第13話 斑鳩二尉って……

 俺は五層へと降り立った。

 このフロアでも魔物達が今降り立った階段を目指して次々と走り寄って来ているので、取り敢えず階段から距離を取る。


 それから辺りを見回すと、このフロアの中央部分と思える場所に見覚えのない建造物が建っていた。

 俺は攻略班の隊員としてたった一日だけだが、このフロアには来たことがある。

 その時に、あんな建造物は無かったはずだ。


 ラノベなんかでよくある展開だと、あの建造物は恐らくボス部屋で間違いないと思う。

 それよりも、このフロアにいるはずの『地下特殊構造体攻略班』のメンバーが誰も見当たらない事が問題だ。

 まさか既に全滅して溶解されたのか?


 いや、それだと攻略班では流石にダンジョン鋼で作られたダガーナイフを支給されていたので、それが残っているはずだ。

 だとすれば、あのボス部屋らしき中へ突入して行ったとみて間違いないだろう。


 俺は五層に湧き出ている敵を倒しながら、神殿の様に見える建造物へと向かって行った。

 フロアの中央部分に近づくにつれて敵の数は減少して行く。

 

 神殿に辿り着く。

 居た。


 攻略班のメンバーが、恐らく総勢三十六名のメンバーは全員来ていたはずだがここに残っているのは二十名弱、半数ほどが残っていた。


 神殿の中をさらに見渡すと大きな扉が見える。

 その前に二十名弱の隊員が扉を見つめる様に立っている。


 メンバーを見ると、斑鳩二尉や上田二佐の姿も見える。

 恐らく、ここに残っているメンバー以外の半数が、扉の内部に侵入して戦闘中なのであろう。


 この神殿の内部は、他の敵は湧いていない。

 安全地帯の様になっているのかな?


 どうしようか考えながら眺めていると扉が開いた様だ。

 お、これは敵の撃破に成功したのかな?


 残った部隊が、内部に侵入しない様に扉の外から内部を覗き込んでいる。

 何か会話してるな、身体強化で強化された聴力で集中して聞き取る。


「上田二佐、内部の状況はどうなって居るのでしょうか?」

「ここからでははっきり解らないが……もし撃破に成功したのであれば隊員達がいないのはおかしい……残念ながら先陣で挑んだ四班、五班、六班が生存している可能性は極めて低いと考えるしかない」


「そんな……」

「斑鳩二尉。落ち込む暇などない。現在地上では、恐らく大量の魔物により民間人が被害にあってる可能性が極めて高い状況だ。そしてこの状況から東京を、わが国を守れる立場にあるのは我々だけしかいないのだ。早急にこの階層を突破しスタンピード状態を止めるしか、わが国が生き残る術はないんだ」


「はい、解りました」

「考えられるパターンとして、装備的にはランチャーもM4もこの中で現れる敵に対して有効な手段になり得なかったという事だ。それを踏まえた上で先陣以上の火力を持って対応しなければ同じ事にしかならない。作戦を考えるぞ。意見を出してくれ」


 これは……この状況で他の班長達も同等の能力は有してい居たはずだし、考えたくらいでどうにかなるのなら、きっと既に突破できてたはずだ。

 俺が行くしか道は無いだろ?


 穂南。お袋。咲ちゃん。応援してくれよな……

 きっと俺が何とかする!


 円陣を組むようにその場に座り作戦会議を始めた攻略班を尻目に俺は一気に扉の中に走り飛び込んだ「あ、猫?」その声と共に俺の動きに気付いた斑鳩二尉が、あろうことか俺を追いかける様に扉の中に入って来てしまった。


 無情にも扉がゆっくりと閉まり始める。

「斑鳩二尉ーー、他の隊員たちの声がして追いかけようとするが、上田二佐が一喝してそれを止める。無策で突入するなど自殺するのと同じだ。許可は出来ん!」


 扉は完全に締まり、ボス部屋の中には俺と彩ちゃんだけになってしまった。

「何で来るんだよ」

 と俺は叫んだけど、その場に響く音は「ニャンニャニャンニャン」だった……


 しょうが無いから、俺は斑鳩二尉の足元に行った。


「あなた、なんで子猫がこんなとこに……」そう言いながら、俺を片手でひょいと抱え上げた。

 

 胸の辺りに抱っこするが……何故だ……クッションが無いだと……


 そう、斑鳩彩二尉は少々残念なバストサイズだった……

 アラミド繊維のゴツゴツとした感じの制服は、男性隊員に抱かれた場合とほぼ同じだろう。

 とても残念だ。

 悲しい……


 だが、汗の臭いはとても女性らしい、胸がキュンとするような匂いだった。

 まぁこれで我慢するか……


 そんな事を考えていると、光の粒子が部屋の真ん中に集中してくるような感じで集まる。


 体長三メートル程の二足歩行の豚の様な魔物へと変化して行った。

「あれは……オーク?」

 鑑定がある訳では無いので、はっきりと名前は解らないが、それこそラノベなどでよく登場するオークと呼ばれるような魔物が現れた。


 オークは斑鳩二尉を視認すると女性である事に興奮したのか、股間の物を膨らませていた。

「きたねぇ」と思わずつぶやいたが「ニャニャニャン」としか聞こえねぇ。


 斑鳩二尉……彩ちゃんは、そんなオークの股間を見て、頬を赤く染めながら「え? 私、この化け物に散らされちゃうの? クッコロ展開なの?」とアワアワし始めた。


 緊張感ねぇな!

 むしろ喜んでないか?

 だが、俺は確かに聞いた。

 彩ちゃん散らされるって事は二十五歳の今まで大事に守ってたんだね!


 だが、相手は十八人の隊員を撃退してしまったほどの魔物だ。

 強さは推して知るべきだろう。


 ちょっとアワワ状態から立ち直った彩ちゃんが、M4を構えフルオートで弾幕を張ったが、まるでその皮膚を突き破る事は出来なかった。


 十五秒ほどで薬莢の銃弾を全て撃ち込んでしまった彩ちゃんが、M4を放り投げる。

「駄目……まるで歯が立たない……やはり……クッコロ?」


 彩! 余裕あるな。

 これで後の武器は恐らくカーボン製に見える槍と、腰にぶら下げている手りゅう弾くらいしかない。


 対するオークは、弾丸を全てその皮膚で食い止め、右手に持った巨大なこん棒を振り回しながら近づいて来る。


 こんなもん、直撃したら一撃で壁のシミになるな……

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