第32話 仲間を頼って前を向く
オークの死骸を前に、妖しい雰囲気を漂わせながら頬を紅潮させてニコニコと笑みを浮かべるアイリーン。
千司はそんな彼女を睥睨し、内心ため息を吐いた。
(まぁいいか)
その後、アイリーンと死骸の処理をしたり、昨夜回収し損ねていた黒装束たちの武器を回収したりしていると、次第に他の面々も目を覚まし始める。
眠気眼を擦り、手櫛で寝ぐせを整えるエリィ。
まだ眠たいのかあくびを噛み殺すセレン。
そしてロイアーが起きたところで、早々に朝食と相成った。
十分ほどで準備されたt料理を受け取りつつ、千司はいただきますと呟いて
「うん、今日も美味いな」
「そりゃあ、よかった。昨日は見張りで迷惑を掛けちまったからなぁ、こういうところで名誉挽回していかねぇと」
「その心意気は買うが、もう過ぎたことだ。次、気を付けてくれたらそれでいい」
「……ありがとよ、ナクラ」
ニカッ、と気持ちのいい笑みを浮かべるロイアーを横目に、千司は食事を続けるのだった。
§
食事を終えた千司たちは、手早く片付けを済ませると、本来の目的であった遺跡の調査へと赴いた。
遺跡調査は、基本的に遺跡内に生息しているモンスターの把握が目的である。
どのモンスターがどの程度生息しているのか。
特殊な個体は生まれていないか。
遺跡内のパワーバランスはどうなっているかなど。
場合によっては強力な個体が指揮を執り、人里を襲うこともあり得る層。それらを事前に防ぐため、いざとなれば討伐も視野に入れた遺跡内部の調査が、今回の仕事である。
来る道中でエリィから聞かされた内容を思い出しつつ、千司たちは遺跡内を歩く。
昨日は到着早々にオークやらゴーストやらと多種多様なモンスターに襲われたが——しかし、本日に至っては酷く静かなものだった。周囲からモンスターの気配は感じられず、千司の剣は未だ腰の鞘に収まったまま。
「……アイリーン、モンスターは見つかったか?」
「いえ、全く。姿も見えませんし、足音も聞こえません。……どうなっているのでしょうか」
千司の問いに首を横に振って答えるアイリーン。
そう、どういう訳か今朝アイリーンが倒したオーク以降、モンスターが姿を見せないのである。
「昨日殺しまくったから、森に逃げた……とか?」
そんな千司の推測を、ぴったり並んで歩いていたエリィが否定。
「その可能性は低いと思う。臆病な小型モンスターならともかく、オークがあの程度で逃げだすとは思えない。仮に逃げたとしても、すべてのモンスターがここまで綺麗にいなくなることなんて有り得ない」
「だよなぁ……」
オークやゴブリンならともかく、ゴーストやそれ以外のモンスターも本日は一匹も見ていない。
千司が頭を捻っていると、それまで周囲をきょろきょろと見回していたセレンが耳元に口を寄せてくる。風呂に入っていない為、かすかに汗の香りが鼻腔を突く。しかし彼女は特に気にすることなく口を開いた。
「奈倉千司。……私は以前、仕事で似たような状況に遭遇したことがある」
「本当ですか?」
「あぁ、その時は強化種の討伐依頼でな。……その道中が、まさしく同じ状況だった。周辺のモンスターが消え、そして強化種の手下になっていた。今回も同じだとすれば——気を付けろ」
「……分かりました。ありがとうございます」
感謝を述べつつ、千司は思う。
(強者に媚びを売るのは人もモンスターも同じという事か。何はともあれ、どうするか――)
逡巡していると、眉をひそめたロイアーが口を挟んできた。
「な~に二人で内緒話してんだぁ?」
「何でもセレンが似た状況を見たことがあるらしくてなぁ、その時は強力な個体が統率していたらしい」
「……マジか。いや待て。それにしちゃあ、昨日はバラバラに襲ってこなかったか? 今朝もアイリーンの姉ちゃんが一匹殺したんだろ? とても統率されてるようには思えねぇが……」
その疑問に答えたのは当のアイリーン本人だった。
彼女は周囲の索敵を続けながら口を開く。
