第5話 松葉杖に、なりまして。

 それにしても、足が1本使えなくなるだけでめちゃめちゃ不便なもんですなあ。


 ベッドから車椅子に移るだけでもかなり不安定で怖いので、最初はいちいち看護師さんを呼んでましたが、申し訳なくてかなり長いこと逡巡してしまう。


 でも、ほかはともかくトイレは待てないし。動作がゆっくりなんだから、早めにお呼びしないと困るだろうし〜。

 周囲を見てても看護師さんたちは皆さんかなりお忙しそうなので、ほんま申し訳ない。


 でも「お忙しいところすみません」と言うと、必ずニコニコされて、


「いえいえ〜! ちょっとした事でも、すぐ呼んでくれはったらいいですからね」


 とおっしゃる。

 皆さん素敵な仕事人です。これぞプロフェッショナル! 見習わねば。


 そんなこんなで夜も更けまして。

 病棟のどこかから、年配の男性の奇声がずっと聞こえていてなかなか眠れませんでしたが、そんな感じで第1日目がようやく終了したのでした。



 明け方、不思議な夢を見ました。

 不思議というか、とても珍しい夢です。

 もう15年も前に他界した私のネコが出てきました。24年生きて大往生したおばあちゃんネコです。

 結婚前、実家で飼っていたのですが、私に一番懐いていたので一人暮らしの時にも結婚時にも連れてきたネコ。


 出てきたとは言っても、別に私を心配してる様子ではなく、のんきにクッションの上で寝ている姿でした。

 名前を呼んで撫でてやるとめっちゃゴロゴロいってくるんとひっくり返り、いつもみたいにお腹を見せてコロコロしておりました。


 今まで滅多に夢に出てこなかった子です。なんやったんでしょうかね?

 もしも励ましに出てきてくれたのなら、嬉しいですねえ。



 ということで、明けて2日目。

 リハビリでさっそく松葉杖の練習が始まりました。


 さて、皆さん。

 ここでようやく私は気が付きました。1日目に「来るぞ、来るぞ」(アニメ「サスケ」のオープニングか)と待ち構えていた先生は、主治医の先生ではなくてこのリハビリの先生だったのだということに!

 つまり1日目には来られなかった、が正解だったようですね(苦笑)。理由は結局わかりませんでしたが。どういうこっちゃ。

 頭文字がHで外来の先生とかぶるので、暫定的にH2先生とお呼びしよう(笑)。お若くて、とても真面目そうな先生でした。


 さてさて。

 実は大昔、小学生の頃にやんちゃして右足のお皿にヒビが入ったことがあり、松葉杖の経験はありました。

 しかし当時とでは体重も筋力も違います。いや当時でも大変でしたけどもね! 通学に15分かかる道を1時間以上かけて帰っていたような記憶が。松葉杖も当時は木製で非常に重かったし。


 見るに見かねた学校の警備員のおじさんが、おぶって途中まで連れて帰ってくれたことがあります。まあ、今じゃ考えられませんけどもね(通報される……)。


 ムスメはその後、入院のための保証人の所に私の母(つまり彼女からすると祖母)のサインを貰うため学校帰りに実家に行ってくれたり、洗濯物を引き取りに来てくれたり、小柄で細い体で何かと手助けしてくれております。


 凄まじいまでに煮しめられた、最近風にいえば「限界オタク」ですが(親が親だけに・笑)なかなかクールで普段はあまり「寂しい」とかと甘えてくる子ではありません。ですが、さすがに今回は心配してくれた様子。


 コロナのため、ちゃんとお見舞いに来て会って話などはできないのですが、幸い彼女が来るまでに車椅子から松葉杖へ移行していたので、洗濯物の受け渡しで顔を見て、ほんのちょっと話をすることは叶いました。


「骨折した方の足にも、体重の3分の1はかけて大丈夫」との主治医の先生からのお達しで、わりと安心して松葉杖の練習に励んでおります。

 階段の上がり下りが結構大変ね……。

 ということで3日目にして車椅子はやめて松葉杖メインになりました。


 ついでに例の「ガンダム足」も、歩く時以外ははずしてええよと主治医の先生からお許しが出ました。わーい。


 リハビリのH2先生には、


「おしりの筋肉が落ちすぎてますね」(どひー!)


 をはじめ、あっちこっち体が歪んでたりする所を指摘されて、それを補正するための筋肉をつける運動なんかも教えてもらい、なかなか有意義な時間を過ごしております。

 男性は筋肉が落ちにくいのですが、女性はどうしても落ちやすいそうです。気を付けよう。


 松葉杖で院内を歩きながら色んなお話も。

 私が学校司書だと言うと、「うちの奥さん、小学校の先生なんですよ〜」と。

 今は赤ちゃんが生まれてお休み中。聞けば5歳を筆頭にこれで3人目だとか!


「うわ、奥さんめっちゃ大変やないですか〜。私、1人でも大変やったのに」

「実は子供から僕、風邪うつされたみたいで。今日はPCR検査になって…今日もそれでちょっと遅れました、すみません」

「いえいえ〜。子供から来るときっついですよね〜」


 などなど世間話を。

 そこから、だんだん図書館や本の話にもなりまして。


「僕、本とか小さい時ほとんど読めてなくて。奥さんは本好きでいっぱい読むんですけど」

「実は私も子供の頃はあんまり、ですよ〜。病院内には図書室とかあるんですか?」

「一応小さいのはあるんですが、僕らは基本データベースの方から読むので」

「は〜。やっぱり雑誌の論文とか?」

「はい。僕らはほぼそっちですね」


 ほほー。なるほど。

 他にも色々勉強になることをお話し頂きました。


 そうそう、それと。

 食事ですが、やっぱりかなり多かったようです(笑)。

 その後、2日目のお昼になって栄養士さんが来られ、「量はどうですか」とお尋ねに。

 とりあえず最初の夕食はとても多くて残しちゃったことなどをお伝えしたところ、


「そうですよね? あれ、実は若者用のと同じ量になってまして……」と。

「えええ!」


 いやそれは!

 さすがに多いわ!

 いくらなんでも!!


 とか言いつつ、2日目の朝食も昼食もペロリと食べてましたけどね(笑)。

 ともかくも2日目の夜からは年相応なカロリーになりました。


 毎回頂くメニュー表を比べてみましたが、もとは「常2350」。今は「常1700」。

 この後ろの数字が、恐らく1日の総カロリー量なんでしょう。米飯の量で比べると、もとは220gで今は140g。


 あかん、やばかった……!

 入院して、めっちゃデブるとこやったあ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る