第4話 咲と彩
(
私は今日ある人のお葬式に参列した。
二十一歳で大学三年生の私は、一度だけしか会った事の無い人だ。
話した事なんか勿論ない。
その人は最近の私の日課になっている、ダンジョンでのステータス上昇の為の狩りをしている時に突然現れた。
私の実力からすれば、この三層に現れる敵は、はっきり言って雑魚だけど、魔物と言えども命ある者の生を奪う行為だから、一匹ずつ丁寧に全力で立ち向かう様にしている。
私の目の前に居るグレーウルフに集中して飛び掛かって来たところを居合で斬り伏せる。
一番確実に止めをさせる私の形だ。
グレーウルフが飛び掛かって来た瞬間に銃声が響く。
このダンジョン内で銃を使うのは、自衛隊か警察組織だ。
日本では一般人の銃火器の所持は基本認められて無いからね。
それに弾丸の価格が高くて、例え使えたとしても凄い赤字を覚悟しなければならないだろう。
銃弾は急所でも無いボディ部分に直撃し、私に向いていたヘイトは狙撃者に向かった。
自衛隊か。
それなら大丈夫だろう。
私はそう思って別に人が魔物を殺す瞬間を見る必要も無いと思い、次の獲物を探すために後を向いた。
あの人も別に横取りをしようと言う意地悪な気持ちでは無く、単純に私が襲われていると思ったのかもしれないしね?
後ろ向きに離れようとした瞬間に『サクッ』と言う小気味いい音がした。
止めはナイフで刺したのかな? と思ったよ……
その直後、自衛隊の隊員さん達の叫び声と、激しいフルオートの銃撃音がした。
「えっ……」
思わず声が出た。
私の獲物を奪った隊員さんは血まみれで倒れていた。
グレーウルフの攻撃を心臓に受け更に片腕を食いちぎられるという、あり得ないようなやられ方だった。
「……」
起こった惨劇に対して何と声を掛ければいいんだろう。
「すいません。私がこんなとこで狩りしてた為に勘違いさせてしまったみたいで」
「あ、あなたは……麻宮さんね。ごめんなさい少し面倒に巻き込んでしまったようね」
「い、いえ、面倒だなんて。私を助けようとしてくれたんだと解ってますから」
そう言いながらも、心のどこかでは釈然としない私が居た……
◇◆◇◆
(
「進、あんた馬鹿だけど、嫌いじゃなかったよ。その不器用な正義感こそ、今のこの国に必要だったはずだよ。私が貴方の思いも背負うから……必ず弱い人を助けて上げれる人間になるから……ゆっくり眠りなさい。おやすみ……」
そうは言ったものの班長として班員を殉職させてしまうような失態を犯せば、連帯責任として私と私の上官くらいまでは簡単に配置換えにさせられるだろう。それが親方日の丸な組織の在り方だから。
どうしよう……
今更ダンジョン攻略班以外への転属であれば、一身上の都合による退官もしょうが無いかな?
葬儀の翌日、私は上官と共に呼び出しを受けた。
「今回の件、本来なら斑鳩二尉、並びに上田二佐の管理責任は免れない事案ではあるが状況的に防ぎようが無かった事実も理解している。よって三か月間
「了解しました」
どうやらまだ自衛官で居られる様だ。
だけど自分ではどうしようもない部分で責任を取らされる事態を想定して置かなきゃね。
もし自衛隊組織から外れるとなれば武器の問題がある。
M4カービンが使えない情況でダンジョンで戦って行く手段を磨いて置かなきゃ。
銃剣術は得意だから槍が良いかな?
重さと強度のバランスを考えるとカーボン製のポールに着脱式の銃剣を取り付けて使うタイプの物を頼んでおこう。
◇◆◇◆
俺は、早速獲得したばかりのスキル『溶解』を使おうと思い、スライムの側に行く。
あれ? どうやって使えばいいんだろ……
まぁ適当にやって見るか、口からビームみたいに吐き出すのかな?
そう思って『溶解液!』 と念じてみたが、どうやら口からではないみたいだ。
目からも違うよな?
他にある程度勢いがあって液状のものを出す感じかぁ……
まさか……
小便を掛けてみた。
ビンゴだ。
人間じゃなくて良かった。
人前で小便攻撃とかしてたら間違いなく変質者としてしょっ引かれるぜ。
もし……人間の女性がこのスキル覚えたりしたら、どうやって使うんだろ?
激しく興味があるな!
溶解は結構使える。
小便をする感じで結構勢いよく飛び出るからジャンプをしてかける感じが一番誤魔化し易いかな? 見られたらそれでも恥ずかしいけどね……
純粋な排泄とはちゃんと使い分け出来るんだろうな?
それ出来なかったら、トイレなんか全部溶かしちゃうよ?
俺は別に関係無いけど。
スライムの上部からかけた溶解液は、スライムゼリーを透過しコアまで溶かす事に成功した。
よし! 攻撃手段も取り敢えず手に入ったし二層へ行くか!
二層へ到着した俺が溶解液でゴブリンと少し強さの増したスライムを相手にしていると一層側から誰かが降りて来てた。
俺って黒猫な訳だし見られると魔物と間違われたら面倒だと思って陰に隠れた。
それなのに気配を感じたのか、まっすぐに俺の隠れてる方に向かって来た。
「あ、あの人は……」
思わず心の声が漏れ出した。
当然聞こえる音は「ニャ、ニャァン」だけどな!
俺にまっすぐ向かってきているのは生前の俺が最後に迷惑をかけてしまった麻宮さんと言う剣道の達人女子大学生だった。
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