「私たちに負けたから集団として固まった、という事ではないでしょうか?」
「なるほどなぁ、敵の敵は味方。あり得ねぇわけじゃあねぇ。……まったく、面倒くせぇなぁ」
表情を歪めながら空を見上げるロイアー。
そんな彼を横目に、千司は全員に向き直って問う。
「という訳だ。どうする? 正直ここで退いても構わない。明らかに危険だしな。……だが、遺跡調査のことを考えると、どんなモンスターなのかだけでも把握しておくべきだと俺は思う」
千司の考えを聞いて、真っ先に答えたのは青い帽子の魔女っ娘。
「私は賛成。戦う戦わないは敵を見てから決めればいい」
「俺も賛成だなぁ。どっちにしろ危険なのは今までも変わらねぇ。相手は常に未知だ」
「うふふふ、私はどちらでも。皆さんに合わせますよ」
ロイアー、アイリーンと続き、最後にセレンは千司を見つめて告げる。
「私も貴公の判断に従おう」
それぞれの答えを受け、千司は始めから決めていた答えを、あたかもいま考え抜いて決断したかのように演じながら、口にするのだった。
「ならば調査を続行しよう」
方針が決まったところで、丁度アイリーンの索敵にモンスターの気配がかかる。それは遺跡内の中央をまっすぐに伸びる大きな道の続く先——小高い丘の上に建てられた大きな建物からだった。
それを受け、千司たちは先に他の場所をクリアリング。
後ろから奇襲を受けては堪らない。
昼前にはすべての確認を終え、丘へと続く道を行く。
近付いて見えてきた建物は、どこか教会のような荘厳な雰囲気を醸し出している廃墟だった。王都に所在するヘリスト教会に雰囲気は似ている。しかしながら、細部の細かな造りは違っており、それが古代エルフたちの所有物であることを示していた。
丘へと続く道の両脇には小さな川のようなものが流れており、下の遺跡へと続いている。上に湧き水でもあるのだろうか。
そんなことを考えながら、敵に気付かれないぎりぎりのところに千司たちは身を潜める。
ここから先は二手に分かれる算段であった。
機動力のある千司とアイリーンが中の様子を確認に行き、後方でエリィがいざという時の為に魔法の詠唱をしながら待機。ロイアーとセレンはその護衛である。
「行くぞ」
「はい」
短く言葉を交わし、以降はアイコンタクトで教会へと接近する千司とアイリーン。そうして窓の外から中を伺うと、そこに居たのはこれまた懐かしいモンスターだった。
(……オーガか)
教会の礼拝堂と思しき巨大な部屋の最奥で、オークやゴブリンに囲まれつつ肉を食らっていたのは、かつてダンジョンで目撃したことのあるオーガだった。
体格はオーガの平均と比べると二回りほど大きく、精緻な細工の施された大剣を手にしている。しかし強化種と違って肌の色はごく普通。
(ただ単に、少し強いだけの個体ってとこか。気になるのはあの武器だが……)
千司はアイリーンと顔を見合わせて一度頷くと、エリィたちの下へと戻った。
「ナクラ、どうだった?」
無事戻ってきたことに安堵の息をこぼしつつ尋ねてくるエリィ。
そんな彼女に、千司は淡々と答えた。
「オーガだ」
「……っ」
告げた瞬間、エリィの顔がこわばった。
呼吸は浅く、早くなり、手にしていた杖を強く握りしめる。
その様を見て、千司は内心で満面の笑みを浮かべていた。
(そりゃあ、幼馴染くんを殺したモンスターなんだから、トラウマにもなってるよなぁ~)
思い出すのは異世界に来てすぐの頃。
千司が、初めて人を陥れ、殺害した瞬間。
絶望に顔を歪めるイル・キャンドルの首を跳ねたのがデッド・オーガと呼ばれるオーガの強化種だった。
千司としては今思い出しても大爆笑必至の素晴らしい記憶。動画として残していれば、新年を笑顔で迎えるために、大晦日に楽しく視聴していただろう。
閑話休題。
(今回は強化種ではない物の……あぁ、いいよ~いいよその顔! エリィちゃん、今物凄く輝いてるよ! キミは真面目な顔をしてるより苦しんでるときの方がすごく可愛い! これ間違いない!!)
