第15話 一時帰宅

「斑鳩二尉、よくやった。しかし地上が心配だ。全部隊で大至急地上へ帰還し、スタンピードを収束に向かわせるぞ」


「「「了解ラジャー」」」


 私達『特殊構造体攻略班』は人数の半数を失いながらも、五層の突破には成功した。

 あの黒猫は一体なんだったんだろう。

 あの子がいなければ私は今頃……間違いなくクッコロさんだった。

 あの巨大な股間で、あんな事やらこんな事されて、はかなくも散らされた挙句に苗床とされてたはずだわ……


 ありがとう猫ちゃん。

 また……会えるよね?


 だが今はそんな暇はない。

 大急ぎで地上に戻り都民の安全の確保と各国が同じように撃破できたとは到底思えない状況だから各国の攻略部隊にオークの倒し方を伝えねば。


 股間攻撃? それはあまり必要ないかも……

 口の中に爆発物を放り込んでの内部からの爆破が正解だろう。

 その情報を伝えなければ。


 そして……私が身に付けた新しい能力。

 【火魔法】これは人類を新しい段階へ導く能力に間違いないと思う。


 公表するべきなんだろうか?

 解らない……

 上田二佐に相談するしか無いかな。


 ◇◆◇◆ 


 俺は、穂南の通う高校へ向けてひた走った。

 一層へと向かう間に確認したが、大氾濫スタンピード自体は既に止まっている。

 しかし、どれだけの魔物が溢れ出したんだろう。

 ダンジョン内部は常に魔物を生み出し続ける状態だったから恐らく……オークを倒すまでの時間、六時間ほどの間にあふれ出した魔物の数は十万を超える数だったのではないだろうか?


 それに、他の国が同じようにオークを撃破出来ているとは到底思えない。

 俺のような存在が居ないと内部に突入していく事も難しいだろうし、スタンピード発生時点で五層には各国の精鋭部隊は駐留していたと思うが、とても対応出来ると思えない。


 まぁ世界の事は偉い人達が考えればいいか……

 俺は、お袋と穂南の事で精一杯だ。


 代々木公園から新宿駅方面へ走る。

 想像はしていたが……酷い。

 人々はウルフに捕食され、新宿の立派なビル群はスライムにより倒壊させられたビルも出始めている。


 これは表面上まだ倒壊していないビルでも、しっかりと検査を行わないと、とても高層ビルなんて危険で立ち入りできないぞ。


 ゴブリンどもも平気で襲い掛かって来るし。

 アルミラージとポイズンラットもとてつもなく厄介だ。


 俺は穂南の高校へと向かう間、少しでも間引こうと、毒爪と溶解液それに四層で拾ったダンジョン鋼のダガーナイフを操り敵を倒しながら進む。


 一時間程をかけて漸く目的の高校へと到着する。

 スライムたちは進行速度が遅いのでこの辺りではまだ見かけない。

 この辺りで見かけるのはグレーウルフとポイズンラットが中心だ。


 さてどうする。

 とりあえず刃物持った猫とか怪しすぎるのでダガーを植え込みの根元に隠す。

 そして締め切られた校舎の内部への侵入方法を考える。

 うちのお袋と同じように車で学校へ来た人たちは結構多かったようで、学校の校庭には大量の車が駐車している。


 この状態では食べ物なんかもすぐに尽きちゃうだろうな。

 でも、とても今この段階で校舎の外に出るのは危険なはずだ。


 ウルフやゴブリンたちは見境なく捕食してくるからな。

 あー情報が確認したいな。


 お袋たちは何処にいるんだろ?

 そう思いながら校庭を探すと講堂の方が随分賑やかな感じがする。

 恐らく保護者の方達は纏めて講堂で待機させられてるのであろう。


 二階部分の窓が開いているのを見つけ、植え込みの樹を使って上り進入する事に成功した。


 この設備点検用の通路の事は、一般的にキャットウオークと呼ばれてるんだって。


 正に俺の為の設備だな!


