第10話 絶望的

『特殊構造体攻略班』が去った後、予定通りに少し見通しの良い場所で、俺が魔物を釣って来て、咲ちゃんが倒すパターンでの狩りを始めた。


 パーティ機能やテイムなんて存在は聞かないから、このパターンだと恐らく俺のステータス上昇効果は無いとは思うけど、一日やそこらで魔物を狩った事によるステータス上昇効果なんて微々たる物だと思うしそこは問題では無い。

 俺が今日望むのは、アルミラージのコアを飲み込む事だ。


 俺は気配探知を操り、確実に魔物を見つけ出し咲ちゃんの元に連れ出せばよい。

 そして何匹目かのアルミラージを倒した時に、咲ちゃんが斬り倒したアルミラージの心臓部分が露出していて、コアが視認できた。


 倒してから十秒ほどで死体が光の粒子に変わってしまうので、倒した後に解体しようとしてたんじゃ消えるまでに間に合わないんだよね。


 俺は露出したコアを素早く爪で取り出して丸飲みにした。


『ツルン』


 四度目の声が聞こえる。

『アルミラージレベル4の核と融合を果たしました、スキル【突進】を獲得しました』


 お、攻撃スキルっぽいけど、武器が無いとイマイチ有効そうでは無いな……

 でも目的は達成したからいいや。


「TB? あなたまさかコア飲み込んだの?」


 咲ちゃんに聞かれたけど、斜め後ろに顔をそらして誤魔化した。


「なんか怪しいなぁ。だからって真似しようとは思わないけどね。でもやっぱりこの階層の敵だと、ちょっと荷が重い見たいだよ、見てよ刀が刃こぼれしちゃってるよ」


 刃こぼれした刀で狩を継続するのは危険だと言う事で、この日はまだちょっと早いけど狩りを終える事になった。

 上の階層に戻る途中で咲ちゃんが話し掛けて来た。


「刀を研ぎに出さないといけないし来週は剣道のインカレに向けた合宿があるから一週間ほど狩りはお休みだね」

 って言われた。

 俺は「ニャン」と返事をした。


 咲ちゃんの家に戻ると、またパソコンを開いて貰って、咲ちゃんがシャワーを浴びてる間にネットサーフィンをしていた。

 ごめんなさい……咲ちゃんの下着で遊んだ後でです……


 でも六層の出現って結構分岐点になりそうな気配は在るんだよね。

 スレッドでも騒がれてたけど、中ボスとか出たら現行の武器とかで対応できそうな気がしないし、そうなると今の時点では俺だけしか身に付けて無いであろうスキルって言う存在が絶対必要になると思う。


 でもこれを活かすには俺が使う武器か攻撃手段が必須だよね。

 せめて溶解液を射出する武器でも作れれば違うけど、何でも溶かしちゃうから保存できないし……

 俺の身体の中にある間は大丈夫なのは何でなのかな? 不思議だ。


 咲ちゃんがお風呂から出て来たので、また少しテキストエディタを使って会話をする。


「君はさ、何で言葉が解ったりするの?」

『それは、まだ内緒』


「なんで?」

『んーなんか言いにくいから』


「そっか、いつか教えてくれるのかな?」

『いつかね……』


「ダンジョン鋼で作った武器じゃ無いとこの先は無理かもしれないね……」

『うん。今の五層で狩りしてる人たちはどうやって倒してるの?』


「銃弾以外だと、刃物よりは打撃武器の方が有効だそうだよ」

『そうなんだ』


「うん。皮を切り裂けなくても、骨は砕けるみたいだからね」

『この先を考えると素材が大事になりそうだね』


「死体がすぐ消えちゃうから素材が取れないのは痛いよね」

『六層以降が現れたら、ドロップとかしそうだけどね』


「そうだね。って言うかドロップしてくれないと倒せないよね」

『うん』


「さっきも言ったけど私はダンジョン一週間ほどお休みするからTBも無理しちゃだめだよ?」

『解った。今日はもう帰るね合宿頑張って!』


「うん。頑張るね」


 そうして俺は家に帰った。

 この時はまさか、このまま長い期間を咲ちゃんと会えなくなるなんて思いもしなかったけどね……


 ◇◆◇◆ 


 ダンジョン発生から五百日目を迎えた時に事件は起こった。

 その日のロンドン標準時の深夜0時に世界中に残ったダンジョンで、討伐数の条件を満たした所では六層目へ向かう通路と思われる神殿のような物が登場した。


 代々木ダンジョンにおいてもそれは現れ、その日は新たな通路が現れる事は予見されていたので六班三十六名の攻略班と指令である上田二佐も現場で待ち構えていた。


「上田二佐、これは……明らかにボス、もしくは中ボスと呼ばれる存在が中で待ち構えていると思いますが、どう対処するのですか?」

「うむ……斑鳩二尉、非常に強力な敵、もしくは罠があると思って間違いなさそうだ。状況が解らないままに侵入する事は出来ない。各国とも連絡を取りある程度の情報を入手するまでは侵入は許可できない。第一及び第六班のみ歩哨警戒に当たり、その他の班は一度地上へと戻り対応を協議する。歩哨の交代は四時間おきに六交代で継続する。第六班のみは最初だけ八時間となるが了承されたし」


「「「了解しました」」」


 現地においてその指示が出たのと同時刻に、五層までの敵が一斉に地上に向けて移動を始めた事を、この時点で確認できていなかった。


 ◇◆◇◆ 


「大変です、ダンジョン内の魔物が一斉に出口を目指し移動を始めています」

 ダンジョンゲートに二十四時間体制で常駐し、入ダン及び退ダンのチェックをするD.A職員から110番通報があったが、あっという間に入り口辺りは魔物に飲み込まれてしまい、東京は瞬く間に魔物があふれる状況へとなってしまった。


 それと同時刻に第六層へと向かう神殿が現れた国家では、国内に二番目のダンジョンの発生が確認される事となった。


 一気に地上に向けて移動を始めた魔物の群れに、その時点でダンジョン内で狩をしていた一般探索者は誰一人外に退出する事は叶わなかった……

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