怒り、怯え、恐怖、悲嘆、後悔。
あらゆる感情がまぜこぜになったエリィに、しかし千司は声を掛けない。
何故ならもっと苦しんで欲しいから。
慰めの言葉はまだ言わない。
苦しむエリィを周りにバレないように見つめていつくしんでいると、不意にセレンが話しかけてきた。
「それで貴公、教会に居たオーガの肌はどうだった?」
「通常種と変わりありませんでしたね。おそらく強化種ではないでしょう。ただ、体格は通常よりかなり大きかったですね」
強化種と言うワードに、更にびくりと肩を揺らすエリィ。
ニヤけそうになるのを堪えつつ、セレンとの会話に集中する。
「ふむ……まぁ、強化種でないなら私と貴公の相手ではない。ロイアーの防御、アイリーンの攪乱とエリィの魔法もあるのなら、特段危険はないだろう。……討伐するか?」
冷静な判断を受け、千司は内心で少し驚く。
(この辺りは腐っても騎士団長ってことか。どれだけ馬鹿でも経験は大きな武器になる。……まぁ経験だけじゃどうにもならないことも同時に証明するのがセレンちゃんなんだが)
そんな分析をしつつ、千司は答えるのだった。
「それじゃ、やりますか」
§
作戦は特にいつもと変わらない。
ロイアーが正面で盾となり、エリィが後方で魔法支援。アイリーンが攪乱を行い、千司とセレンが遊撃及びエリィの護衛である。
下手な作戦を打つより、いつも通り戦った方が安全と判断したからだ。
(まぁ、一番簡単なのは教会を壊して生き埋めにすることだが……それじゃあ面白くないしなぁ~)
ちらりと視線を向けた先に居るのは下唇を噛みしめるエリィ。
その表情を見ているだけで心が安らぎ、もっと苦しめたいと思ってくる。
「……それじゃ行くか」
そうして、まずは千司とセレンが教会の周囲で見張りをしていたゴブリンを殺していく。屋根の上にも数匹いたが、これはアイリーンの弓とエリィのウィンド・スラッシュで討伐。
あらかた片付けると、千司は教会の正面の扉に正方形の紙を張り付け、側面に移動。そして——正方形の紙に描かれた魔法陣をエリィに起動させた。
バンッ――と爆音が鳴り響き、扉が吹き飛ばされて砂煙が舞い上がる。
内部に居たモンスターたちがざわつき、正面扉へと意識が向いた瞬間——千司たちは側面の窓を破って強襲を仕掛けた。
驚くオークを千司とセレンが切り殺す。
遅ればせながらも襲撃者に気付き、襲い掛かって来たゴブリンやブラックウルフの攻撃はロイアーが受け、その間を縫って接近してきたゴーストをエリィが魔法で倒す。
(第一段階は成功)
モンスターの数はざっと見た限り五十匹ほど。
数こそ多いが、彼らは人間の軍隊ではない。オーガにより統率こそ取れている物の、集団戦の訓練を行っているわけでもなければ、互いに協力すると言った意思も見受けられない。
ただ自分たちの敵が来たから襲い掛かる。
それだけ。
中には体格のいいオークや、それなりの装備に身を包んだゴブリンの姿も見受けられるが、千司やセレンの相手ではない。ロイアーの防御や、アイリーンの攪乱、エリィのサポートを考えれば、容易に討伐できる。
そんな中、千司は横目にエリィを見つめていた。
彼女は一心不乱に魔法を行使。ゴーストを討伐したり、横合いから千司に奇襲を仕掛けたゴブリンを屠ったり。一心不乱に、目の前のモンスターだけを見つめ——その奥に居る、オーガから必死に目を逸らしていた。
——逃避。
これほどわかりやすいこともない。
何かに没頭することで、嫌なことから目を逸らしているのだ。
(可愛いなぁ、エリィちゃん。でも……)
どれだけ目を逸らそうとも、相手から視界に入ってくることはあり得る。
特に、これだけ押されて尚動かないボスなど、存在しない。
『ガァァアアアア――ッッッ!!』
オーガの咆哮が教会の中を反響したかと思うと、他のモンスターとは明らかに一線を画す動きで千司に迫る。手にしていた大剣を振りかぶり、力任せに叩きつけてくる。千司は咄嗟に剣の腹で受け止めようとして——その前にロイアーが身体を差し込んだ。
盾で受け止め、足を踏ん張るロイアーであるが、次の瞬間大きく吹き飛ばされる。
(……攻撃力はかなり高そうだな)
千司は冷静に分析しつつ、オーガに向き直って剣を振う。が、オーガは素早く察知すると大きく飛び退いた。追撃しようとして——数匹のオークが横合いから襲い掛かってくる。
先ほどまで一部のモンスターを受け持っていたロイアーが居なくなり、抜けてきたのだ。
「ロイアー! 行けるか!?」
「……ぐっ、あぁ! 問題ねぇ!!」
声を張り上げるロイアーであるが、頭を打ったのかどこかふらついている。戦えないことはないだろうが、先ほどまでの活躍を期待するのは酷だろう。
(まぁいい。そんなことはどうでもいい! ……それよりも今はッ)
千司は魔法の援護が消えたエリィに視線を向ける。
すると何という事だろう。
青い魔女っ娘はその顔も真っ青に染めて、震えているではないか。
「ひっ、ひぐ……っ、うぅ……」
情けない声を出してぺたんと座り込んでしまうエリィ。
その姿に自然と下半身に血流が向かってしまう。
(正直、いざオーガを前にしたら怒って恐怖を乗り越えることもあるかと思っていたが……やはりエリィちゃんは素晴らしい!! エロい!! ムラっとくるよねその表情!!)
