第14話 オーク戦決着

 超やばい状態なのにも関わらず、今一つ緊張感の無い一人漫才を繰り広げる彩ちゃんを尻目に俺は臨戦態勢を整える。


 今ならM4のフルオートの斉射と、女性に対しての異様な性欲に支配されたオークのヘイトは確実に彩ちゃんに向いてる。

 食べても腹の足しにもなりそうにない、俺の子猫の身体には全く興味もわかないだろう。


 彩ちゃんには悪いが『特殊構造体攻略班』の優れた体術で少々しのいでもらおう。

 まあ、グレーウルフに一撃で殺されたレンジャー出身の俺が言うのもあれだけどね。

 それでも彼女の場合はダンジョン発生から二百日目以降に結成された『特殊構造体攻略班』で三百日の実務経験を持ってるわけだから、ダンジョン内では常人の50%、ダンジョン外でも5%程度の身体能力のアップが身についてるはずだ。

 冷静に対処すれば、一撃で死ぬような事は無い筈だよね?


 先陣の十八人がやられてるから、絶対とは言えないけど……

 

 オークが彩ちゃんに突進して行った隙に、俺は後に回り込み首の後ろにしがみ付く。

 毒爪を首筋に突き刺すが、皮が厚くてとても効果があるとは思えない。

 オークにとっては蚊に刺された程度にも感じて無いだろう。


 彩ちゃんは最初の突進を、大きくサイドに跳んで避けていた。

 うん。

 その調子で頑張れ!


 何とか傷をつけないとな…… もう少し皮が薄そうな場所は何処だ?

 オークの身体を冷静に見まわす。


 うーん……

 やっぱ…… あそこかな? 血管浮き出してるし、皮は薄そうだし。

 俺は、次の攻撃を、股間に定め再び毒爪を突き刺した。

 あ…… なんか…… 更に膨張した…… 腫れあがっただけなのか?


 うーん、動きが鈍ってくれないかな? 

 でも全く効果が無い訳じゃ無いから、時間をかければ何とかなる筈だ。


 オークが彩ちゃんを壁際に追い詰める。

 彩ちゃんは、ダンジョン鋼で出来たダガーをカーボン製のポールにはめ込んだ槍を構えるが、追い詰められているから余裕はなさそうだ。


 オークが振り回すこん棒を、カーボンのポールでいなそうとしてるけど、それはちょっと無理じゃない?

 案の定、ポールに直撃したこん棒で、彩ちゃんは派手に吹き飛んだ。


 ヤバイ、今彩ちゃんに突っ込まれたら流石に無理だ。


 再度俺は、大きくジャンプして今度は後頭部から背中にかけて溶解液を思いっきりひっかけてやった。


 『ジュワー』と白い煙を上げながら、オークの皮が溶けるのが確認できたが、見る間に傷は塞がって行き、十秒ほどで元通りになってた。


 再生能力かよ……


 厄介だな。

 しかも今ので、ヘイトが俺に向いちゃったよ。

 もっと、性欲に突き進めよオークらしく。


 俺は必死に一度距離を取る事にした。

 オークが凄い勢いで追いかけてくる。


 そして、彩ちゃんの方を見ると、何とか立ち上がって体の調子を確かめてる。

 取り敢えずは大丈夫そうだな。


 俺は、壁伝いにオークよりも高い位置まで駆け上がり、一気に高く飛び上がり頭の上から溶解液を振りかける。


 今度は、髪の毛の様に生えてるたてがみのような部分が、白い煙を上げて消失する。

 ぉ、毛は再生しないみたいだ。

 ゲーハーオークになったな。


 だが、それで別に戦力が下がる訳では無いから、ただのネタでしかない。

 彩ちゃんが、槍を構えてオークに挑むが、背の高さ的に、いきり立ったオークの股間が丁度彩ちゃんの、目の前の高さだ。


 ちょっと頬をピンクに染めながら股間に向けて槍を突き出した。

「クシャッ」っという音と共に股間の袋の玉が一つ潰された様だ。


 うわぁあああ、痛そう。

 あれは敵ながら可哀そうだ……


 そのまま横に薙ぎ払う様に槍を振ると、腫れあがった股間の物が『ボトン』と落ちて来た。

 ちょっと彩ちゃん……何故その辺りに集中するんだ。

 だが、実際効果的なようで、その部分は何故か再生もしない。


 俺の与えていた毒のダメージの影響かも知れないな。

 流石にこれはオークも痛かった様で、こん棒を取り落として手で押さえた。

 何とも言えない生臭い匂いと共に、白濁したような体液と血が混ざった様な物がふりまかれている。


 あれは……俺でも触りたくない……


 だが、たたみかけるのは今だ。

 俺は再び大きくジャンプして頭の上に取り付き、思いっきり溶解液をかけて、その次の瞬間に目ん玉に向けて毒爪を突き刺した。


 これは流石に効果あるだろう。

 オークが倒れる。

 だが、まだ生きている。


 彩ちゃんが腰の手りゅう弾のピンを三個、次々に抜いて叫んでるオークの口に中に放り込んだ。


 エグイ……


 三秒後に手りゅう弾が大きく破裂しオークの頭部が吹き飛んだ。

 その時に恐らく脳みその辺りにあった、コアも飛び出して来た。


 俺はすかさずコアを丸飲みにする「ツルン」

 オークの姿が光に戻り消えていくのと共に、俺の頭の中にいつものメッセージが聞こえた。

『オークLV10の核と融合を果たしました、スキル【再生】を獲得しました』


 部屋の真ん中に階段が現れ、その横に宝箱が現れている。

 彩ちゃんがゆっくりと宝箱に近づき手を触れると、宝箱は勝手に開いた。

 中からは不思議な光を放つ水晶玉が現れる。


 それにゆっくりと手を触れる彩ちゃん。


「あ……私、魔法覚えちゃった」


 世界初の魔法使いが誕生した様だ。

 少女と言うには、二十五歳はちょっと行きすぎかな?

 面と向かって言う事は出来ないが……


 宝箱が消えていくのと、同じタイミングで入り口の扉が解放された様だ。


「斑鳩二尉ーー! と叫びながら他の隊員が走り寄って来た」

「ボスは? どうなった?」


「上田二佐、この部屋に存在したボスキャラクターは恐らくオークと呼ばれる存在でした。大変な強敵でしたが、そこに居る黒猫と共に撃破に成功しました」

「ん? 黒猫? どこだ?」


「あ、あれ? 猫ちゃん?」


 俺は面倒は嫌だと思って、さっさと開いた扉から外に逃げ出していた。

 どうやらスタンピードも収まってる様だ。


 穂南が心配だ。

 急いで向かわなきゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る