第5話 チームプレー?
麻宮さんは俺の隠れている所まで来ると刀を抜いた。
ヤバい……絶体絶命のピンチだよな……
俺の子猫の身体じゃ少々すばしっこいって言っても達人レベルの麻宮さんの攻撃を躱す事なんかほぼ不可能だろう。
どうする俺……
俺は生き残る術はこれしかない! と思って出来る限り可愛く泣いて見た。
「ミャ、ミャァ」
でも、魔物だらけのダンジョンの二層に居る黒猫。
俺でもわかる。
十分すぎる程怪しい。
そのまま刀を構えて近寄って来る。
駄目か……
俺は諦めて姿を現した。
思いっきりそこに寝転がり、敵意の無い事を表現しようかと思って腹を上にして手を縮め「ミャァ」と泣いてみる。
これって犬だけかな? 猫も有効だっけ? そう考えながらも必死で可愛く見える様に努力した。
そして、麻宮さんは意外に……チョロかった!
「可愛いぃぃいい。あなたなんでこんな所に居るの? ここはゴブリンとスライムしかいないはずだから魔物じゃ無いよね?」
そう言いながら、俺を片手で掴んで胸に抱きかかえた。
お、麻宮さんも穂南ほどじゃないが結構な物をお持ちの様で、これは極楽だ。
だが麻宮さんが俺を抱きかかえながら呟いた。
「なんだか邪な気配を感じるわ。やっぱりユニークモンスターとかなのかな? 殺したらこの階層では本来出ないドロップとか手に入ったりするかも?」
俺は思わず「そんな事無いですから!」と叫んだ。
当然「ニャニャニャニャアアアア」としか聞こえないが……
そして必死で麻宮さんのほっぺたとかを舐めてみた。
「キャッくすぐったい。ちょっとざらっとするんですけどぉ?」
と、俺の目を見つめて来る。
まだ半信半疑の様な感じだ。
その時ゴブリンとスライムが同時に沸いた。
麻宮さんがゴブリンの首を一刀で跳ね飛ばすが、そのすきにスライムが溶解液を飛ばしてくる。
俺は麻宮さんの胸を力強く押し……クッション気持ちいいぜ……
「ヒャン」といいながらしゃがんだ麻宮さんの上を溶解液が通り過ぎた。
そして麻宮さんの胸をクッションにして飛び上がった俺がスライムに溶解液を掛けるとスライムのコアまで溶けて無事に倒す事に成功した。
振り返るとゴブリンの首なし死体の喉ぼとけの辺りにコアを発見した。
消えるまでは十秒程度だろう。
俺はゴブリンコアを爪で転がして『ツルン』と飲み込んだ。
スライムの時と同じような声が聞こえた。
『ゴブリンレベル2の核と融合を果たしました。スキル【身体強化レベル1】を獲得しました』
「ねぇ? あなた今私の事助けてくれたの? それに今の攻撃って? おしっこかけた?」
その質問に対して俺は、首を斜め上に向けて「えっ? 何の事?」って言う感じで誤魔化した。
「まぁいっか。ありがとう猫ちゃん」
俺は、これは麻宮さんの側に居るのが安全かも? と思い前足を麻宮さんのジーンズの裾にかけて「みゃぁ」と鳴いた。
「ん? どうしたの? 私もっと下に行くんだけど、ついて来るの?」
と、聞いて来た。
俺は、コクンと頷いた。
「んー……怪しいなぁ。君さぁ……私の言葉理解出来ちゃったりしてるよね?」
再び斜め上を向いて視線をそらした。
「ついて来るなら勝手においで。抱っことかは出来ないよ? 刀振れなくなるから」
そう言って三層への階段に向かって歩き出した。
現時点では、最深階層は自衛隊の攻略部隊が優先で一般探索者は自衛隊の探索する九時から十七時までの間は一つ下の階層までと日本ではルールづけられている。
自衛隊は税金垂れ流しで銃弾を使って狩りをするので、流れ弾とかの事故を防ぐ目的でそう決められていた。
だから麻宮さん達の場合四層までしか今の時間では潜れない。
もっとも麻宮さんは鍛錬の為にダンジョンに来てる感じなので、余裕を持って狩れる三層までしか現時点では降りないみたいだけどね。
俺は麻宮さんの後ろを歩いて付いて行くけど、なんだかさっきまでより明らかに体が軽く感じるし地面を蹴る感じも力強い。
これが身体強化レベル1の効果なのかな? そう思いながら麻宮さんの後ろを付いて行った。
そして訪れた三層。
ここは俺が死んだ階層だ。
グレーウルフ、スライム、ゴブリンの三種類が現れる。
見通し良くひらけた場所で、麻宮さんは立ち止まる。
「私は、ここで敵が湧くのを待って狩るから君は危なく無い様にこの辺で遊んでいなさい」
そう声を掛けてくれた。
「みゃ」と返事をすると、俺は辺りをウロウロする事にする。
このサイズの俺がいきなり大きさ百五十㎝くらいのグレーウルフを相手にするのは無理があるかな? ゴブリンとスライムは恐らくレベル3なんだろうけど、どの程度強さが違うのかな?
最初にゴブリンを見つけた。
俺は静かに走りながら跳躍をする。
「あっ」思ったより全然高く飛んで少し焦った。
ゴブリンの頭上を飛び越えながら溶解液を掛ける。
だがゴブリンを倒すにはいたらずに手に持ったこん棒を振り回してあばれた。
うーん。
これだけだと決め手に欠けるな。
でも視界が定まって無い様だし、もう一回だな。
今度はジャンプの具合も調整でき、ゴブリンの後頭部にしがみつくと密着状態から溶解液をゴブリンの後頭部にかけて無事に倒せた。
次はウルフを見つけた。
ウルフは鼻が良いのか気配察知系のスキルでも持っているのか俺の方に向かって、まっすぐ走り寄って来た。
こんなの一口で食い千切られちまうぞ。
めっちゃこえぇえよ。
俺は視界の端に麻宮さんを見つけると、そっち方面にダッシュで走り出した。
力いっぱい叫ぶ。
「ニャニャニャアアアア」
俺と追いかけるウルフに気付いてくれた麻宮さんが刀を構える。
俺がジャンプして麻宮さんの頭上を越すと、その直後にウルフが麻宮さんによって真っ二つに斬り倒された。
俺はウルフの死体に近寄ると尻尾の付け根の辺りにコアを見つけた。
消える前に素早く飲み込む『ツルン』
三度目の声を聞いた。
『グレーウルフレベル3の核と融合を果たしました。スキル【気配探知レベル1】を獲得しました』
よし! でも爪で攻撃が出来るとかのスキルが良かったな。
贅沢か……
でもさ……魔物にはレベルが存在するようだけど俺や人はレベルって無いのかな?
ステータス? 的な物は明らかにあるみたいだし、その辺りが魔物とそれ以外の生物で違いがあるんだろうね。
気配探知を習得すると、このフロアの生命反応みたいなものを気配の濃さみたいな感じで知覚できるようになった。
ただし気配のある方に行って見たら他の探索者だったりするけどね。
「ねぇ猫ちゃん。さっきみたいにあなたが走り回って、魔物をこっちに連れて来てくれたりしたら効率が良さそうなんだけど?」
そう麻宮さんに言われた。
俺は「ミャ!」と胸を張って答えて辺りからウルフやゴブリンを釣って来ては、麻宮さんの元に導いた。
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