感動し、心の中で拍手喝采を送っていると、セレンが声を張り上げる。
「っ! くそっ、数が多い! 貴公、手伝え!」
「わかっている!」
即座に思考を切り替えた千司は、セレンと並んでモンスターを切り殺していく。
息の合った動きは、集団戦に慣れていないモンスター共を容易く屠っていくが——その間を抜けたゴーストが触れようと近付いてきた。
「……っ、くそ! エリィは何を——」
そこでようやくエリィが茫然自失していることにセレンが気付いた。
しかし声を掛ける余裕がない。
オークの相手をしていると、隙を突いてオーガが攻撃を仕掛けてくる。仮に直撃を受けたとしても致命打にはならないだろうが、このままではじり貧である。
セレンが歯痒そうにしていると、ようやく復帰したロイアーが千司の受け持っていたモンスターに突進してヘイトを稼ぐ。
「ナクラ! 今のうちに——」
「わかった」
意図を察して短く答えると、千司はエリィの隣に。
茫然としていた彼女はゆっくりと縋るような視線で千司を見上げた。
「どうした? エリィ」
「ぁ、……な、ナクラ……」
彼女は何かを伝えようと口を開閉。
おそらく自身のトラウマ――イル・キャンドルを殺したのがオーガであることを伝えたいのだろうが、言葉が見つからないのか小さな吐息がこぼれるのみ。
そんな彼女に、千司は視線を合わせるようにしゃがんで語る。
「……エリィ。以前に俺が言ったことを、覚えているか?」
「言った、こと……?」
「あぁ。一人で抱え込むのではなく、仲間を頼って欲しい、と」
「……ん」
それはブラックウルフに襲われ、洞窟で一夜を明かした時のこと。彼女の昔話を聞いた千司は、無能なイル・キャンドルのことは忘れて自分たちのことを頼って欲しいという事をオブラートに包んで伝えたのだ。
小さく首肯するエリィに、千司は優しい声色で続ける。
「それは、俺たちも同じだ。正直、エリィが何故ここまで怯えているのか俺には分からない。すまない。……だが、今俺たちは困っている。勝つためにはエリィの力が必要なんだ。だから——」
千司は言葉を区切ると、まっすぐにエリィの瞳を見つめて告げた。
「エリィを——仲間を、頼らせて欲しい」
「……っ」
告げた途端、エリィの目が見開かれる。
唇を噛みしめ、ぎゅっと杖に力を込める。
身体は震えたまま、それでもその瞳は千司をまっすぐに見つめていた。
(ほんっと可愛いなぁ、エリィちゃん)
千司はエリィを睥睨しながら手を差し伸べる。
立ち止まっていた足を、動かすために。
前を向かせて、歩かせるために。
(すべてはエリィちゃんを苦しめるために)
一度絶望を知っている人間は、そう簡単に幸福を受け入れない。だからこそ、近付き、共に過去の絶望を乗り越えて幸せを見つけ——その先に待つ新たな絶望へと導くのだ。
「エリィ」
「……ナクラ」
名前を呟き、見つめ合い。
エリィは千司の——大切な仲間の手を取って立ち上がった。
「……行けるか?」
「……うん。ナクラが、頼ってくれたから。……だから、それに応えたい」
「ありがとう、エリィ」
感謝の言葉を述べ、千司はロイアーとセレンの下へと向かう。
その途中、攪乱で動いていたアイリーンに目配せ。特に言葉を交わすことなく行われたそれに、しかしアイリーンは小さく頷いてエリィの側に立った。
「エリィさん、ここからは私がお守りします」
「え? でも……」
「実は以前から考えていた作戦があるんですよ――」