 ちなみに、試合観戦などが出来る様に椅子が設置されたりしてる場合は、ギャラリーって呼ぶそうだよ。


 俺は黒猫だし十メートル以上はあるこの講堂のキャットウオークから三百人以上、集まっているように見える避難者の中から、お袋を探す。


 家族の方で自分の子供と連絡が取れた人は合流して一緒に居る様だ。

 穂南も一緒に居てくれるかな?


 俺は、この状況の中では都内が安全だとはとても思えないので、俺がガードを出来るうちに、お袋の実家がある福岡にでも行って貰おうと思う。

 穂南のこの学校だって、周りに魔物が居る状態でまさか授業しないよな?


 五分ほどかけて、キャットウオークの上からようやくお袋と穂南の姿を発見した。

 子猫の姿だから、行っても大丈夫だよね?


 そう思って、一階へと降りて出来るだけ目立たない様に、お袋の所へ行った。


「あら進。戻って来れたのね、良かったわ」


 ちょっお袋……いきなり何穂南の前でばらしてんだよ……


「エッ母さん。進ってどう言う事?」

「あら間違えちゃった、TBだったわね」とお袋はペロッと舌を出した。


 アラフィフのテヘペロに需要は無いからな! 

 げんこつで頭を叩くポーズまで入れやがって……


 だが片手で俺を抱えると、胸に抱きしめてくれた。

 やっぱり巨乳は正義だな。


 斑鳩二尉も頑張れよ!


 既に俺は、お袋にカミングアウトしてるわけだし、お袋の持ってるスマホをポンポンと肉球で叩くと察してくれたようで、俺を連れてトイレへと立った。

 トイレで俺は、代々木を食い止めるのに成功した事を伝え、当面福岡の実家へ避難するように頼んだ。


 お袋は少し考えててけど「そうね、穂南の安全を考えたらそれが一番いいかもね」と言ってくれた。


 俺が守るから一度家に帰ろうと伝え、車に穂南と共に乗り込んで自宅へと戻る。

 勿論、植え込みの根元に隠したダガーは回収して置いたよ。


「お母さん? 大丈夫なのここ?」 

「今からすぐに準備をして、車で福岡の爺ちゃんの所へ行くよ。木更津まで行って、東京湾アクアラインで行けば大丈夫だから」


「そうなんだ。TBも一緒に連れてくの?」


 そう言った穂南に俺は「ニャン」と返事をした。

 実際には俺は川崎まで送り届けたら、そこから一人で戻るつもりである。

 お袋には既にスマホを使って伝えてるけどね。


 家に戻り穂南が準備をしている間に俺はPCを使ってお袋に頼みごとをする。

 俺が使ってたスマホとダガーを入れる事が出来る程度のバッグを用意できないか頼んだ。

「進。丁度いいのが無いからちょっと作ってあげるね」

 

 お袋は裁縫が得意だったので黒いキルティングの生地を使って俺のボディに、幅広のゴムバンドで固定できるような感じでバッグを作ってくれた。

 三十分も掛からず作るとか、凄いな。

 

 スマホの充電器と本体、ダガーだけを入れて、装着してみると、若干動きは阻害されるけど、大きな問題は無さそうだ。


 その間今ではテレビのニュース番組をつけてあったけど、新宿辺りでは高層ビルの倒壊が相次ぎ、火災も発生して酷い状態の様だ。


 被害者も概算で既に十万人以上に及ぶと言われている。

 その中で唯一明るい話題として、代々木ダンジョンからのスタンピード自体は、自衛隊地下特殊構造体攻略班によって、世界で唯一阻止に成功したと言われていた。


 やはり…… 各国の攻略班も五層で待ち構えていたはずだが、初見殺しのオークにやられてしまったみたいだ。

 そうなると、世界中では魔物がまだ延々と吐き出し続けられ居るって事だな。

 俺以外でスタンピードの中を突撃して五層に辿り着く方法ってあるのか?


 装甲車に、ダンジョン鋼の装甲を施して、突っ込めばなんとか辿り着けるのか?

 階段の幅的に不可能か……


でも、いくら強くても現状スタンピードを起こしてる敵は、倒す事自体は不可能では無いし、世界中で百八十か所であれば、なんとか各国の連携で頑張ってもらうしかないな。

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