験としてか?」
「はい……」
その場では、まさか斑鳩二尉はオークによって凌辱を受けたのか? と言うような微妙な空気が流れた。
「それで、大丈夫だったのか?」
「それは? 本官の貞操ですか?」
「いや、まぁ、そうだ……」
「私のカーボンとダンジョン鋼を組み合わせた自慢の槍で、睾丸を潰しペニスを断ち切りましたわ」
にっこりと笑って答えた斑鳩二尉に、その場の全員とビデオ通話が行われている各国のスタンピード対策班が恐れおののいた……
『リアルアベサダ……』
「具体的なオークの対処法としては、皮膚は極めて頑丈で在り、通常攻撃はほぼ届きません。転倒させ体内で爆発物を爆発させる事で、爆散させ対処いたしました」
具体的には神殿までは物量作戦で戦力の損耗も覚悟の上圧倒的火力を展開させながら辿り着き、チェーンなどを使い拘束し、体内からの爆破を行うしか術は無い。
各国の軍部は決死隊を募り対応する事になったが、これにより世界を震撼させた第二次スタンピード問題は一応の決着を見せ始めた。
しかし、世界は魔物の溢れる世界へと変貌を遂げ、特にスライムによる被害が酷く、高層建築物が多い首都所在地では圧倒的な被害を受け、各国で遷都が行われる状況へとなる。
◇◆◇◆
「斑鳩二尉。そのスキルという物は、人類が新たな超能力を身に付けると言う認識で間違いないのか?」
防衛省本庁舎内で上田二佐による斑鳩二尉の獲得した能力の聞き取りが行われていた。
「はい。仮称としてスキルオーブと呼ばせて頂きます。その物体に触れると光へと変化し体内に吸い込まれました。その後に私がラノベみたいだな? と思い、ステータスオープンと呟いてみた所この金属プレートが手に現れたのです」
斑鳩二尉の手に、ステータスらしき数字と、スキルが記載されたクレジットカードのような物が握られていた。
「しかし、そのプレートは無くしたりとかそう言う事は無いのか?」
「ご覧ください」
プレートを上田二佐へと渡してある程度離れた場所で、斑鳩二尉が『ステータスオープン』と呟くと上田の手からそのプレートは掻き消え斑鳩二尉の手に現れた。
「この通りこのプレートは何処にあろうと、取得者が念じればその手元に現れると見て間違いありません」
「それはスキル取得者のみに現れる現象と言う事か……」
「おそらく……今後五層の中ボスを倒したダンジョンにおいては、このスキルオーブという物が登場するようになるのではないでしょうか?」
「上層階においても可能性はあると言う事か?」
「それは、実際に出現させてみないと解らないですね」
「もう一度見せて貰えるか?」
STR 15
VIT 12
AGⅠ 18
DEX 15
INT 15
LUK 10
スキル 火魔法Lv1
MP 15/15
Rank 2/2
「これはどういう内容なんだ? 斑鳩二尉」
「RPGのゲームなどと同じ要素だと予想できます。それぞれに攻撃、防御、敏捷、器用、知能、運の要素に該当する筈です」
「この数値は高いのか?」
「比較対象が無いので解りません」
「MPとRankはどう言う数字だろうか?」
「MPはそのまま魔法の使える回数に影響すると思います。ランキングは……ステータスカード取得者の数かと……」
「おい、それは斑鳩二尉の他にも居ると言う事か?」
「そうですね、そしてその人物は私よりは高い能力を有していると思われます」
そう発言した後でオークとの戦いを思い出し『人物じゃ無いかもね』と心の中で思った。
その後、代々木公園を中心とした半径三㎞圏内だけが危険地域とされ、国内のゼネコンなども総力を挙げて協力し、コンクリート製の壁で周囲を囲い込み隔離される事になる。
同じように大阪に現れた梅田ダンジョンにおいても被害が起きる前に隔離する事になりダンジョン入り口から、こちらは一㎞圏内を取り囲む事に決定された。
その後一年をかけ法整備も整えられ、ダンジョンを中心に囲まれたこの区域はダンジョンシティーと称され、ダンジョンで活動するものを中心とした、新たな秩序が生まれて行く。
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