第6話 帰宅

 麻宮さんと一緒に二時間程ダンジョン内部で行動した俺は明らかに自分自身が素早く力強く行動できるようになった事を感じ取っていた。


 三層のゴブリンやスライムを倒してコアを飲み込んでみたが、レベルが上がっても同一種のコアから得る事の出来るスキルは無い様だ。


 でもこの効果は人間にもあるのかな?

 コアを丸飲みしようと考える人間は普通現れないだろうし、気付かれる事も無いと思う。

 だって倒して十秒もすれば消えちゃうし、死体から取り出したコアを十秒以内に口にしようとする人間はほぼ居ないだろう。


 もしスライムコアでも飲み込んで溶解液を出せる女の子とか現れるなら……それはそれで戦う姿を見たい気もするけど……


 麻宮さんが俺に声を掛けて来た。


「私は今日はもう帰っちゃうけど君はどうするのかな?」

「連れてって」と答えたけど当然聞こえる音は「ニャアアン」だった。


 でも何となくわかってくれた麻宮さんは「ダンジョンから黒猫と一緒に出てきたら怪しまれると思うから、この中に入って」と言って背中のリュックを広げた。


 生後一か月サイズの俺は十分にリュックの中に入れるサイズなので、リュックの中で大人しくしていた。


 無事にダンジョンから外に出ると麻宮さんの家に連れて帰って貰えた。

 麻宮さんは独り暮らしでワンルームのマンションに住んでいた。

 意外に、部屋の中は……散らかって居た……


 脱いだ下着とか風呂の前にそのままだし……

 まぁ彼氏さんとか居たりする事はまず無いだろうな。

 嬉しい様な悲しい様な微妙な気分だ。


 だが俺は子猫だ!

 麻宮さんの脱ぎ散らかした下着の、ちょっと甘酸っぱい様な匂いを楽しみながら下着で遊んでも「HENTAI」と言われる事も無い。

 少し得した気分だぜ!


 俺が夢中で下着と戯れていると、麻宮さんは少し引いたような感じで「ちょっと、なんだか私の下着に執着されると凄い嫌な感じがするんだけど?」と言って俺から下着を取り上げ洗濯機に放り込むとすぐにスイッチを入れて廻し始めた。


 残念……


「ねぇ? 君はこのまま一緒に住むのかな?」


 そう聞かれた。

 俺は帰らないときっと穂南とお袋が心配すると思って、首をちょっと横に振って「ニャアン」と言って、ベランダから外に出たいって言う素振りを見せた。


 麻宮さんはそれで察してくれたようで「そっか」と言って、ベランダのサッシを開けてくれたので俺はそこから外に出た。

 ベランダの普通の人だと胸の辺りの高さまでのコンクリーの壁の上をトコトコトコと走ると非常階段に飛び移り一階まで降りる事が出来た。


 ここから俺の家までは意外に近い。

 三十分も掛からないだろう。

 そうして俺は家に帰り付く事が出来た。


「TB何処行ってたの?」


 家に帰ると穂南が声を掛けてきて抱っこしてくれた。

 やっぱり麻宮さんよりワンランク上の快適性能だぜ。


 うちの和室の仏壇に親父の写真と並んで俺の写真がたてかけられていた。

 お袋は仏壇を見つめながら、じっと押し黙っていた。


「お袋ゴメンな」


 思わずそう言ってみたが当然「ニャアニャア」としか聞こえない。


 俺の家は都内だけど爺ちゃんの若い頃、昭和三十年代に建てられた今となっては古家だ。

 和室ばっかりだが小さな庭もあり今売れば結構いい値段で売れるだろうとは思える。

 でもお袋は「お父さんの思い出の詰まった家だから、私が死ぬまでは手放さない」と言ってた。


 きっと地価から考えると相続税が結構高額になりそうだから「私が死んだら売ってお金に換えないと税金払えないかもね?」と言ってた。


 穂南が猫用ミルクとカリカリの餌を用意してくれた。

 俺はエサ皿に顔を突っ込んで食べてみたが意外にうまかった……


 これは猫だからそう感じるのか人間が食べても旨いと感じるのか気になるぜ!


 自衛隊の中で寮住まいだった俺の荷物は元々俺が家に住んでいた時の俺の部屋へ運び込まれていたが、穂南が俺がここで過していた時と同じように荷解きをして、漫画本やノートパソコンを並べてくれていた。


 古い家なので基本引き戸ばかりだから俺でも開け閉め出来る。


 そう言えば俺って意識はっきりしてるし、PCとかスマホとか使えば穂南たちと十分に意思の疎通も出来るよな……そう思ったけど今はまだしない方がいいかな?

 そんな事を考えながら居間に置いて有る俺のキャットハウスに入って丸くなった。


 ウトウトしてると、お風呂上がりの穂南が下着姿で居間に入って来てお茶を飲んでたが、お袋に「ちゃんと服着なさい!」って怒られてたけど「男居ないんだから、いいじゃん」って言ってた。


 うん、その意見に賛成! と眼福タイムを楽しんだ。


 これから先ダンジョンのある世界でどうなっていくんだろう……

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