第11話 俺がやらなきゃ誰がやる
「咲。ニュース見て!」
「え? どうしたの?」
剣道部のインカレに向けた合宿で山梨県に訪れていた麻宮咲のもとに、親友である剣道女子の田中麗奈が大きな声で叫んだ。
現在時刻は午前九時を少し過ぎた所だ。
早朝の練習を終えて、全員で朝食を取った後であった。
テレビに映し出される光景は、代々木ダンジョンから大量の魔物が吐き出される様子で既に広範囲にわたり魔物が広がっており、一般市民ではどうしようもない状況になっていた。
テレビでは鉄筋コンクリートの頑丈な建物の上層階に避難をする様に呼び掛けているが、避難したとしてそこから脱出する手段はあるのか解らない。
既に日本中の警察組織と自衛隊組織に動員の指令が出され、魔物達が拡散する事が無い様に東京全域を包囲し、徐々に輪を狭めながら解放を行う様に指示が出されていると言う事だが、実際に国内から部隊が集まるのにはまだ時間がかかるだろう。
県外から都内に向かう道路及び交通機関は全て封鎖される事が決まり、都内から逃げ出す場合のみの通行が許可されると伝えている。
「私達……家に戻れないね……」
実家から通っている麗奈は、家族に連絡を取ろうとスマホを操作しているが、一斉に東京中の人間が使っているのか全く繋がらない状況だ。
実家が四国である咲のスマホには実家からの着信があり、安否を確認して貰う事も出来た。
偶然合宿中で都内に居なかったことから、東京の封鎖に巻き込まれなかったが魔物と戦う術を持つ彼女としては逆にそれが悔やまれた。
「大阪にも新しいダンジョンが現れたらしいよ」
「マジで? そっちは魔物は出て来てないの?」
「まだテレビでは言って無いから大丈夫なんだと思う」
「どうしよう……取り敢えず合宿してる場合じゃ無いよね」
その後すぐに、この合宿の責任者である剣道部のキャプテンと師範が協議し、東京都以外に実家がある者はそちらに帰宅、東京が自宅の者は状況が確定するまでこの場所で待機との指示が出た。
麗奈は家族とラインで連絡を取る事に成功し「『落ち着くまで東京に帰って来るな』って言われちゃったよ」と言って来た。
「じゃぁ私の実家の高知に一緒に来る?」と誘ってみた。
「行きたいかも」咲はその返事を聞き麗奈と一緒に高知に戻る事にした。
「TB……大丈夫かな……」
◇◆◇◆
「上田二佐。この状況は一体どういう事でしょう?」
六層へ向かう階段が現れるべき場所へは、ほぼボス又は中ボスとの戦闘になると思われる神殿が現れている。
それを受け、一度は撤収してから協議を重ねる為の指示を出した『特殊構造体攻略班』の指令上田であったが、いざ撤収を始めようとすると上層へ向かう為の階段に大量の魔物が殺到しており、とても階段付近に近寄る事が出来る状況ではなくなっていた。
「
「そんな……攻略班が全部隊ここに集まっている現状では、地上部隊に食い止める術があるとは思いません。どうすれば……」
「現状考えられる手段として、恐らくこの六層へ続く神殿の突破しか、喰い止める方法は無いと思う。全部隊で協力して六層への道を切り開く」
「「「「
◇◆◇◆
『代々木のダンジョンから魔物があふれ出す状況が確認されました。全校生徒は速やかに校舎三階部分以上に上り各クラスごとに集合し、次の指示を待つ様にして下さい』
穂南の通う高校において、冬休みを直前に控えたこの時期にいきなり伝えられた校内放送により学校内は騒然とした。
「そ、そんなうちはお母さん一人だけなのに、家に帰らせて下さい」
「現状では、家族が迎えに来る以外の帰宅を許可する訳には行きません」
当然の様に、みんなが一斉にスマホを取り出して、家族に連絡しているが殆ど繋がらない。
チャットツールなども反応が遅延している状況だが、何とか少しずつは連絡がついている様だ。
しかし、インターネットやテレビを通じて入って来る情報では、ものすごい数の魔物がどんどん湧き出してきており、三層のゴブリンやグレーウルフに出会えば、ほぼ被害なく逃げ切る事は難しいので、とにかく頑丈な建物から移動するな、との指示が流れている。
家族が学校まで迎えに来たとしても、現状ではそのまま家族も学校に一緒に居る方が安全だと言う事だ。
「この世界……どうなっちゃうんだろう」
◇◆◇◆
「あら、何だか大変な事になっちゃったみたいね」
俺がキャットハウスの中で丸まっていると、お袋のそんな声が聞こえた。
居間のテレビが代々木ダンジョンを始めとした、世界中のダンジョンのスタンピードの事を放送していた。
ヤバい……穂南は学校か。
あー……でもどうだろう? 守ると言う観点ではこの古家よりも学校の方が安全かも知れないな。
お袋はテレビを見ながらスマホを操作して穂南との連絡を取ろうとしていた。
代々木から溢れ出したモンスターがこの辺りに到達するのは、そんなに時間は掛からないだろう。
ウルフなんかだと一時間もあれば辿り着けてしまう。
でも……原因はなんだ。
どうすれば、このスタンピードを抑える事が出来る。
以前の一層からスライムがあふれた事件は、二層へと通ずる階段を出した事で終息した。
だとすれば、今回のスタンピードは六層へ辿り着けば抑える事が出来るのか?
俺に出来る事はなんだ。
誰にも知られていない能力『スキル』を使って五層に辿り着く事か?
だが……自衛隊の攻略班が五層の中央部分に駐屯して居た筈だが、まさかやられちゃったのか?
考えていてもしょうがない。
今は代々木に向かう事が最優先だ。
俺がやらなきゃ誰がやる!
俺はお袋にパソコンを指さして起動して貰うと、テキストエディタを起動して書き込んだ。
『ゴメンお袋、今は急ぐから理由は端折るけど俺『進』なんだ。すぐ穂南の学校へ行って穂南と一緒に居てくれ。今ならまだ車で向かえば大丈夫なはずだ』
「えっ? おかしいと思ってたけど、あんた……本当に進なのかい?」
『ああ、そうだ。時間が無い。急いで。後、俺の事は他の人には秘密な。俺はちょっとこの事態を解決する方法を探す』
「解ったけど進……無理しちゃいやだよ」
「大丈夫だ。帰って来たらまた抱っこしてくれよ!」
俺は勢いよく家を飛び出した。
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