そんな会話を横目に、セレンたちに合流。
「悪い、遅くなった。大丈夫だったか?」
その言葉に、ロイアーはオークの一撃を盾で逸らしながら答えた。
「あぁ! 問題ねぇ! セレンの姉ちゃんが馬鹿みてぇに強ぇからな!」
「実際馬鹿だしな」
「待て! なぜ今私は罵られたんだ!?」
「事実だからだろ」
「ぐぬぬ……貴公、あとで覚えてろ?」
鋭い視線を向けてきたセレンを適当にあしらっていると、苦笑を浮かべていたロイアーが問いかけてくる。
「それよりエリィの嬢ちゃんは——っ、悪い! ゴブリンが抜けた!」
その言葉に視線を向けると、ロイアーの盾を超えて数匹のゴブリンが千司に迫っていた。千司は現在二体のオークを相手にしており、セレンは接近してきたオーガの対応中。
(蹴り殺すか)
などと冷静に考えていると、不意に千司の
「ふぁ『ファイア・ボール』——ッ!」
瞬間、眼前に迫っていたゴブリン目掛けて火球が降り注ぎ、黒焦げにする。
視線を上へ向けると、そこには教会内を駆け抜けるアイリーンと、彼女におんぶされたエリィの姿があった。
「あ、アイリーン! これ、やば――」
「大丈夫です。絶対に落としませんので」
「そ、そう言う問題じゃ——」
「あっ、次はあのオークです」
「ぐぅ……うぃ『ウィンド・スラッシュ』!」
縦横無尽に三次元的な動きを見せるアイリーンに、エリィは必死にしがみつきながらも魔法を行使。
「凄いな……」
「だがあれなら早々捕まらねぇ! 考えたのはアイリーンの姉ちゃんかぁ? やるなぁ~!!」
称賛の声を上げるロイアー。
事実その通りで、エリィを守ることに割いていたリソースをすべて戦闘につぎ込み、加えてエリィの援護が加わったことで、状況は一気に好転。千司とセレンは瞬く間にモンスターを殲滅していく。
気付けばロイアーが受け持っていたオークたちも殺し——残るはオーガのみ。
爛々と輝く瞳は未だ戦意が失われておらず、大剣を構えている。
だが——勝敗は決していた。
オーガが大きく踏み込み、己が全霊を掛けて剣を振りかぶり接近。それをロイアーは腰を低く盾を構え、真正面から受け止めた。姿勢を安定させて受け止めたおかげで、今度は吹き飛ぶようなことはない。
そうして動きが止まったところを、千司とセレンが駆け抜け――二振りの銀線がその首を切り飛ばす。
頭を失ったオーガの肉体はふらふらと二、三歩進み、手にしていた大剣を落して、教会の床に横たわった。
一瞬の静寂の後、千司は剣を血振りしてから告げる。
「討伐完了。俺たちの勝ちだ」
最後はあっけないものだった。
千司の言葉に各々笑みを浮かべ――アイリーンの背から降りたエリィがひょこひょこと近付き、ぎゅっと抱き着いてきた。
「なっ——!?」
驚愕に目を見開くセレン。
しかしエリィは気にすることなく喜びを千司にぶつけた。
「やった、やったね! ナクラ!」
「あぁ、エリィの援護のおかげだ。ありがとう」
その言葉にエリィは、嬉しそうに――そして照れくさそうに頬染めながら、されど満足気な笑みを浮かべるのであった。
§
(……それで、結局この大剣は何だったのか)
精緻な細工に加えて、あれだけ乱暴に扱われても刃こぼれしない耐久性。
到底野生のモンスター風情が持っている一品ではない。
「……」
千司は念のため手袋をして剣を回収するのだった。
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