第2話 救急車に、のりまして。

 バスにはもう次のお客さんたちが乗り込んできていたのですが、運転手さんたちの判断で、後ろのバスへ移動してもらうことになりました。


「すみません、すみません」


 と私もお客さんたちに頭を下げまくり。

 やがてそちらのバスが発車していきます。


 そうこうするうち、すぐに救急車のサイレンが聞こえ始めました。

 素晴らしい早さです。さすがです。


 救急隊員は女性と男性で、女性の方が先輩格のようでした。おふたりともテキパキと有能そのもの。でも飽くまでも声は優しい方でした。


 座った私のおしりの下に運搬用のシートを差し入れ、2人で「えいやっ」とばかり軽々と持ち上げてストレッチャーへ運んでくれます。片方は小柄で華奢に見える女性なのに、すごい力です。


 ストレッチャーのベッド上で頭だけ上げて、運転手さんにどうにか「ありがとうございました」と声をかけました。

 車内で受け入れ先の病院を探しながら、お2人は素早くバイタルを確認し、状況や既往症などを訊ねてくれました。

 特に後輩らしい男性隊員がずっと傍でデータを取りつつ声掛けをして下さる。それがまためっちゃ優しい。終始穏やかで、とにかく優しい。


(こんなん、絶対惚れるやんなあ……)


 と、ついアホなことを考える。


「この近くだとK病院なんですが、いいですかね」

 女性隊員さんに聞かれました。

「そこなら家から近いですし、普段も貧血で掛かってるので、カルテあります。もう経過観察に入ってますが」

「なるほど。ではそこ行きますね」


 そんな感じの会話をしつつ、救急車のサイレンが今度は頭の上で響き始めました。

 カーテンの隙間から、見慣れた風景が動いていくのを見ていました。


(あ、○○電車の高架下を抜けたな……あ、坂道を登りだしたな)


 なんて考えながら。

 実を申しますと、救急車に乗るのは2回目です。

 以前は結婚の直前ぐらいに、一人暮らしをしていて(猫はいましたが)いきなり腰を痛めまして。

 運ばれたのは今回とは違う病院でした。


 単なるギックリ腰かなあと思っていて、お医者さんすらそう思っていて、入院はしたけど特に何もせずにいました。

 そうしたら、予約が取れなくて長いこと待たされた挙げ句、やっとMRIを撮ったら椎間板ヘルニアだった…というオチがついとります。

 あの時のお医者さん、めっちゃ申し訳なさそうやったなあ(笑)。


 ま、それはともかく。

 私は近所のK病院の救急外来へ搬送されました。地域の総合病院です。我が家は実家の家族も今の家族も、よくお世話になってる所です。

 既往症やアレルギー等々また同じような質問をされつつ、女性の先生から膝の様子を触診されました。


「今の感じだと、骨に異常はなさそうです。でも私、形成外科ですので、整形外科のお医者さんに診てもらいましょう。整形外来が開くまで少し待ってください」

「はい」


 実は形成外科と整形外科の違いがよくわかってないけど、わかったような顔して頷く私(笑)。

 だれか教えて賢い人。


「どなたかご家族さん、いらっしゃれそうですか」

「はい、幸いダンナがリモートワークで家にいますし、近いのですぐ来るそうです」

「あ、それは良かったですね」


 さてさて。

 そうやって待ってる間に、私のスマホに電話が入りました。下4桁が「0110」だったので、警察からなのはすぐ分かりました。


 警察は、「一応事故やなんかだと調査が必要なのでお話を聞かせてください」とのこと。

 まず聞かれたのは、やっぱり「バスが止まっている間でしたか」ということ。


 運転手さんに何らかの過失がないかをチェックしてるわけですね。その場合は処罰や賠償の問題が起こりますので。

 もちろん私は「止まってから、立ち上がったらいきなりなっただけです。運転手さん、なんも悪くないので」とご説明。

 警察官さんはほっとされたようでした。


「そうですか。そばにおった高校生が『ほんまにビキッていった……』って話しとったそうなんで。どうぞお大事になさってください」


 なんとなんと!

 あの高校生さんたち、その場でちょっと事情を聞かれたりしたのでしょうか。登校中にほんま申し訳なかったです。


 そんなこんなで、しばらく待っているとダンナがやって参りました。

 ムスメはもう登校してしまっていて、LI○Eで連絡だけしておきました。


 車椅子に乗せられて、やってきたダンナと整形外科外来で待ちます。


「お仕事は10時からやね。どうするん?」

「ん。もう休みにしたから」

「そうかあ。申し訳ないです」


 私の重たい荷物を持って車椅子も押して、ダンナは大変だったと思います。しかも、あっちもこっちもかなり待たされますしね。

 私はたまたま持ってきていて未読だった「辺境のオオカミ」(ローズマリ・サトクリフ著 岩波書店 2008)を読んでました。

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