第5話 夢の世界

 夜も更け、アモルとエルフは木製のベッドで横になりくつろいでいた。フェンネルのフェンちゃんは、暖炉の温かい火の前で気持ちよさそうにうつらうつらしている。ビックフットのヒヒちゃん、グリフォンのグリちゃんはそれぞれ寝床の森に帰っていた。


 ぱち、ぱち、と薪の燃えはじける音が、物静かな木屋に心地よく響く。


「ふぁ〜………」

「ふふっ、アモル。もうそろそろ寝る?」

「ううん、まだ起きてたい」


 そう言いながら、アモルは母であるエルフに身を寄せる。エルフはアモルを近くへ抱き寄せた。優しい母の温もりが、より眠気を誘う。でも今日は誕生日だから、まだ起きていたい。


「ねぇ………、母ちゃん」 

「ん? なぁに?」

「エルフの国のお話が聞きたい」


 それは母であるエルフから何度も聞いたお話。いつ聞いても、アモルの心を踊らせた。


「ふふっ、エルフの国はねっ」


 母のエルフは微笑み、鈴の音のような綺麗な声で語り始めた。



       エルフの国。

 そこは、花と緑に飾られた癒しの世界。

 涼しい春と暑い夏の季節が訪れる地で、毎年季節ごとに色とりどりの草花を芽吹かせる。

 綺麗な湖や川もたくさんあり、野菜や果物など大地の恵みが豊富だ。


「アモルの好きな果物のケーキがいっぱい作れるのよ」

「うんうん! それっていっぱい食べれるってことだよねっ」

「ふふっ、そうねっ」


 いつものやり取りに、エルフとアモルは楽しそうに微笑む。エルフはまたお話を続けた。


 大地の豊かさに感謝し、守り、育て、暮らしているのがエルフの民達。多くの民家があり、そして大きな建物、お城が存在する。

 

「このお家よりでっかいんだよねっ」

「そうよ。お部屋が沢山あってね。本がいっぱい置いてあったり、ご飯をつくる台所があったり、お勉強するところがあったり」

「うんうん。お勉強………、文字や数字を書いたり覚えたり、だよねっ」

「そうそう。お利口さんねっ」

「えへへっ」


 エルフはそっとアモルの頭をなでつつ、もう一つ付け加えた。


「それから、ケガをした人を治すところもあるわ」


 そう言って、エルフはアモルを優しく見つめる。すると、アモルが嬉しそうに口を開いた。


「ヒール、を使ったりだよねっ」

「ええ、そうよ。アモルも使える回復魔法でねっ」

「うんっ、えへへっ」


 アモルは視線を自分の小さな両手に向けた。淡い緑色をした両手。母であるエルフの細身のなめらかな白い両手とは似つかない。でも、


「む〜ん」


 アモルが小さく念じた。すると、アモルの小さな両手が、皮膚と同じ淡い緑色の光で包まれる。とても綺麗で、煌めいている。

 そこに、エルフの片手が近づいた。同じ淡い緑色の光に包まれていた。


「えへへっ、母ちゃんとおんなじ」

「ふふっ、そうねっ」


 親子は互いの手を握り、嬉しそうに口元をゆるめる。少しして、アモルが小さく口を開いた。


「エルフの国、いつか行ってみたいなぁ」


 丸く大きな瞳は、輝いているように見えた。好奇心という、純粋な光。


「そうねっ、私も行きたい」


 エルフは愛おしそうにアモルを抱き寄せる。


「とっても素敵な国だから。アモルと一緒に」

「うん。すごく楽しみ。南にあるんだよねっ」

「ええっ、そうよ。南の森をずっと進んでいくと、綺麗な草花の道があるの。そこをまっすぐ進んで、その先には」

「エルフの国がある………、母ちゃんが住んでいた国、ふぁ〜………、行って、みたい………」

「そうねっ………、でも、南の森も危険だから………」

「うん………、近づかない。でも、いつかは、行ってみたい………」


 アモルの声がか細くなり、小さい両手の淡い緑色の光が消えた。疲れてしまったのだろう。


 エルフは、小さく寝息を立てているアモルを見つめていた。表情は少し浮かない。

 南の森、ほんとは危険なんてない。アモルが近づかないようにするためのウソ。でも南の森の先に行けば………、アモルに危険が及ぶ。この子は、エルフじゃないから。私達、エルフの敵の姿だから………。でも、


 エルフは我が子の小さな両手をそっと握る。


 淡い緑色の両手。エルフとは違う種族の手。でも、エルフと同じ淡い緑色の光を宿した、両手。ヒールで私の傷を癒した、優しい我が子、アモルならいつかきっと一緒に、エルフの国へ帰れる日が来る。それがいつになるかはわからない。それでも、


「一緒に、幸せになろうね…………、アモル」

 

 小さな両手で見た淡い光に、大きな希望を感じながら、エルフもそっと目を閉じ、眠りについた。エルフの国で、アモルと一緒に幸せに暮らす未来を望みながら。

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混血のゴブリン @myosisann

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